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第十八話  アルフォンソ王子の野望

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 光の神を信奉するルス教では、預言者ムサ・イルが残した福音書が重要視されるようになって半世紀ほどが経過しようとしていた。


 信徒を導くためにという理由で法律と見做される領域にまで教義を定義するムサ・イルでは神に絶対服従は当たり前のこと。人々が(死んだ後に)楽園(パライゾ)に行くために何でもするのは当たり前。今、生きている世の中が厳しく辛いものだからこそ、死して楽園を望むのは人の本能のようなものである。


 為政者にとっても宗教者にとっても、

「逆らえば楽園に行けなくなるぞ」

 という言葉は脅迫文として非常に都合が良いものになっている。


 司教たちを取りまとめる役を担ったルイス・サンズがアストゥリアス王国に派遣されたのは十五年ほども前のことである。当時、王太子だったラミレスは帝国との融和を打ち出して、帝国の姫を側妃として受け入れたのだ。

「穢れた血を取り込むなど到底神は許しません!貴方は死しても楽園には行けなくなりますぞ!」

 と、ルイスはラミレスに向かって脅迫したのだが、ラミレスはどこ吹く風といった様子。


 結局、子供まで作った時には教会のあらゆる権力を使って非嫡出子扱いとしたものの、ルイスにとって王国に派遣された時からラミレスは敵と認定しているのだった。


 帝国が力を持ち、北大陸への侵略を考えている今、国を越えて一致団結をしなければならないだろう。ムサ・イル派の長老から他宗教の侵入を阻止せよと命じられているルイスは、帝国人を側妃として迎えたラミレスが非常に危うい存在であることに気が付いた。


 そこで熱心な信者であるシドニア公爵とボルゴーニャの王家を結びつけ、ラミレス王の排除、アストゥリアス王国をボルゴーニャへ併合させることを画策していたのだが・・


「シドニア公よ、一体どうなっておるのだ?娘御が王宮内で不貞をしていたというのは真実なのか?神をも恐れぬ所業であるぞ?」


 アストゥリアス王国とボルゴーニャ王国との国境にある街ラファの大聖堂の中で、ルイス・サンズ司教が厳しい声を上げると、ブラウリオ・シドニア公爵は青い顔をしながら首を激しく横に振ったのだ。


「王の妃となったイスベルが不貞などするはずがありません!」

 実際に娘は堂々と不貞を行っていたのだが、そんなことはおくびにも出さずに、何度も唇を舐めながら公爵は言い出した。


「娘が慈悲を与えた侍女が噂となった近衛部隊長の娘であった為、ゲスな噂が流れることとなったのでしょう」


「ロザリア姫がその近衛部隊長の娘だという話も出ているようだが?」

「まさか!とんでもない話です!」


 侯爵は唇を一文字にした後、自分の胸元を撫で回すような仕草を続けながら言い出した。


「学生時代、確かに娘と近衛部隊長とは仲が良かったようですが、学友だったというだけのことで、皆が嘘偽りを面白おかしく言っているだけのこと。そもそも、ロザリア姫には王家の特徴とも言える金の瞳があるのです。不貞の証などと言い出す者たちは、ロザリア姫の姿を見たこともないような者どもなのですから」


「本当に、ロザリアはラミレス王の娘であるのか?」

 主聖堂の暗い影から出て来たのはボルゴーニャ王国のアルフォンソ王子であり、彼は口元に皮肉な笑みを浮かべながら言い出した。

「私の妻となる女ならば、王族の血は必ず必要になってくるのだがな?」


「それは大丈夫です」

 シドニア公は真っ直ぐにアルフォンソ王子を見つめながら言い出した。

「姫には王族の証でもある金の瞳があるのです、間違いなく、姫はラミレス王の娘であります」

「ならば問題ない」


 アルフォンソはドカリと主聖堂に置かれた木製の長椅子に腰掛けると、長い足を組みながら言い出した。


「アストゥリアス王国を併合するには王家の血が必要、仮令、今は不義の子と蔑まれていたとしても、血筋に間違いがなければ十分に駒として利用できるだろう」


「ラミレス王はロザリア姫の血を疑って幽閉にするという話も出ているではないですか?」

 自分の計画が頓挫することにもなるため、ルイス・サンズ司教が苛立ちを含めた声で言うと、アルフォンソは肩をすくめながら言い出した。


「ちょうど良いからその噂をこちらも利用してやれば良いだろう。『不貞の証』というレッテルを貼り付けられた悲劇の姫を救い出すため、私はアストゥリア王国の王都、カサレスを目指そう。姫を私の妻として身請けして、ボルゴーニャ王国へと移動するのでどうだ?」


「不義の子であると言われるロザリア姫をボルゴーニャに連れて行ってどうするのです?」

 司教の質問にアルフォンソは笑顔で答えた。


「王族の瞳を持つロザリアは、誰が何と言おうと、アストゥリアス王家の者である。ロザリアが居なくなった後、ハビエルが王位を継いだとして」


「「蛮族の血を引く王子を国王の座に据えるなどとんでもございません!」」


 声を揃えて憤慨する司教と公爵を満足そうに見つめたアルフォンソは言い出した。

「であるからして、正当な王位継承権を持つロザリアの登場となるわけだよ」


 アルフォンソの構想の中では、大軍を率いた状態で正しき血統の女王を擁立すれば、多くの貴族がこちら側に就くものと考えている。


 司祭たちが非嫡出子扱いとして決めたハビエル王子が、王位継承権を勝ち取ることなど出来やしない。ルス教は法律と見なされる域にまで教義で定義している関係から、多くの国々が律法的側面で雁字搦めとなっているのだ。


 だからこそ、帝国の血を引く王子が浮かぶことはない。

 アドルフォ王子を排除出来た時点で、ボルゴーニャ王国の第一王子アルフォンソの勝ちは決まったようなものなのだ。


「ロザリア姫が私の妻となるのは決まったこと」

 不義だの、不貞だのは関係ない。

 ロザリアに金の瞳がある限り、アルフォンソにとって貴重で重要な駒となることが決まっているのだから。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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