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第十六話  エルの疑問と宰相補佐の丸投げ

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「正妃であるイスベル妃をロザリア姫は憎んでいるって本当に?」

 留学生のエルは驚愕を露わにしながら後ろに仰け反っている。


「イスベル妃が息子のアドルフォ王子だけを溺愛して、ロザリア姫には見向きもしないと言うのは有名な話ではないですか」

 グロリアが呆れたように言うと、

「でも、ロザリア姫は次の女王様になる人でしょう?」

 と、エルが疑問を口にする。


「確かに、イスベル妃殿下とシドニア公爵はロザリア姫を女王にして、隣国ボルゴーニャの第二王子であるアルフォンソ殿下を王配にしようと企んでいるんです」


「ボルゴーニャ王国は第二王子をアストゥリアス王国の王配に差し出すということなのかい?」


 エルの疑問にペネロペはあっさりと答えた。


「軍人肌のアルフォンソ王子は、王配になった後は即座にアストゥリアスの軍部を押さえるつもりなのです。アストゥリアスをボルゴーニャ王国に併合して、帝国を迎え撃つための力とする。併合後の地位を約束された公爵とお妃様の悪巧みを姫様が盗み聞をしていたようで、この事は宰相閣下にも報告済みです」


「今、私にその話をするということは、シドニア公爵に対抗する勢力として、我がバシュタール公爵家を使いたいということになるわよね?」

 カルネッタの問いかけに、無言でペネロペは微笑を浮かべた。


 ここで公言することは出来ないけれど、ラムレス王は、帝国の血を引くハビエル王子を次の王様としたいのだ。だとするのなら、カルネッタの生家であるバシュタール公爵家や、グロリアの生家となるカサス侯爵家には、シドニア公爵と敵対してもらった方が良いだろう。


「いくら対抗勢力を集めたところで、シドニア公爵の天下は続くんじゃないのかな?」

 留学生であるエルの問いに、

「トラスタエラ公爵家を味方に引き入れることが出来たら、シドニア公爵家など問題にもならないのではなくて?」

 と、グロリアが言い出した。


 アストゥリアス王国には三つの公爵家が存在する。イスベル妃の生家であるシドニア公爵家と、カルネッタ嬢の生家であるバシュタール公爵家。そして、カルネッタに婚約破棄を宣言したクリストバルの生家であるトラスタエラ公爵家の三家でアストゥリアス王家を支えている。


「実はクリストバル小公子が溺愛している男爵令嬢は、シドニア公爵が差し向けた令嬢だということが判明したのよ」


 グロリアの説明によると、アドルフォ王子が浮気をしていた子爵令嬢もまた、シドニア公爵が差し向けた令嬢ということであるらしい。


「婚約破棄から何とも言えない違和感を覚えていたので、かなり詳しく調べて貰ったの。どうやらシドニア公は、カルネッタ様とクリストバル様が結婚することによって、二つの公爵家が手を組んで、自分の敵対勢力になることを危険視したのだと思うわ」


「それでは、なんでアドルフォ王子の後ろ盾となるグロリア様を、婚約破棄を使ってシドニア公爵は排除されたのでしょう?」

 カルネッタの質問に、グロリアは笑顔で答えた。


「先ほどペネロペが言っていた通り、アドルフォ殿下ではなくロザリア姫を女王とした方が都合が良いと考えたからでしょうね。小賢しいにも程があると思わない?」


 その時のグロリアの笑顔は、まるで悪の花が咲き誇るような強烈な魅力に溢れるもので、留学生のエルはごくりと唾を飲み込んだし、ペネロペとカルネッタは互いの顔を見合わせて、憧れの先輩の極上の笑みに頬をポッと染め上げていたのだった。


「ロザリア姫の了承が得られるのなら、離宮で囁かれてきた噂話を利用しましょうか」


 グロリアはそう言ってペネロペとカルネッタの方へ目を向けると、

「宗教問題も一気に片付けるつもりだから、そのつもりでいてね」

 と、二人に向かって言い出したのだった。



     ◇◇◇



 自分の執務室の隣にある応接室へ婚約者であるペネロペを招き入れたアンドレス・マルティネスは、大きなため息を吐き出しながら頭を左右に振っている。


「君が、グロリア嬢やカルネッタ嬢と練り上げた作戦とやらは、あまりにも過激すぎるんじゃないのだろうか?」


「平和な時代であれば問題があったでしょうが、帝国が北大陸への侵攻を開始しようという今の時勢であれば、過激でも何でもなくなりますよ」


 その作戦は、うまく纏まれば最短で問題解決に結び付けられるだけでなく、周辺諸国との同盟を進めるきっかけにもなるだろう。


 だがしかし、その根底にあるものが、嘘に嘘を固めた、大嘘のてんこ盛りで、その上に成り立っているようなものでもあるため、

「私の独断では到底決められない」

 アンドレスはうめき声をあげるように言い出した。


「国家を巻き込んだ大嘘となると思うのだがね?」

「世の中には三つの嘘があるわけで」

「怖いっ!これを『策略』とか『計略』の一言でまとめて終わらせようという力技が怖い!」

「時の為政者とは皆、同じようなことをしているわけで」

「無理!無理!無理!」


 いつもは偉そうなアンドレスも、ペネロペが持って来たネタがネタだけに、微かに身震いしている自分にも気が付いていた。


「だけどね、考えてみてくださいよ。多くの人の命を救い、王国を滅亡から救うためには、必要な嘘だと思うんですけどね〜」

「とりあえず、この案件は上まで持って行くことにするから、それまで行動は控えるように令嬢達にも言ってくれ」

「私はどうしたら良いのでしょうか?」

「君は・・・」


 アンドレスはまじまじと、目の前に座る年齢の割にはまだ幼さが残るペネロペの顔を見つめたのだった。

『はい、嘘です』

 国王陛下にさえも、嘘を見抜いてその心の中を丸裸にしたペネロペは、今度は世界を巻き込んだ大嘘に加担しようとしているわけだ。


 話を持ち込んできたのは、バシュタール公爵家の令嬢カルネッタであり、計画はグロリアが練り、実行に移すのがペネロペだというのだから恐ろしい。


「君には罪悪感とかそういうものは湧かないのか?そもそも、ロザリア姫が息を吸って吐くように嘘を吐くことに、あれだけ心を痛めていたというのに、今は君自身が、世紀の大嘘に加担しようとしている。宗教絡みは恐ろしいんだぞ?本当にわかっているのか?」


 ペネロペは右手に嵌め込まれた金の指輪を撫で回しながら言い出した。


「もしもの時には指輪に魔力を流して呪術刻印を起動させますよ」

「死なば諸共というのはやめてくれないか?」

「何故ですか?もしもの時にはこの指輪を起動しろと言ったのは宰相補佐様じゃないですか!助けてくれるわけでしょう?」


「そうかもしれないけれど!ここまで事態が悪化するとは思っていなかったんだ!」

「悪化じゃないですよ!前進です!前進!」

「怖い、怖い、怖い、どうしてこんなことになってしまったのだろうか?」


 どうしてそんなことになったのか、それは、宰相ガスパール・べドゥルナが正妃に扇子で殴られたから。


 どうして宰相が扇子で殴られたのか?それはアンドレスが大嘘をつくロザリア姫を何とかしようと考えて、姫の離宮までペネロペを連れて行ってしまったから。


 何故、アンドレスがここまで困り果てることになったのかと言えば、宰相に丸投げされた案件をそのままペネロペに丸投げしたからに他ならない。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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