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第十一話  嘘をつく女

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 イスベル妃の伝手でロザリア姫の離宮に専属侍女として仕えることになったイバナ・エトゥラは、花嫁としての箔付のために王宮への出仕を決めたのだが、

「いくら箔が付くと言っても、この安月給が到底、我慢出来ないんだけど」

 と言う彼女の発言から、周囲もイライラするようになったのだった。


 ロザリア姫の離宮は、イスベル妃の差配によって侍女頭が入れ替えとなって以降、とっても働きやすい環境になっていた。おしゃべりをしても文句も言われないし、姫様の世話が中途半端でも問題ない。


 姫様は癇癪を度々起こしたけれど、イスベル妃が無視をしている状態なので何の問題にもならない。国王陛下がロザリア姫に関心がないのは周知の事実であるため、彼女の発言など誰も彼もが耳を傾けないような状態だったのだ。


「ねえ、私に考えがあるんだけど」

 姫の所為で一人の侍女が牢屋に押し込まれることになった時に、

「姫様自身が私たちに信用も置けないし、物を盗むような人間だと思っているのなら、それを利用してやれば良いのよ」

 イバナは皆を集めて言い出した。


 姫に嘘をつかれた仲間の侍女が牢屋へと連れて行かれた後に、侍女仲間たちで冤罪を晴らすために、姫が盗まれたという宝石を探し続けた。そうして、見つけ出した宝石を姫の枕の中にイバナは入れて、姫が宝石を見つけたところで侍女頭に報告をする。


 まさか自分の枕から宝石が出て来るとは思わない、驚く姫の顔を見て、イバナは胸がスッとするような思いを抱いたのだった。


 侍女の盗みで大騒ぎになったものの、牢屋に入れられた侍女は冤罪をかけられたことが証明され、これが姫の虚言癖が衆知の事実となるきっかけとなった。


 そうして、わざと宝飾品を隠すようなことを続けて、姫が大騒ぎする中、少しずつ、引き抜いた宝飾品を外に売り払っていく。


 姫が大騒ぎしたところで誰も気にしない。イスベル妃はアドルフォ王子が廃嫡処分となってそれどころではないし、国王陛下はそもそも、ロザリア姫が存在すること自体を忘れているのかもしれない。


 姫は次々と侍女たちを解雇していった為、最後の一人となったイバナは悲劇のヒロインさながらの状態で、

「本当に姫様の我儘は大変そうね」

「大丈夫?」

「何かあったら愚痴程度なら聞くからね!」

 と、周りから気遣われる日々が続いたため、イバナは、気分よく毎日を過ごしていたのだった。


 イバナは恋人のセルジオと共謀して、最後は多めに宝石を盗んでしまおうと考えた。


 隠しポケットに入れて運べば問題ない。今では誰もが姫の言葉など聞かないのだから、何の問題もない。いつものように、ロザリア姫を悪者として仕立て上げれば何の問題もないと思っていたら、

「姫様は明らかに嘘をついていません!」

 見たこともない侍女が、姫を庇うようにして断言してきたのだ。


 そこからイバナが捕まるのはあっという間のことであり、

「仕方ないわね。ポケットに入れていた宝飾品は、私が直接、貴方の娘に下賜したということにしておいてあげるから」

 と、イスベル妃が言い出さなければ、イバナは良くて毒杯、悪くて絞首刑となっていたことだろう。


 近衛第二部隊の部隊長である自分の父とイスベル妃がかなり懇意な間柄なのは有名な話であり、近々、恋人のセルジオも無罪放免となる予定でいるのだ。


「ああ、イスベル妃殿下が居て本当に良かった!」


 イスベル妃がロザリア姫と会おうと希望をした際に、姫は泣いて嫌だと言い出した。その姿を誇張してイバナが妃殿下に伝えており、以降、妃殿下はロザリア姫を自分の視界にも入れていない。


 ああ、あの時の自分の行動は間違っていなかったのだと安堵のため息を吐き出しながら、イバナは自分の屋敷のベッドにごろりと転がって目を瞑った。



        ◇◇◇



「姫様の宝石を盗んだ奴らが、そもそも罪に問われていない?」

 婚約者としてアンドレスにお茶会をセッティングされたペネロペは、離宮から侯爵邸へと移動をして、嫌々サロンの席に着いたのだが、

「普通なら死罪で決定の案件ですよね?」

 と、思わず目の前に座るアンドレスに問いかけると、

「だから非常に問題なのだ」

 と答えて、アンドレスは大きなため息を吐き出した。


 ガラスで囲まれたサロンは心地よい日差しが差し込み、花瓶に生けられた絢爛豪華な花々は瑞々しく咲き誇っている。テーブルの上に置かれたケーキスタンドには宝石のように鮮やかなケーキが並び、先ほど侍女が淹れてくれたフレーバーティーが、鮮やかな朱色となってカップで湯気を立てている。


 まるでお伽話から抜け出てきたようにも見える、天才彫刻家が作り上げたかのような、美しくバランスがとれた男は紅茶を一口飲みながら言い出した。


「死罪がイスベル妃の意向一つで簡単に覆るようでは困るのだ。ここで、女性らしい一手で相手を窮地に追い込みたいと思うのだが、婚約者殿の意見を是非とも聞いてみたいと思ったものでね」


「えーっとですね、婚約者とのお茶会の話題にしてはヘビー過ぎるのではないですか?普通、婚約者との話題って、流行の劇の感想だとか、流行の小説を読んだ意見の感想だとか、流行のカフェの感想だとか、流行の服飾店の感想だとかを言い合ったりするじゃないですか?」


「君は、元婚約者のフェレ・アルボランと流行を追いかけた話題しかしていなかったのか?」

「そうですけど」

「くだらん」


 アンドレスから一刀両断を食らったペネロペは口をへの字に曲げた。


「そもそも、あの男が流行を追った話題をしていたと言うのなら、その時に付き合っていた女と交わした戯言を君との会話に転用しただけのことだろう。流行のカフェ?流行の服飾店?君は彼とそのカフェやら服飾店とやらには一緒に行っていたのか?」


「いえ、行っていません」

「であれば、奴は、浮気相手とデートした場所の感想を述べたに過ぎん」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」


 ぐうの音も出ないとはこの事だろう。


 ペネロペとしては、四歳歳上のフェレは何でも知っている!格好良い!さすが年上!という感想しか持っていなかったのだが、これが浮気相手と共に得た情報だとするのなら話はガラリと変わってくることになる。


「彼が私を楽しませるために色々と調べて来てくれたのだと思ったのですけど?」

「だがしかし、言われた流行のなんとかに一緒に行ったわけではないのだろう?」

「行ってないです」

「そりゃそうだろうな。他の女と一緒に行った場所になど連れて行って、自分の浮気がバレるようなことになったら困るだろうからな」


 アンドレスは長い足を組み、ペネロペの新緑の瞳を見つめながら言い出した。


「私は耳当たりの良い情報を垂れ流すだけ垂れ流して、後はお一人で楽しんで来てください。友達と行っても楽しいと思いますよ?学生の身分だったら時間もあるだろうし、自由に時間を使えば良いでしょう。という酷いことは言い出さない」


 何故だろう?アンドレスの言葉を聞いているだけで、ペネロペの胃がキリキリ痛くなるのは何故なのだろう?


「婚約したのであれば、安全な場所に最高級の菓子を用意してもてなそう。安い焼き菓子程度を用意して、ここが美味いのだと聞いてわざわざ用意した等というシケた事など言い出さない」


 この人は、フェレとペネロペのお茶会を、過去にその目で見たことでもあるのだろうか?確かに、互いの家でお茶会を行うことになったのだが、アルボラン伯爵家で出されるのはいつでも見た目も地味な焼き菓子のみだった。


「私は決してケチではないので、最高級の品で君を出迎える。一回目のお茶会の記念として君へのプレゼントも用意している。良かったら受け取ってくれたまえ」


 プレゼントは、刻印入りの鮮やかなエメラルドが並ぶ、金の指輪だった。


「それでは君との会話を楽しもうか?調子に乗っているイスベル妃をギャフンと言わせるには、どうしたら良いと思う?」


 うっとりとしかけたペネロペは、即座に口をへの字に曲げた。


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