番外編 14 アイタナの復讐
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侍女のアイタナには妹が居た。十歳も年が離れた妹で、セグラ男爵家の娘の中では一番の美人と言われるような妹だった。貧乏男爵家に四女として生まれた妹は、幼馴染の商人の息子の元へ嫁入りする予定だったのだ。
それは誰もが認める幸せなカップルで、アイタナは妹の結婚式を指折り数えて待っているような状態だったのだが・・
「ねえ、アイタナ、貴女ってあんなに可愛い妹が居たのね?なんで私に言わないの?」
レンドイロ伯爵家の令嬢アデライダは専属侍女であるアイタナに向かって、ニヤニヤ笑いながら言い出した。
「貴女にあんなに可愛い妹が居ただなんて知らなかったわ!」
「お・・お嬢様・・」
アイタナはアデライダに縋り付きながら言い出した。
「お願いです・・お見逃しください・・お願いです・・」
「何故?何故見逃さなければならないの?」
アデライダは自分よりも身分が低く、美しい女が大嫌いだった。彼女が気に入らないとなったら、あらゆる手段を講じてでも捕まえて、破滅していく姿を眺めながら悦にいる。
結局、数日後に妹は行方不明となり、十日後に死体となって川に浮かんだ。
「司教様たちはとっても楽しんだそうなのよ?」
アデライダはニコニコ笑いながら言い出した。
「尊き方々を存分に楽しませることが出来たのですもの、きっと楽園に向かうことが出来たでしょうね」
俯いたままのアイタナは唇を噛み締めながら目を瞑った。
「アイタナには感謝して欲しいほどだわ!」
アデライダがマルティネス侯爵家の次男の元へ嫁ぐことが決まった時に、アイタナは今までアデライダが破滅に追い込んで行った令嬢たちの名前を記した紙をレンドイロ伯爵に差し出し、
「王都の社交界では、お嬢様の悪行が影で広まり始めております」
と、申し出た。
「今のところマルティネス侯爵家の領地にまでは届いていないでしょうが、こちらのフォローをするためにも、私がお嬢様に同行する形が良いかと思うのですが?」
「うむ・・そうだな」
アデライダが破滅に追い込むのは爵位が低い者ばかりなので、多少の圧力をかければ被害を受けた家族は黙りこむ。
そうして被害者家族が黙り込んだとしても、あらぬ噂というものは広まるものなので、嫁いだ先でのフォローは必要となるだろう。
「それではアイタナ、お前はアデライダの輿入れ先に同行しろ」
伯爵に命じられて、アイタナは専属侍女としてアデライダについていくことになったのだ。
「なんで私がアンドレス様の花嫁になれなかったの?」
「イグナシオ様ってニコニコ笑っているだけで、頭の中身が軽いのじゃないかしら?」
「能無しの妻になる私の不幸、アイタナには理解できるわよね?」
何があってもニコニコと笑うイグナシオをアデライダは能無しと断じているけれど、アイタナはそんな風には思えない。子供を産んだ後も、以前のままの生活を維持しようとしたアデライダは一切の子育てに関わらない。
そうして、離れ家に女性の姿が感じられるようになった時点で、アイタナはイグナシオの元を訪れたのだった。
「イグナシオ様、もしもアデライダ様を排除されようと考えているのであれば、私もそれに加わりたいと思います」
自分の妹が被害にあったこと、多くの女性が涙を流したこと。その被害女性の名前を書いて渡したところで、イグナシオは、
「そうか、君は復讐のためにアデライダに付き従っていたのだね?」
と言ってにこりと笑みを浮かべたのだった。
王都にあるマルティネス侯爵家の本邸にアイタナが訪問すると、待ち構えていた様子のイグナシオがすぐに応接室へとアイタナを案内した。そうして、金貨が詰められた袋をテーブルの上に置いた為、
「いいえ、これは貰うことは出来ません」
アイタナは首を横に振って辞退をした。
「あの茶会で、まさか新人のメイドを潜り込まれて熱湯の紅茶を用意させていようとは思いもしませんでした。プリシラ様が火傷を負ったのは私の罪ですので、そのようなものは受け取れません」
アイタナもまた、アデライダがプリシラを傷付けないように細かい気配りをし続けていたのだが、あの時は体調を崩してお茶会の補佐をすることが出来なかったのだ。
「プリシラを傷つけられないのはアイタナが邪魔をしているのだと、彼女は考えていたみたいなんだ。だから君は、アデライダに毒を飲まされていたんだよ」
「なっ!」
アデライダが媚薬や軽い毒物を平気で他人に使用することは知っていたけれど、まさか自分に使われるとは思いもしない。驚愕を露わにするアイタナを見て、イグナシオは小さく肩をすくめてみせた、
「大丈夫、君が毒を含んだのは一度や二度程度のもので、体自体、今は問題ないはずだ。アデライダにとって、君が居ない茶会でメイドを潜り込ませるのは簡単なことだっただろう。ちなみに熱湯の紅茶を用意したメイドだけど、アデライダ自身によって領地からの追放処分を受けている」
「酷いことを・・」
追放処分となれば、家族との縁も切られているのだろう。女ひとりが追放されたとなれば、野垂れ死ぬ未来か、誘拐されて娼館に入れられる未来ばかりが思い浮かぶ。
「君がプリシラを守ってくれたのは勿論のこと、君が用意したアデライダの過去の詳細な悪事は十分な証拠として採用されることになったんだ。あれほどスムーズにアデライダの処遇が決まったのは、全ては君のおかげだよ」
「はあ・・そうだったら良いのですけど・・」
「それで?ペネロペ様をやれとけしかけたのは君なのだろう?」
「けしかけたというか・・」
浮かない表情を浮かべていたアイタナは、気を取り直すようにしてピンと背筋を伸ばすと、畏まった様子で言い出した。
「私は侯爵家当主が年若い女性を妻としてお娶りになったということと、最近の新聞の内容を少々、世間話程度でお話ししただけのことでございます」
「うん・・それで良いんだよ」
イグナシオはアイタナの前に金貨を押し出しながら言い出した。
「これは君への報酬だ、素直に受け取りなさい」
アイタナは逡巡した後、下を俯きながら金貨が入った袋に手を伸ばしたのだった。
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