番外編 11 本当の夫の姿
昨日、番外編・八話を更新するのを忘れて、慌てて投稿しています!
こちらを読んでいない方は、確認頂ければ幸いです m(_ _)m
ここに来て、アデライダは自分の夫が自分の思うような凡人でもなければ、ひたすら人の良い男でもないのだということに気が付いた。
アデライダは侯爵家の当主であるアンドレスと結婚できないことに苛立ち、結婚相手となるイグナシオを心から愛することなど一度としてなかったのだが、イグナシオもまた、アデライダのことなどカケラも愛してなどいないのだ。
ニコニコ笑っているのはいつものことだけれど、彼の目はいつだって笑っていやしなかった。それが貴族らしいと言えば貴族らしいことだけれど、彼の感情の動きというものをアデライダは今まで見たことがない。
「大人しくしているのなら、もうしばらくの間は飼ってやっても良いと思っていたのだが・・」
外に出た扉の音を聞きながら、射抜くような瞳をイグナシオはアデライダに向ける。
「プリシラの火傷はやり過ぎた。熱湯の紅茶をわざわざ彼女にかけるだなんて、正気の沙汰とは思えない」
「プ・・プリシラですって〜!」
エレハルデ子爵家の娘であり、未婚で嫁き遅れの令嬢。薬にばかり興味があって、満足に着飾ることも出来ない田舎女の名前が何故、今、ここで出てくるのかが分からない。
「君は知っていたかい?君が産んだ後は放置し続けているイラリオだけど、プリシラ・エレハルデのことを『ママ』と呼んでいるんだよ」
イグナシオはくすくす笑いながら言い出した。
「イラリオは呼吸器が弱く、高熱を発しやすい状態だったんだけど、そんなイラリオの治療と看病を献身的に行ってくれたのがプリシラだったんだ」
アデライダの手がどんどんと冷たくなっていく。
「家令がどれだけイラリオに会いに行けと言っても、君は一度も会いに行こうとはしなかった。それが王国の方式で田舎に合わせる気などさらさらないんだっけ?母親が恋しいイラリオは、泊まりがけで面倒を見てくれるプリシラこそが自分の母親だと思ったんだ」
「あなた・・よくもそんな息子の世迷いごとをそのままにしたものね・・」
「世迷いごとでも何でもなく、僕自身も、プリシラとイラリオの三人で過ごす空間を愛するようになってね。君は僕らに興味はない、勝手にやっているのだから、僕らだって勝手にやっていても問題ない」
そうしてイグナシオは恐ろしい笑みを浮かべながら言い出した。
「だけど、君はプリシラへの虐めをやり過ぎた。自分のママが酷い火傷を負って帰ってきた時のイラリオの悲しみなど、君には想像出来ないだろう?」
「ママは私よ!イラリオを産んだのは私なのよ!」
「直接産まなくても、愛情さえあれば本物の親子になれるものなんだよ」
再び扉が開く音が響くと、大きな麻の袋を持った数人の男たちが現れる。その男たちに少しだけ待つように指示を出すと、イグナシオはアデライダの方を振り返って言い出した。
「君はこれから罪人としての焼印を入れられ、平民として放逐されることになるんだけど、そんな君を哀れに思った人々が、君を保護しようと名乗り出てくれたんだ」
「保護ですって?」
焼印を入れられる屈辱も信じられないことだけれど、保護?この尊い身である私が保護されるの?
「今まで君におべっかを使って来た貴族たちが保護しようなんて考えているわけじゃないよ?反対に、今まで君に対して恨みに思ってきた貴族たちが君を保護しようと考えているんだ」
「恨み?私、恨みなんて買ったことはありませんけれど?」
「よく言うよ」
イグナシオは呆れたように笑い出す。
「君は学園に通っている当時から、身分も低い令嬢たちを餌食にすることを好んで行っていた。餌食とされた貴族令嬢の中には自殺をした者も居るし、領地で引きこもりとなっている者も居る。そんな彼女たちの親や兄弟が君を恨まないわけがないだろう?」
「な・・何を言っているの?」
「大丈夫だよ、君が妹のように可愛がったマカレナ嬢が連れて行かれた場所だから。彼女の頭も相当おかしくなっているようだが、先輩として君に指導くらいはしてくれるだろう」
「あ・・貴方・・さっきから何を言っているの?」
アデライダが呆然としている間に、縄と麻の袋を抱えた男たちが牢屋の中へと入ってくる。
牢屋の中で逃げ回ったアデライダはあっという間に男たちに捕まることになり、後ろ手にされて縄で縛り上げられていく。
そうしてドレス生地に手をかけられたかと思うと、ビリビリビリッと音を立てて背中のドレス生地が破られていく。
「キャーーーーーッ」
「焼印は背中に入れるから、ドレスが破られるのは仕方ないよ」
「イヤーーーーーッ!」
「そう叫んできた淑女たちが餌食になるのを楽しみながら眺めて来たんだろう?」
布を噛まされ、麻袋で視界が覆われていく中、
「大丈夫、君のお仲間とやらは、王都の人間も領地の人間も、裁きを受けることになるだろう。そのうち、君のお仲間とやらも君が送られる場所に送られることになるだろうから、何も寂しいことはないだろうさ」
というイグナシオの楽しげな声が響いていたのだった。
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