番外編 10 牢獄にて
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薄暗い牢獄を正装姿のまま移動して来たのは、アデライダの夫であるイグナシオと、アデライダの実父となるレンドイロ伯爵で、
「イグナシオ様!お父様!助けてください!」
アデライダが鉄格子を掴みながら必死の声を上げると、暗い眼差しとなった伯爵は、
「アデライダ、自分の今いる立ち位置を十分に理解しろと私は確かに言ったよな?」
と、怒りで顔を真っ赤にしながら震え出す。
「お父様、立ち位置って何でしょう?どういうことでしょうか?」
「アデライダ、お前は自らワインをかぶり、ペネロペ様を陥れようと企み、哀れな素振りで涙を流した。ペネロペ様を悪者とすることで、後ろ盾と言われるグロリア妃殿下にミソを付けようとした。何故、ハビエル殿下と妃殿下に仇なすようなことを企んだのだ!」
企んだのだ!と言われたところで、それが必要だと思ったからこそ行ったのだ。他人を陥れることはアデライダにとって息を吸って吐くように簡単なことであり、今回も全ては上手くいくはずだったのだ。
「アデライダ、君は勘違いしているよ」
イグナシオはいつもと同じように、ニコニコと笑いながら言い出した。
「今日のペネロペ様のドレスは、我が侯爵家の象徴とも言えるマルティネスブルーのドレスなのはもちろんのこと、肩から胸元を覆うレースは帝国産のものであり、そこに施された龍の刺繍は、皇帝の許し無くして使えるものではないんだよ」
「はあ?龍の刺繍?何かの刺繍はされているように見えましたけど、そこまで詳細に確認しているわけがないじゃない!」
「その刺繍は皇帝の庇護下にあると指し示すものであり、ハビエル殿下の妃となるグロリア妃殿下もまた、全く同じものを着用されていたのだよ」
「グロリア・・妃殿下?」
アデライダの鉄格子を掴む手に力が入る。
「グロリア・カサスはまだ婚約者身分では?」
「すでにお二人は籍を入れられている。兄と同じく、今は戦争が終わったばかりの不安定な時期であるため、披露目などの儀式は後で行うことになっているんだ」
真っ青な顔で震えながら伯爵は牢の中の自分の娘を見ると、
「ラミレス王は、正式にハビエル殿下を王太子にすると、皇帝の目の前で宣言された」
と、告げてきた。
「グロリア妃は甥の妻となったのだ。皇帝が守りたいと思うのは当たり前。更には、皇帝自らがマルティネス侯爵夫人が自身の最愛の妻を救ったのだと発表された。全貴族の前で、ラファ皇帝は二人の貴婦人を傷つけることは帝国を敵に回すのと同義であると宣言された」
「我がマルティネス家は据え置きのまま、カサス家の陞爵が決まり公爵位を賜ることが決まったよ」
今まで俯きながら話を聞いていたアデライダは、怒りに肩を震わせながら憎々しげにイグナシオを睨みつける。
「そうなると、アストゥリアス王国は帝国の属国となるのでは?我が国は帝国の支配下となるのでしょうか?そんなこと、決して司教様はお許しになりませんわ!」
「その司教たちは、悪事がバレて死んでしまったではないか」
イグナシオはいつもと同じようにニコニコ笑いながら言い出した。
「そもそも、アストゥリアス王国まで支配下に置く余裕が帝国にないのは間違いない事実となる。そのため、王国と帝国は今まで以上の深い友好関係を結び、お互いに協力をしていくことになったんだ」
「なんで・・だからって・・何もしなかったハビエル王子が王太子だなんて・・」
「ハビエル殿下は今まで公にされてはいなかったけど、魔法王国サラマンカで認められた大魔法使いなんだよ」
イグナシオはいつものようにニコニコ笑う。
「ボルゴーニャ王国との戦争をこう着状態にまで持ち込んだ闇の魔法使いキリアンを倒したのは殿下だし、混乱するボルゴーニャの王都トルンを戦後、支配下に置いたのもまた殿下なんだ」
ニコニコ笑ういつもの夫の顔を見ながら、アデライダは何とも言えない不安に心の中が蝕まれていくことに気が付いた。
軍人である兄のアンドレスとは違って文官気質のイグナシオは、激昂するところなど想像することも出来ないような温和な性格の人間であり、アデライダの言うことなら何でもきいてくれるような人だった。
常にニコニコ笑う夫だったけれど、こんな時にまで同じように笑っている姿は気味が悪い。そもそも、その仮面のような笑顔はなんだろう?妻であるアデライダを見ているようで全く見ていないあの眼差しは・・
「そういうわけでアデライダ、君は皇帝相手に不敬を問われている上に、皇帝の庇護下にあるペネロペ様に害を加えようとした罪で今、牢屋に閉じ込められている。これから帝国相手に仲良くやっていかなければならないこの時に、そのような罪人をマルティネス家が抱えているわけにはいかないので、話し合いの元、君と僕との離縁は成立することとなったんだ」
「はあ?」
「君の生家であるレンドイロ伯爵家は男爵位に降爵処分、君の夫である私は爵位を剥奪されて平民となることが決まった」
「はあああああ?」
「君は罪人の焼印を施され、王都から追放処分を受けることとなるのだが、君の父上は君の受け入れを拒否された」
鉄格子を掴むアデライダの手がガタガタと小刻みに震え出す。
「な・・なんで・・なんでそんなことになるのよ!私はワインをかけられたのよ!悪いのは完全にペネロペの方じゃない!」
「その一部始終を皇帝がご覧になっていた。もちろん、君が自分でワインをかけている姿も目撃されているし、あの後、あのように泣き喚いた理由も十分に理解されているよ」
「嘘よ!嘘よ!私が罪人だなんて!私は何もしていない!何もしていない!」
めまいを起こしたようで、ふらつくレンドイロ元伯爵の腕を掴むと、
「もう、外に出られた方が良いのでは?」
と、心から心配したような様子でイグナシオが声をかけている。
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