番外編 9 困惑
番外編 8 抜けていたので改めて入れております!!よろしくお願いします!!!
「何故、ここに居るかですって?大好きな甥の王太子決定を見届けるために、わざわざ転移魔法でやって来たのですよ」
公の場に出ることがないジブリール妃が現れると、皇帝ラファの腕に自分の腕を絡めて頬を擦り寄せるようにして笑みを浮かべる。
「お兄様をずっと待っておりましたのに、突然、会場の方に現れるのですもの。驚いてしまいましたわ」
「ジブリール、私はこの度、招待客としてこの国を訪れたのだ。であるのなら、ここに現れるので何の問題もないだろう?」
漆黒の髪を持つ美丈夫の兄妹の邂逅を目の当たりにした人々は、唾を飲み込みながらその場で後退りする。
「叔父上、何で先に会場に来ているのですか!」
突然、床に映り込んだ影の部分から飛び出してきたハビエルが声を上げると、ハビエルにエスコートされてきたグロリアが見事なカーテシーをしながら挨拶をする。
「帝国の太陽であり黒龍の王でもあるアブデルカデル帝国の皇帝ラファ様に挨拶申し上げます」
「ああ、よい、よい、そういう挨拶はいらぬわ」
そう皇帝が声をあげている間に、漆黒の影から次々と武装した帝国の護衛の兵士が現れる。約二十人ほどの闇魔法の使い手に囲まれた皇帝がペネロペの肩を指先でツンツンと突きながら言い出した。
「来て早々、非常に面白い劇を見せてもらったのだ。ほら、ペネロペ『お前は嘘を吐いている!』と言い出す場面だぞ!ほら!」
「私の妻をツンツンするのはやめてください」
そこでようやっと現れたアンドレスがペネロペを守るように抱きしめると、
「ペネロペは今は大事な時期ですし、率先して嘘を見抜くのはやめたんです!ですから、そんなことは言いません!」
と、豪語する。
「嘘を見抜くのは辞めたのか?それは困るなぁ!」
あははっははっは、と、皇帝ラファは笑うと、
「漆黒の皇帝ラファ様ですか?」
座り込んでいたアデライダが瞳をキラキラさせながら皇帝を見上げた。
この時の皇族の人々の表情を何と表現したら良いだろうか、にこやかに笑っていたその笑顔がアデライダの声かけによって一瞬で凍りつき、そうして、護衛の兵士の一人が動き出したかと思うと、
「皇帝に直接許しもなく話しかけるとは!言語道断の行いである!」
そう言うなり、掲げあげた両手が振り下ろされ、アデライダの体はあっという間に闇に飲み込まれてしまったのだった。
「「「「キャーーーーーーッ」」」」
ただでさえ蛮族と蔑んできた南大陸に住む帝国人であり、肌の色黒く、まつ毛は長く顔の彫りが深い彼らが化け物のように見えたアストゥリアスの中央貴族たちは、悲鳴をあげて後に逃げ出した。すると、会場内に短銃の発射音が轟き渡り、恐慌状態となった貴族たちはピタリと動きを止めることになったのだ。
短銃を床に向けて発射したのはこの国の宰相ガスパール・ベドゥルナであり、その隣に居たラミレス王は驚き慌てる貴族たちに向かって、
「ここで不敬な行いをする者全てに処罰を下す!これはアストゥリアスの王としての宣言である!」
と、声を張り上げた。
◇◇◇
闇に包み込まれるようにして床下へと沈み込んだアデライダはあまりの息苦しさに気を失ったのだが、気が付けば、鉄格子で囲まれた暗い部屋にうずくまっていたのだった。
いったい何があったのかが分からない。
後ろの方でネズミが走るような音が聞こえた為、
「ヒイィイイイイッ!」
飛び上がるようにして鉄格子の前へと移動した。
日干し煉瓦が剥き出しとなった床に壁、天井には黒々とした染みが滲み広がっているように見えるが、鉄格子の向こう側に広がる廊下を照らし出すのは、壁に備え付けられた蝋燭の灯りだけ。
今まで煌びやかな会場に居たというのに、何故、自分がこのような場所に居るのかが分からない。
「誰か・・誰か・・」
アデライダのか細い声だけが廊下に木霊する。
「誰か、居ませんか?ここは何処なのですか?」
すると、唸り声のようなものと、体が床に擦り付けられるようなズルズルとした音だけが周囲に木霊する。
どうやら地下牢のような場所にアデライダは間違って移動させられたようなのだが、ここには自分以外にも誰か、唸り声を発する者が居るらしい。
アデライダが気を失う前の記憶では、アブデルカデル帝国の皇帝らしき人物に声をかけたところで止まっている。不敬を問われ闇に包み込まれたところで気を失い、今、気が付けば牢の中に居る。
「誰か・・誰か居ませんか?」
声をあげてもこの場には見張りにつく番人などは居ないらしい。
ペネロペを陥れるために自らワインを被ったのだが、そのワインがドレスにも染み込んで気持ちが悪くて仕方がない。
ワインまみれのアデライダは、突然、目の前に現れた高貴な異国人に同情を買おうとしたのだが、何故だかそれが上手くいかなかったようだ。
「やっぱり異国の蛮族相手ではこちらの常識が通用するわけがないのだわ」
そう、嘯いてみたところで誰かが返事をしてくれるわけもない。
牢屋の中には座ることも憚られるような粗末なベッドが一つだけあるだけで、その隣には蓋がついた空の壺が置かれている。これがトイレの代わりだとしたら正気の沙汰じゃないと身震いしながら、アデライダは鉄格子に自分の肩を預けた。
アデライダはイグナシオの妻である。戦勝パーティーにアデライダをエスコートしてきた夫はもちろんのこと、父であるレンドイロ伯爵だって、こんな事態に追い込んだ帝国人たちを許しはしないだろう。
剥き出しの煉瓦の壁に囲まれた牢屋は酷く寒い、肩を抱くようにして鉄格子に寄りかかり続けていると、ようやく遠くで扉が開くような音が響き渡ったのだった。
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