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番外編 7  接触

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「イグナシオ様、私、ペネロペ様にご挨拶をしたいと思うのですけど」


 ずんぐりむっくりの体型をした口髭をもごもごさせている貴族男性と談笑をしていたイグナシオに声をかけると、

「バルデム卿、妻を紹介してもよろしいでしょうか?」

 と、気遣うように夫がお伺いを立てている。


 早くペネロペの所に行きたいというのに、うだつが上がらない容姿の中年貴族に媚び諂っている夫の姿にイライラする。

 そんなアデライダの様子に気がついたずんぐりむっくりは、

「いいや、挨拶は結構」

 そう言って、くるりと回れ右をして他の貴族が居る方へと歩き出したのだった。


「イグナシオ様、これで挨拶に行けますわよね?」

 ため息を吐き出したイグナシオは、気を取り直すようにしてアデライダに笑みを向けると、

「僕は他の方々と挨拶をしなければならないから、君だけで挨拶に行って来たらどう?」

 と、言い出した。


「なにしろ兄嫁となる人だからね、君も色々と興味があるだろう?」

「ええ、まあ」

「それとも、僕と一緒に挨拶まわりに行くかい?その後だったら、僕も一緒に行けるんだが」

「それは結構ですわ」


 貴族の妻とは、後継者を産むことこそが仕事であり、アデライダはすでに息子のイラリオを産むことで大仕事を終えている。社交については、自分の得意分野で頑張れば良いと思っているし、知らない中年貴族と話すことはアデライダの仕事には入らない。


「では、僕のことなど気にせずに行ってくるといい」

 イグナシオはそう言って微笑を浮かべると、仕事に関わりのある貴族との顔繋ぎのために移動して行ってしまったのだった。


「そうね、挨拶なら私一人の方が都合が良いかしら」

 通りがかりの給仕の者からワイングラスを二つ受け取ったアデライダの口元に笑みが浮かぶ。


 一通りのダンスを終えてソファへと戻ろうとするペネロペの姿はすでにアデライダの視界に入っており、エスコートするアンドレスに一人の紳士が声をかけてきた為、彼は足を止めざるを得ない状態となっている。


 どうやらアンドレスの妻は体力がない女のようで、早くソファに座りたいらしい。その妻を視界の端に入れながら談笑を始めたアンドレスと、一人で移動するペネロペ。


 ソファに座る寸前に、わざと、

「マルティネス侯爵夫人にご挨拶申し上げますわ!私、アンドレス様の弟となるイグナシオの妻、アデライダと申しますの」

 と、アデライダは声をかけて優雅に膝を折り、両手にワインを持ったまま美しく辞儀をする。


「あなた様がイグナシオ様の!」

 足を止めたペネロペは優雅にカーテシーをしながら、

「アンドレス・マルティネスの妻、ペネロペ・マルティネスと申します」

 と、わざわざフルネームで答えてきた為、アデライダはペネロペに対して激しい苛立ち覚えた。


 わざわざ、自分の名前をフルネームで言うことによって、自分こそが侯爵家の当主夫人であると主張する。そのあざとさが気に食わない。


「先ほどは素晴らしいダンスを見せて頂きましたわ!さぞかし喉が渇いているのではないかと思い、飲み物をご用意させて頂いたのですけれど」


 昔であれば、この飲み物の中に媚薬などを入れて遊んでいたものだった。気に食わない下位の貴族令嬢に絶対に断れない形でワインを差し出し、少しでも口に含めば、その後は、気心の知れた年若い貴族に下げ渡してしまう。


 一晩の遊びは苛烈で面白い方が良い。それで恋人や婚約者と別れることにでもなれば、それは喜劇としてより一層楽しめることになるのだから。


 今、用意した二つのワインに媚薬などの薬は混入していないが、赤ワインが満たされたグラスを二つ用意するだけで如何様にも楽しむことは出来るのだ。


 一つの楽しみ方は、渡すふりをしてあえて自分のドレスに回しかけ、

「わ・・私が何か気に触るようなことでも言いましたでしょうか?」

 涙を流しながらアデライダが悲劇のヒロインとなるパターン。


 もう一つの楽しみ方は、渡す際にわざと相手のドレスにワインをかけて、

「何故?何故?ご自分の手で、自身のドレスにワインをかけるのですか?私がしたように見せかけたかったのですか!それほど私が気に食わないのですか?それほどまでに、私のことを排除したいと考えていらっしゃるのね!」

 と、泣きながら騒ぎだすパターン。


 侍女のアイタナが言うところによると、ペネロペはようやっと魔法学園を卒業したという程度の青二才で、社交の礼儀なんてものには疎く、何か騒ぎがあればすぐにパニックを起こしてこちらの都合の良いようになるらしい。


 亜麻色の髪を緩やかに結い上げた新緑の瞳を持つこの女は、確かに狡猾な企みを阻止出来るようには到底思えない。それこそ、数々のカップルを破局に導いた『婚約クラッシャー』という異名を持つようには見えない外見をしていると言える。


 ワインを差し出すアデライダを見て、にこりと笑うペネロペの新緑の瞳を見つめたアデライダは、ワインをマルティネスブルーのドレスに掛け回してやろうと決めた。


 魔法学校を卒業したばかりの淑女が、何故か、マルティネス侯爵家の当主夫人の座を射止めたようなのだ、そのことを気に食わないと考える淑女は、それこそ山のように居るだろう。


 ここで、アデライダを貶めるために自らワインをかぶったと大騒ぎすれば、当主夫人として相応しくないのではないかと言い出す輩も出てくるだろう。ペネロペが淑女として失格という烙印を押されることにでもなれば、ペネロペの後ろ盾となるグロリアに傷をつけることにもなるだろう。


 アデライダとしては、ハビエル王子が王太子になるということも気に食わない。正しい血筋の人間こそが王位を継ぐべきであるし、それこそ、後継が居ないというのであれば、今からラミレス王が子作りをすれば良いのではないかとさえ考えている。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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