番外編 6 戦勝パーティー
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アデライダにとって、マルティネスブルーのドレスを身に纏ったペネロペの登場は衝撃的なものだった。あの色のドレスは自分こそが着るべき色であり、何処の誰とも知れない女が着ても良いものではない。
「信じられないわ・・」
国王陛下の登場とあって、集まった貴族たち全員が奥の扉の方に視線を向けている中でも、アデライダの頭の中はどうやってペネロペを排除しようかということで、くるくると高速で回転し続けているのだった。
アストゥリアスの舞踏会では国王による開会の挨拶があり、パーティーの中盤で褒章の発表、パーティーの後半で重要事項の発表などが行われる傾向にある。
特に戦勝を祝すパーティーでは、戦時に亡くなった兵士たちの鎮魂を兼ねたセレモニーも行われる為、パーティーの前半は戦争から帰ってきた兵士たちを労り、生きて帰ってきたことを喜ぶ場としているのだった。
皆が心配するように側妃ジブリールは登場せず、ラミレス王ただ一人だけが集まった貴族たちを睥睨し、この祝いの場に集まった貴族たちを労う言葉が発せられた。
国王の簡単な乾杯の挨拶の後は楽器の生演奏が始まり、まずは戦地から帰還した将校たちが婚約者や伴侶と共に祝いのダンスを始めることになる。
アンドレスが美しいエンパイアラインのドレスを身に纏うペネロペをエスコートしてダンスホールに現れると、アンドレスとは反対側から宰相であるガスパール・ベドゥルナが妻をエスコートして現れる。
十五歳も年下のガスパールの妻は、まるで騎士のように背が高い女性となるのだが、ガスパールはうっとりと妻を眺めながらダンスのステップを踏み始める。優雅な音曲に合わせてゆったりと回転するように二組の夫婦がダンスを踊ると、二部形式の曲が一区切りついたところで、若手の将校たちがダンスの輪に入り出す。
強い階級意識を持つ軍部のパーティーでは、ダンスに入る順番にも明確なルールがある。特に戦勝パーティーなどでは、軍部の人間が主役となるため、王宮に勤める官吏などは談笑をしながら指を咥えて眺めている時間が長くなる。
「まあ!お姉様!」
「お久しぶりですわね!」
アデライダが夫のイグナシオと共に挨拶を続けていると、王立学園時代の後輩たちが嬉しそうに声をかけて来たのだった。
アデライダにとっては、夫のイグナシオは居ても居なくても良いような存在のため、夫の了承も取らずにその場から離れると、
「奥様は相変わらずのようですなぁ」
という、嫌味を含んだ声が後ろの方から聞こえてきた。
本来であれば、飛ぶ鳥を落とす勢いがあったレンドイロ伯爵家からアデライダがマルティネス家に輿入れするというのだから、夫は侯爵家を継いだアンドレスであるべきだったのだ。
アンドレスの我儘によってアデライダはイグナシオの伴侶となり、結果、領地にひたすら引きこもらなければならない日々を送ることになった。そんな苦痛を強いる夫に対して興味は最初からなく、ただ、美しいドレスや宝石を買うために必要なお財布程度のものだとアデライダは考えていた。
「今日のパーティーで、お姉様にお会い出来ると思っていましたのよ!」
「アデライダ様にお会い出来て!本当に嬉しいですわ!」
お茶会に呼ぶほどでもない子爵家出身の令嬢、今は誰かと結婚して何処かの家に輿入れしているのだろう。二人の貴婦人は最初、嬉しそうに顔を綻ばせながらも、その後、複雑に表情を歪めながら言い出した。
「マカレナ様の事件があったでしょう?私、あの後から不安で、不安で」
「私なんて、ちょっとした悪戯しかしておりませんけれど、何だか最近、色々と不穏ではないですか?」
「ですから、会場に現れたお姉様の姿を見てどれほど私たちが救われたことか」
「マカレナとは・・マカレナ・ペドロウサ侯爵令嬢のことよね?」
扇で顔半分を隠しながら問いかけると、同じように扇を広げた二人がなん度も頷きながら言い出した。
「マカレナ様の悪戯は、それは多少なりとも様々な人に迷惑をかけたことでしょう。けれど、三十人もの男性を用意したのはあの時が始めてではないですか?」
「だというのに、あのような恐ろしい結末となるなんて・・」
「えっと・・どういうことかしら?」
領地に引き篭もり状態のアデライダは自分の好きなこと(お茶会と虐め)くらいしか行わず、毎日好き勝手に生活をしているし、新聞をわざわざ読んで情報を集めようとすら思わない。だとしても、侍女のアイタナが言っていた三十人の男たちが出てくる話は覚えていた。
「ペネロペ様を大勢の男たちに襲わせようとしたマカレナ様が、貴族籍を剥奪され、その後、行方不明となっているではなくて?」
「噂によると、今まで恨みに思っていた貴族たちのおもちゃとなっているとか」
二人はブルブルブルッと身震いしながら言い出した。
「私たちはマカレナ様ほど、誰かを貶めるようなことなどしてはいませんが・・」
「今の王国の社交界は本当に恐ろしい場所になってしまったのです」
王立学園の生徒たちの間では身分制度は絶対のものであり、下々の者を道具のように扱ったり、破滅に追い込んだりということは、貴族的な遊びの一つでもあったのだ。
アデライダはマカレナ・ペドロウサの姉と仲が良かった関係から、妹のマカレナとも懇意の間柄となっていた。そのマカレナが自分の知らない間にペネロペに返り討ちにあっていたなんて。
「ねえ、貴女たちは知っているかしら?ペネロペ嬢ってどんな方なの?」
正式に挨拶もしていない為、アデライダはあえてペネロペを令嬢扱いして見下したのだが、
「変な人ですよ」
「多くの恋人たちを破局に導く悪魔のような女です」
と、コソコソと小さな声で囁くように二人は言い出した。
「みんな、あの人のことを嫌っているんですが・・」
「彼女の後ろ盾はグロリア王太子妃ではないですか」
「グロリア王太子妃?」
「まだ正式に決まった訳ではないですけど、ハビエル王子が王太子になるのは決まったようなものなので、ハビエル王子の婚約者となるグロリア様は王太子妃身分ですでに王宮に上がっているのです」
その言葉を聞いたアデライダは形の良い眉を顰める。
自分が王都を離れている間に、王宮の中はどうやら滅茶苦茶になっているらしい。
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