番外編 5 ライバル登場
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本宮にある大舞踏会場は、金という金で装飾され、異国情緒も溢れる形で絢爛豪華に飾り付けられていたのだが、
「今日、想像もできない大物が現れるみたいだぞ」
すでに会場入りしている貴族たちの間では、その話でもちきりとなっていた。
なにしろ、ムサ・イル派の司教たちが王国内で暴動を起こした直後、サラマンカの王ファティがアストゥリアス王国を訪れ、巨大な魔法陣を王都の上空に構築して鎮圧を図ったのは有名な話でもある。
もしかしたら、あの出不精のファティ王が再び王国を訪れるのか?はたまた、飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を拡大している、フィリカ派の使徒ルーサーが現れるのか?
集まった貴族たちは、今後の自分たちの運命が決まるパーティーにアラゴン大陸の全ての人々の注目を集めるような大物が登場するかもしれないとあって、頭の中が混乱気味となっている。
今は誰につくのが得なのか損なのか。損得勘定で動こうとしても、ムサ・イル派の滅亡によって今までの常識がひっくり返ってしまっているのである。特に司教たちと懇意にすることによって甘い汁を吸い続けてきた貴族たちは、最後の望みとして、美しい藤色のドレスを身に纏うイグナシオの妻アデライダの元に集まった。
アデライダの生家であるレンドイロ伯爵家は生粋のムサ・イル派のシンパであり、これからのアストゥリアス王家とは相容れない存在なのは間違いない。
そんなレンドイロ家の令嬢であるアデライダが、嫁ぎ先であるマルティネス侯爵家で確固たる地位を築いているのであれば、司教たちに媚びへつらってきた彼らに有利な働きかけをしてくれるかもしれない。
色濃い藤色のドレスを身に纏うアデライダは、侯爵夫人ではないためマルティネスブルーのドレスを着ることが出来ない。その為、ギリギリ許される色合いにまで染め上げた素晴らしいドレスで着飾っているのだが、周囲はそのドレスの色を見ることによって、当主であるアンドレスがそこまで弟の妻であるアデライダを重用しているのだと判断する。
そう、完璧なマルティネスブルーのドレスを見に纏うペネロペが現れるまでは、全ての人々がアデライダこそマルティネス侯爵家の女主人であると判断していたわけだ。
「マルティネス侯爵、アンドレス・マルティネス卿ならびにペネロペ侯爵夫人の御登場にございます」
案内の声と共に現れた二人に視線をとめた多くの貴族たちが、冷や汗を流しながら生唾を飲み込んだのに違いない。
侯爵夫人となったペネロペは、胸元から切り返す形で水の流れのように美しく広がるドレープのドレスを着ており、レースで覆われた肩から胸元にあしらわれた真珠が、まるで天から落ちる雨粒のように美しい輝きを放っている。
「こ・・こ・・侯爵夫人?」
「嘘だろう?」
「聞いていないんだが」
ちなみに、帝国から帰国後、即座に夫婦となるための書類を提出したアンドレスだが、公に妻を娶ったなどということは発表していない。まさに寝耳に水状態の貴族たちの視線が一斉にアデライダに集まったのではあるが、彼女としてはそんな周りの視線などに構っている場合ではない。
何故、悪女と噂の女がマルティネスブルーを身に纏っているのか?
ペネロペのドレスは帝国の技法も取り入れた独特な刺繍が胸から上のレース部分に施されたものであり、誰が見ても特別なドレスであると即座に判断できる代物だった。
「国王陛下のご入場にございます!」
アンドレス夫妻の入場が最後だったようで、すぐに国王入場の声が発せられる。皆の疑問の声も即座に沈黙の中へと隠されることになったのだが・・
◇◇◇
戦勝パーティーが行われる十日ほども前のこと、真っ青な顔で震えながらやってきた令嬢を見て、
「あららら・・なんということでしょう」
ペネロペはびっくりして立ち上がった為、後ろに椅子をひっくり返してしまったほどだった。
マルティネス侯爵家の領地は馬車で三日ほどの距離にあるのだが、その領地から緊急で運ばれてきた令嬢は、首から胸元が火傷で爛れた状態となっていたのだ。
何でも寄子となるエレハルデ子爵家の御令嬢であり、火傷を治すための薬草を貼り付けている状態とはいえ、皮膚の浸潤はひどく、そこから菌が入ったのか高熱が続いているという。
『火傷の女性を一人、王都に送りたい。金銭に上限なし、可能な限りの治癒希望』
という知らせが届いた二日後にプリシラ・エレハルデを受け入れたペネロペは、
「これでは、到底、動かすことは出来ないわねぇ」
と、ため息を吐き出した。
可能な限りの治療希望ということでペネロペがグロリアに相談したところ、ハビエルが転移魔法でロザリアを王宮まで連れて来てくれたのだ。だからこそ、プリシラを連れて王宮に行く準備をしていたのだが、健気にも挨拶に現れたプリシラはその場で失神してしまった為、ペネロペはとりあえずアンドレスに相談することにしたのだった。
「ペネロペ!ペネロペ!ペネロペ!」
ロザリアを連れて侯爵邸に現れたアドルフォは、最近、高速での移動魔法を開発中らしい。王宮までロザリアについてやって来たアドルフォは今開発中の高速移動で現れると、ペネロペに飛びつくロザリアを後ろから見守りながら眉間に皺を寄せている。
「姫様、こちらの女性を治して貰いたいのですが・・」
「任せてペネロペ!お兄様も手伝ってくれるでしょう!」
「もちろんだよ、ロザリア」
それまでは無言だったアドルフォが、蕩けるような笑顔となってロザリアの手の上に自分の手を重ねる。
光の魔法の使い手となったロザリアは、呪いの解呪だけでなく、マリーの兄妹たちと遊ぶうちに傷の治癒魔法も習得したらしく、
「この前、マーくんの火傷も治したから大丈夫よ!」
と言って、プリシラの患部に自分と兄の手を一緒に翳して魔力を込める。
まだ十歳と、成長し切れていないロザリアの魔力不足を補っているのがアドルフォで、二人がいれば大概の傷や病は治ってしまうと侍女のマリーから報告を受けている。
「あんまり派手に治すと目立ってしまいますので、お二人には自重するようにお願いしているのですが・・」
と、マリーは言ってはいたけれど、治せるんだから治してしまいましょう程度の感覚で二人は身近な人の治療をしているらしい。
「ねえ、ペネロペ、なんでこの人はこんな火傷をすることになったのかしら?」
ロザリアの質問に、ペネロペは大きなため息を吐き出した。
「どうやら、アンドレス様の弟の奥様が、熱湯の紅茶を浴びせるようにかけたようなのです」
「まあ!酷いじゃない!」
「そう・・酷いんです・・」
ペネロペは更に大きなため息を吐き出した。
「女王様みたいな人らしく、みなさん、その方こそが私のライバルだなんて言うんです。今度、顔を合わせることになっているんですけれど、物凄く気が重いんです」
「まあああ!ペネロペが気が重いだなんて!」
ロザリアは大袈裟なほどに驚くと言い出した。
「だったら、その女王様の嘘を見破って、その腐った心を丸裸にすれば良いんだわ!」
「嘘を見破るって・・」
「ペネロペなら出来るわよ!ねえ!お兄様!」
急に話しかけられたアドルフォは、とりあえず無言で頷いていたらしい。
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