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第五十話  王妃の風格

これでこのお話は完結となります、ここまで読んで頂きありがとうございます!

 マリーの一族は武勇で名を馳せて爵位を授かったというような家になるのだけれど、子沢山で大雑把な家系だけあって、王子と王女がやって来るということになっても、

「へえ、そうなんだ」

 で、終わるような家だった。


 マリーの一番下になる妹は四歳になるのだが、

「ローちゃん、私が案内してあげるわ!」

 と言って、泥だらけコースへ一直線。

「泥んこ遊びは子供にとって、とっても良いのよ」


 マリーの母が言うには、服はドロドロでも、自分たちで洗わせるから問題ないということなのだ。上の子供が下の子供の面倒を見るというシステムの中に放り込まれることになったロザリアは見事に順応したらしい。


 王都に戻って来たペネロペは、同じく王都に戻って来たグロリアとお茶を飲んでいたのだが、すでに王太子妃扱いで王宮へと移ることになったグロリアは、

「エルったらカルチャーショックを受けたみたい。それに、自分だけでなく他の兄妹も父親には放置されて育ったって事が分かって変に納得しちゃったみたいで」

 そう言って微笑を浮かべるグロリアを見たペネロペは、

「アストゥリアス王家は元々、子育てはしないことで有名ですものね」

 と言って苦笑を浮かべる。


 産まれたばかりの子供は乳母任せ、教育については専門家任せで家族の情愛を知らずに育つ。だからこそ、生まれた子供に対しては平等に無関心だったラミレス王は、自分が間違っていたのではないかと最近大いに悩んでいるらしい。


「エルも今更なんだけど、妹をお兄ちゃんに取られちゃったみたいで寂しいみたいなのよね。それは王も同じで、自分の元を離れたのをとっても寂しがっているの。今まで放置してきたのは自分たちなのに、何を勝手なことを言っているのだろうと呆れちゃうわね」


「そうだとしても、ジョルディ様がロザリア様と結婚すれば、ロザリア様はグロリア様の妹として王宮にあがることになりますよね」


「世界一の魔法使いになるんだって言ってサラマンカに行ってしまったけれど、あの子ったら姫様のことが心配で、心配で仕方がないみたいなのよ」


 なにしろグレンデス男爵領にいるロザリアは、沢山の子供に混じって遊んでいるのだ。もちろんその中には同年代の男の子も居るため、ジョルディとしては気にかかって仕方がないという所なのだろう。


「一緒に遊んでいても将来は仕えるべき相手だと十分に理解している子供達ばかりなので、そんな心配はいらないのに」

「姫が他の男の子を好きになったらどうしようって」

「うーん・・それもどうなんでしょう」


 なにしろロザリアの後ろにはアドルフォ王子が居るのだ。白龍に化身できるほどの魔法使いを唸らせ納得させられるような男の子は、男爵領には居ないとも思うのだ。


「ペネロペ」

 名を呼ばれて振り返ると、アンドレスがこちらの方へと向かって来るのが見えた。今日は宰相ガスパール・ベドゥルナにアンドレスが呼び出された為、彼が帰ってくるまでの間をグロリアとお茶をして過ごしていたのだった。


「宰相はなんですって?」

 ペネロペの頬にキスを落とすアンドレスを見上げたグロリアが笑みを浮かべながら問いかけると、アンドレスはため息を吐き出しながら言い出した。


「何でも国王陛下が王位をハビエル殿下にお譲りしたいと言っていると」

「それで?」

「それに合わせて宰相閣下もまた今の立場から退き、私に宰相職を任せたいと」


 グロリアはアンドレスにも座るように示しながら言い出した。

「マルティネス卿、その話、後数年は引き延ばすように手配して下さらないかしら?」


 子育てに失敗をした王は酷く落胆をして、ハビエルに王位を譲って、自分は帝国の皇帝の元へ身を寄せようと考えているらしい。帝位を息子に譲った皇帝は、砂漠で隠遁生活を送る予定でいるらしい。皇帝の妹であるジブリール妃と共に、引退した皇帝とご一緒しようと考えているのだ。


「隠居するのは良いけれど早すぎるわよ。せめて私たちの子供が一人前となってから行ってくれないと、陛下と同じように公務公務で子育ての一つも出来ずに人生終わらせることになってしまうわ!」


「確かに・・」

 宰相職は激務なのだ。うっかりここでガスパールの引退を許したら、アンドレスは仕事に埋もれてしまうだろう。


「絶対に引退させません」

 アンドレスは断言したものの、宰相ガスパール・ベルドゥナは執念深い蛇のような男なのである。一度、こうと決めたら動かないところがあるのだ。


「マルティネス卿、貴方には海軍の取りまとめを任せたいの」


 一度、北に向かった帝国の艦隊は、今はボルゴーニャの港に入港しており、ボルゴーニャ王国の艦隊はアストゥリアス王国の港に向かって移動をしているところでもある。


「ボルゴーニャの艦隊をわが国で取り込む形となるから、その編成を、アドルフォ殿下と共にやって欲しいのよ。殿下は死んだことになっているから、平民扱いとなるのだけれど、後々には艦隊の総指揮を殿下に取ってもらう形としたいの」


 グロリアは紅茶にレモンを落とすペネロペを見ながら言い出した。


「子供が生まれるのなら、ペネロペはバルデム侯爵家に居た方が安心できるでしょう?領地には姫様もいらっしゃるし、喜ばれるとも思われるの」


「侯爵領にある港を軍港にするつもりですか?」

「立地的にも良いと思うのだけれど」

「あの・・グロリア様?」


 ペネロペは顔を真っ赤にしながら言い出した。

「なんで私に子供が居ると分かったのですか?」

「ペネロペったら、さっきからばかみたいにレモンを紅茶に入れているのですもの。分かりますわよ」

 下を俯いたペネロペは小刻みに震え出す。


 ペネロペとアンドレスは籍を入れて夫婦となってはいるものの、まだ、神の御前での誓いの儀式はやっていない。離宮で蜜月状態になった時にどうやら授かってしまったようで、完全なるできちゃった結婚状態になっているペネロペなのだ。


「殿下は平民扱いとなりますし、黒髪、黒瞳で誰もが王家との繋がりを感じることはないとは思うのですけれど、最終的には魔法伯の地位にまで持っていきたいと思っていますの」


 恥ずかしがってぷるぷる震えるペネロペを無視して話を続けるグロリアは、王者の風格のようなものを醸し出している。

 彼女が求めるのは人が死なない世界。

 ハビエルが大魔法使いの認定を受けた際に、千人程度なら苦もなく殺せるハビエルに対してグロリアは自ら誓ったのだ。


「貴方が人を殺してしまうことを恐れるのなら、人が死ぬ事がないように私が全てを差配してあげる。そうして人が死ななくても良い世界が作られたなら、貴方はようやっと安心できるのでしょう?」


 帝国の支配を受けることになれば、長年、ムサ・イル派の司教達の教えを聞いてきた人々は大きな反発を繰り返すだろう。そうすれば、また、多くの人の血が流されることになる。そうならない為にも、やれることは沢山あるはずなのだ。


「私たちの国よりも帝国は進んでいるから、平民のほとんどが彼らの統治を受け入れるでしょう。そんな彼らを邪魔しないように、まずは貴族達を排除する」


 帝国が統治に乗り出しても、そう、何年も続くとは思えない。その間、アストゥリアス王国はより強い国を目指して進んでいく。


「私たちの子供が明るく楽しい日々を過ごすことが出来るようにするために、陛下にも宰相閣下にも、まだまだ働いてもらわなくてはいけないし、マルティネス卿には国の土台作りを共にして欲しいの」


 立ち上がったアンドレスが跪き、

「王太子妃殿下の思うままに致しましょう」

 そう答えると、

「ああー!リアちゃん!こんなところでお茶してた!アンドレスを呼ぶくらいだったら僕も呼んでよ〜!」

 と、ハビエル王子が大声をあげている。


 そんな王子に笑みを浮かべるグロリアの方を見て、

「それでは私はアストゥリアスの花のように、あらゆる嘘を見抜いて、王国を平和へと導きましょう」

 と、ペネロペは胸を張って言い出した。


 すると、立ち上がったアンドレスが、

「妻はすぐに暴走するので、ほどほどでお願いします!ほどほどで!」

 と、慌てた様子で言い出したのだった。



                        〈  完  〉




 この後、おまけのお話がちょっとだけ続きます。

 ペネロペとアンドレスのその後のお話になります!


モチベーションの維持にも繋がります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の言うことが好きです(このページだけでなくて作品全体的に) [気になる点] こんにちは。 『アストゥリアの花 〜嘘を見抜いて姫を破滅から救います〜』を拝読しました。 それで本文を見て…
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