第四十九話 納得いかない
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破壊されたボルゴーニャ王国の王宮に腰を据えることなったグロリアは、目の前に並べられた死体を眺めて大きなため息を吐き出した。
「ムサ・イル派の残党がまだこれほど居るだなんて、まるで真っ黒な色のあの害虫みたいで嫌になってしまうわね」
「聖都の方はどうやら潰れたみたいだけど、それを知らない輩が司教達の命令を忠実に守ろうとしているみたいだね」
光の神を信奉するルス教の中には様々な宗派が存在していたのだが、一番の勢力を誇っていたムサ・イル派が瓦解した。元々、貴族や王族の結婚にまで口出しをするようになり、権力者からも嫌厭されるようになっていた所で、邪法に手を出した彼らの悪行が大陸中に暴露されることになったのだ。
人工の宝石眼を持つブランカ・ウガルテと共に大聖堂に潜入したところ、多くの死体が積み上げられた大聖堂の地下を発見したグロリアは、近隣諸国の王族へ通告を行なった。
なにしろアストゥリアス王国では、王位継承第一位だったアドルフォ王子が司教達によって呪いをかけられることになったのだ。問題を重くみた権力者たちが重い腰を上げようとしているところで民衆が蜂起。新聞によって誘拐された子供達の末路が明らかとなり、自分の居なくなった子供を司教達が犠牲にしていたのだと気がついた民の怒りに火が付いた形となる。
残虐非道なムサ・イル派の枢機卿や司教達の悪事が暴露されたことで大陸中が揺れている間に、頭角を表したのがフィリカ派の使徒ルーサーであり、民に寄り添うことを続けたムサ・イル派の神職達と連携をして、騒動の収束を図ることとなったのだ。
ただ、洗脳を受けた信者がかなりの数に登ることもあって、多くの熱狂的信者がボルゴーニャへの潜入を続けていた。帝国に支配されるくらいなら、民に暴動を起こしてでも抵抗をしてやる。ムサ・イル派の教えでは他の宗教は決して許されることはないのだ。
ボルゴーニャ王家は全ての権利を売り払って隣国サラマンカへと亡命してしまった為、王に見捨てられた王国の民を扇動しようと多くのムサ・イル派の信者が潜り込む。ただし、こういった輩を捕まえるのが大魔法使いであるエルは得意であるため、民の扇動を始める前に殺してしまっているのだった。
「リアちゃん、そういえば海軍から連絡があったんだけど、サラティマ艦隊が北海を下って来ているみたいだよ?それで、どうやらこの前、北に向かって消えて行った帝国の艦隊は、サラティマ艦隊を駆逐するために向かったって言っているんだけど、そこの辺りの話は何か聞いているかい?」
「ああ、サラティマ艦隊ね。どうやら、バルデム領で産出される硝石や精製した火薬を狙って艦隊を動かしたらしいのよ」
グロリアが書類を仕分けながら答えると、エルは金色の瞳をギョロリと動かしながら言い出した。
「対ボルゴーニャ戦で戦力を南に集めているから、海側がガラ空き状態だよね?僕、飛んだ方が良いのかな?」
「いいわよ!そんなことしなくって!」
「でもさ、かなりまずい状況なんじゃないのかなこれ?」
氷の英雄は呪術刻印が施された指輪に呼ばれて帝国まで転移をしてしまっているし、宰相ガスパールは妻の誕生日を祝うと言って王都に戻ったまま、ちっともこちらの方には帰って来ない。
エルの圧倒的魔力を前にボルゴーニャの貴族達は黙り込んでいるけれど、いつ、反旗を翻すか分かったものではない今の状況で、北から艦隊が攻め込んでこようとしているのだ。
「何でもアドルフォ様が動かれたらしいのよ」
「はあ?」
「弟のジョルディが使徒であるルーサー様に頼んで呪いを外して貰ったというところまでは話に聞いていたのだけれど、帝国でロザリア様と合流して、バルデム卿の船に乗って北海に移動したというの」
「はあああい?」
もしゃもしゃの髪の毛を短く切ったエルは、自分の髪の毛を掻き回すようにしながら言い出した。
「ロザリア姫と帝国で合流って、なんで姫が帝国に居るわけ?」
「ペネロペと一緒に誘拐されたのよ」
「はい?」
「皇帝が最近おかしくなっちゃったでしょう?それで、ペネロペに嘘を見破ってもらおうと考えて、ウィッサム第三皇子が二人を誘拐して帝国まで連れて行っちゃったのよ」
「はあああああい?」
ボルゴーニャ王国を帝国へスムーズに売り渡す為には、国内の不穏分子の洗い出しと排除は必須の状態となるため、細かいことは全てグロリアまかせとしていたエルは、
「なんで言ってくれないの?言ってくれれば帝国まで助けに行ったのに!」
イライラしながらそう言い出すのを見て、
「自分の妹のことはそれなりに大事に思っていたのね」
と、ほっこりした様子でグロリアが言い出した。
「アンドレス様が移動した時点で、帝国の方は解決しているようなものなの。ただ、サラティマ王国がわざわざ艦隊を動かすとは思わなかったから慌てたんだけど、そちらの方もアドルフォ殿下が沈没させて、ことなきを得たようだわ」
弟のジョルディから送られて来た手紙によると、アドルフォ王子は教会の一室で息を引き取ったという事にして、ロザリア姫については、父親がラミレス王ではなかったということがサラマンカの魔法で判明したと報じる予定でいるらしい。
「お二人は貴方に王位を継承させるために、王都には戻らないと決めたみたいなの。その王都では次の王位は貴方が継ぐということで話を進めているそうだわ」
「・・・なんで」
エルは唇を噛み締めた。
「なんで二人が王都に戻らないわけ?」
「エルが王位を継ぐのに邪魔になるからって」
「兄上は呪いを解呪して元気になったんだろう?だったら、兄上が王位を継げば良いじゃないか!」
「それは無理じゃないかしら?」
グロリアは冷酷な眼差しでエルを見ると言い出した。
「エル、貴方、自分で王位を継ぐと言ったわよね?帝国と共存をするためには、自分が王位を継承するのも仕方がないし、私を妃にした上で、うちの領地が何の問題もないようにするって確かに言ったわよね?」
「・・・・」
「全てはもう決まったことなのよ。貴方が王位を継承するのなら、貴方は帝国との架け橋とならなければならない。これから王国が帝国と手を結ぶのに、あの二人は邪魔になるからと自ら身を引いたのよ」
「嫌だ!直接話を聞かなければ納得いかない!」
「エル!待ちなさい!エル!」
止めるグロリアを無視して転移魔法を使ったエルことハビエル王子は空間を飛んだのだが、次に自分が現れた場所で、呆れ返った様子で目を見開くことになったのだった。
目の前に広がるのは泥、泥、泥、泥の中には子豚と数人の子供が転がりながら遊んでいて、その様子を柵に手を置きながら眺めている漆黒の髪の男が一人いる。
溢れるほど膨大な光の魔力を持つ光の王子、アドルフォ第一王子は漆黒のトラウザーズにシャツを来て佇んでいたのだが、ハビエルの方を見て驚いた様子で目を見開いた。
「ボルゴーニャからここまで飛んで来られるのか、物凄い精度の転移魔法だな」
「兄上、僕は・・僕は・・・」
「お兄様!お兄様!キャハハハハハハハッ!」
泥だらけの沼から飛び出してきた少女がアドルフォに飛びつくと、弾けるように笑い出す。その少女を大事そうに抱き上げたアドルフォが、
「ロザリア、ハビエルがわざわざ来てくれたのだから挨拶しなさい」
と言うと、そこで初めてハビエルの存在に気が付いた様子のロザリアが金色の瞳を見開いて、
「まあ!ようこそ!グレンデス男爵領へ!」
と、弾けるような声で言い出した。
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