第四十八話 ジョルディは姫を手に入れたい
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ペネロペとアンドレスは別の船でアストゥリアス王国へと帰る予定になったのだが、ここまで共に来たジョルディも、本来なら同じ船で王都へと帰ることになるはずだった。
ハビエル第二王子が次の王位を継承するとなると、妃はアドルフォの元婚約者となるグロリア・カサスとなるだろう。そうなれば、カサス家が公爵に陞爵するのも夢ではない。
元々、帝国貴族の血が混じるカサス家は蔑まれることも多い家だったのだけれど、優秀な者が多く生まれ出る家柄であり、帝国と王国の血が混じるだけに膨大な魔力を持つ子供も生まれやすい。
次の王に帝国の姫から生まれた王子が選ばれるのなら、これほど後ろ盾として適した家もないわけだ。そのカサス家の嫡男であるジョルディが、今この時に帝国に居るのもおかしな話になるのだが・・・
「えーっと・・ジョルディ様まで一緒に行きたいと・・」
「そうです!姫様が行くと言うのなら!僕だって行きますよ!」
ジョルディは目を爛々と輝かせながら言い出した。
「僕は魔道具を使った結界魔法の研究をしているんです!皇帝の魔力からウィッサム殿の離宮を守ったのは僕の魔道具があったからこそですし!絶対に邪魔にはなりません!サラティマ艦隊からの攻撃を防ぐ要になってみせます!」
「うーーーん」
確かに、ジョルディの展開する結界魔法は素晴らしいものだった。周辺の離宮が軒並み破壊されていく中で、ウィッサムの離宮だけが無傷で済んだのは、ジョルディの結界があったからこそなのは間違いない。
「ですが、ジョルディ様はまだ十二歳ですし」
「姫様はまだ十歳ですよ!」
十歳の少女を戦争に連れて行くのもどうかと思うのだが、それで、あの無気力そのもののアドルフォ王子がやる気になるなら仕方がないと思っていたセブリアンは、
「ペネロペ嬢と離れる決意をされた姫様のお心を守ためにも!僕のような顔馴染みがお側に居た方が良いと思うのです!」
と言う言葉を聞いて、ジョルディの乗船を許すことにしたのだった。
「セブリアン、今回のことは本当に感謝をしている」
皇帝ラファとは随分長い付き合いになるセブリアンも、まさか、彼が直々に頭を下げるとは思いもしない。
「感謝の印としてうちの海軍を北に向かわせるから、戦力として使ってやってくれ」
セブリアンにとっては皇帝が頭を下げるよりも、帝国の海軍を戦力として貸し出してくれたことの方が嬉しかった。
帝国の艦隊が出発するには準備がかかるということで、いち早く船を出発させることになったセブリアンは、途中で自領の船と合流して北を目指すことになった。
その後ろを追いかけるようにして進む帝国の船影を見て、遂に我が国に軍を向けて来たのだと判断したボルゴーニャ海軍が、悲壮な覚悟で船を用意しているのも知らなかったし、そんなボルゴーニャ海軍など全く無視して、帝国海軍が素通りしていったことに驚天したことにも気が付かない。
何しろボルゴーニャとの地上戦のために戦力をかき集めていたアストゥリアス王国は、海軍の要員も最低限しか置いていないというような状態だったのだ。その為、いざ、戦となると満足に船を動かせるような状態ではない。
だからこそ、セブリアンはアドルフォ王子の魔法に賭けた。
膨大な光の魔力を持つ王子は、皇帝ラファと同じように龍へと化身することが出来るのだ。
そう、アドルフォ王子は白龍に化身することが出来るのだが、
「バルデム卿、お兄様頼みで戦いをしようというその思いは分かりますけれど、お兄様は空を飛べませんのよ?」
というロザリア姫の言葉を聞いて、ハッと我に返ることになったのだ。
◇◇◇
カサス家の嫡男であるジョルディは、初めてロザリアを見た時に、威嚇する子猫のような子だなという感想を持ったのだった。大人は全て敵だとでもいうように全く気を許さないロザリアは、自分にだけは懐くようになった子猫のようで、
「可愛らしい姫様だな」
と、ジョルディは思っていたのだ。
アストゥリアス王国とボルゴーニャ王国が戦争を始めるということで、姫様は王都へ戻ってしまったけれど、子猫のような姫様が震えて泣いているのではないかと不安になった。姫様が帝国の皇子に誘拐されたと聞いた時には、闇の魔法の使い手である皇子に対抗するためには、後は死ぬばかりとなっていたアドルフォ王子を叩き起こすしかないと覚悟を決めた。
姫様を助けるには自分しか居ないと思い込んでいたジョルディは、歯噛みするような思いを何度も何度も味わった。膨大な魔力を駆使して龍に化身できるロザリアの兄であるアドルフォ王子に、物理は結局最強だと豪語するマリーとマルセロ兄妹。
ずんぐりむっくりのバルデム卿でさえ、あの皇帝の頭を下げさせているのである。自分の存在感のなさと、不甲斐なさに押し潰されそうになりながらも北の海までやって来たジョルディは、今こそ自分の出番だと思い、一歩、前へと踏み出した。
「アドルフォ様が例え空を飛べなくとも、我らに勝機はありますとも!僕が強力な結界を船に張りますので限界近くまで敵船に近づくのです。そこで、龍に化身した殿下が船に襲いかかる。まずは旗艦戦から狙うのが良いかと思うのですが、いかがでしょう?」
ジョルディは決して無力ではない、強力な結界を使うことが出来る魔法使いなのだ。
「つまりは、私が敵船に飛び移れば良いのだな」
「「私たち兄妹も殿下と共に飛び移りましょう!」」
船体に自分の船をぶつけて大破させるやり方は海賊がよくやる手立ての一つにもなるけれど、強力な結界を作り出すことによって敵船だけを大破させることが出来るだろう。
「白龍に化身できるのは殿下お一人ということもあるのですから、敵が対処法を考える前に仕留めなければなりません。敵戦艦の動きをまず見て、一気にかたをつけましょう」
海図を広げながらそう言い出すジョルディを見て、
「さすがカサス家の嫡男!船に乗せて良かった〜!」
と、セブリアンは歓喜の声をあげたし、
「ジョルディ様!流石は才女と言われたグロリア様の弟君なだけあるわ!」
と、ロザリアもはしゃいだ声をあげた。
そのはしゃいだ妹姫の声を聞いたアドルフォは、魔道具を用意するジョルディの姿を睨みつけるようにして見ていたのを誰も知らない。
アドルフォにとって、ロザリアは命よりも大事な妹姫なのだ。そのロザリアにジョルディが懸想をしているのは間違いない事実。果たして、妹に相応しい人物だと言えるのかどうなのか・・・
そんな視線には全く気が付かない十二歳のジョルディは、必死に魔道具を展開し、船の指揮に口を挟みながら、戦さを勝利に導いた。
戦艦十二隻を大破させ、戦いを勝利に導いた夜、アドルフォはジョルディを呼び出して言い出した。
「妹を妻にと望むのなら、今のまま止まる事は許さない」
十二歳のジョルディがロザリアを妻にと望むのなら、最大の障壁となるのは兄であるアドルフォになるのだろう。
「私が認められるような男でなければ妹は渡さない」
「はあ?今まで放置していた癖に、何を言って・・・」
物凄い殺気にジョルディは言葉を飲み込んだ後、
「分かった!分かりましたよ!殿下よりも凄い魔法使いに絶対になってやる!」
大きな声で叫んだのだった。
姉を今まで蔑ろにしてきたアドルフォ王子のことをジョルディ自身が認めていないのだが、彼が世界でも指折りの魔法使いであることは間違いない事実でもある。そんな彼を認めさせるのならば、
「だったらサラマンカで世界一の魔法使いになってやる!」
と、ジョルディは叫んだのだが、あとになってこの言葉を死ぬほど後悔することになるのだった。
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