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第四十五話  皇帝の思い

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 戦いの後は、アンドレスが離宮に引きこもってしまった為、アブドゥラ第四皇子は氷漬けのまま仮死状態となり、そのままの状態で放置される事となったのだった。


 多くの部族をまとめ上げる皇帝には強者こそ認められる風潮にある。武力を使ってのし上がった皇帝ラファでさえ、先代の皇帝とは一対一の戦いに持ち込んで勝利し、皇帝の地位を譲り受けることとなったのだ。


 ウィッサム皇子は、黒の結界で膨大な魔力が外に出るのを防ぎ、帝国の重鎮である族長たちを安全な場所に逃れさせ、白龍と変化したアドルフォの助けや、マリーやマルセロ、部下たちの協力を得て、漆黒の薔薇を使って黒龍を押さえつけるまではしたものの、単独での完全勝利をしたというわけではない。


「次の皇帝はウィッサムに」

「いやいやいやいや」


 番の無事が確認されて、ようやく寝所から出てきた皇帝に呼び出されたウィッサムは、次の皇帝はお前だと言われそうになって、ちょっと待ってくれという気分に陥った。


「私は父上を倒せていないのですが?」

「いや、私を倒すのは無理だろう」


 膨大な魔力を使って龍に化身出来るのは、先祖返りとも言われる人間しか出来ないものだ。その龍を相手に勝つなどということは到底無理な話なのだが・・


「お前は、帝国をまともな状態にするために、私の妹の伝手を使ってアンゴラ大陸まで移動をした。嘘を見抜くセブリアンの娘を連れてくれば何とかなるという発想が、全く理解できないのだが、実際に私はセブリアンの娘に助けられた。お前がかの娘をわざわざ誘拐してまで帝国に連れて来なければ、おそらくサラーマは死んでいただろう」


 皇帝はブルブルブルッと震え上がると、大きなため息を吐き出した。


 皇帝は、力試しの場を用意した上で黒龍に変化したのだが、まさかサラーマが自身の宝石眼を使ってまで自分を押し留めようとするとは思いもしなかったのだ。サラーマは洗脳の力を使ってラファを思い通りに操っていると考えていたようなのだが、人工の宝石眼ではラファを洗脳など出来るわけがない。


 彼女の枢機卿や司教たちへ向ける恨みは、かつて自分が、皇帝や他の皇子皇女に向けた思いと同じものであると理解していたし、巨悪にたった一人でも立ち向かおうとするその姿が、かつての自分の姿と重なった。その強い眼差しに、ラファは魂が揺さぶられるような感覚を覚えたのだ。


 それに、彼女はラファの番なのだから、番が望むことを叶えるのは当たり前のことだ。だからこそ、手練を聖都に送り込んでムサ・イル派という奴等を破滅に追い込んだ。時期も良かったらしく、周辺諸国は司教たちの悪事を目の当たりにしていた為、ルス教からムサ・イル派という宗派が消えるのはあっという間のことだった。


 フィリカ派の使徒ルーサーが、民に寄り添い続けた神職の者たちと連携をとったことも良かったようで、欲に目が眩み、邪法に手を出していた者達ばかりが破滅の道を歩むことになったらしい。


 大きな力があれば、何もかもが思い通りにいくわけではない。


「龍に化身できる私であっても、多くの者の助けを借りた。特に大きな力となったのは、北大陸から帝国にやって来たセブリアンであったのだが、あの狸のような男が居たからこそ、私は皇帝になり、妹を無事に嫁にやることが出来たのだ。そのセブリアンを、今、このような時に帝国までお前が引っ張り出して来たのを見て、運命のようなものを感じたものよ」


 たった一人の大きな力だけでは世の中を動かすことは到底できない、多くの人々の意志と力が結集するからこそ、安定した治世というものが行われるようになるのだ。


「私が帝位を継ぐ際には、何もかも腐りかかっていたようなものであったが、それなりに膿は排除したつもりである」


 最後には、皇妃であったアリアズィアまで踏み潰して殺しているのである。更には、皇妃の後ろ盾となった部族の長まで亡くなっているため、次の首長を巡って内部での争いが激化しているような状態だ。


「後宮の女たちは全て解放し、私はサラーマとシャムサを連れてバーディアに戻る」


 バーディアとは街を持たない砂漠の民のことであり、ラファの母はバーディア族の族長の娘だったのだ。一箇所に留まらずに貿易をしながら移動をする砂漠の民の元へ戻ろうというのは、自由を愛する龍の余生を過ごす場所としては都合が良いのかもしれない。


「南の大国ルバマが帝国に牙を剥こうと考えていますし、小部族を煽り立てて反乱を起こそうと考えているようですから」

「そちらの方は任された。だからお前には帝国を頼むぞ」


 戦争に勝利したアストゥリアス王国の王子ハビエルは、ボルゴーニャ王国の一切の権利を帝国相手に売り払うつもりで、秘密裏に帝国に使者を送り込んできている。海峡を挟んだ向こう側にあるボルゴーニャを占領するのは代々の皇帝と族長たちの悲願となるのだが、わざわざ馬鹿正直に戦力を投入し、多くの民を殺した後で占領統治をするよりも、金はかかるが国民の反感が少ない状態にした上で、帝国の統治に踏み切る方が良いのだろう。


 帝国の目が北に移っている間に、南での反乱を企てていた大国ルバマは、皇帝ラファの隠居場所に砂漠が選ばれたことを聞いたら、卒倒するのではないだろうか?


 皇帝ラファは黒龍に変化することが出来る、膨大な闇の魔力を持つ使い手なのだ。

 

「皇帝ラファの余生に皇都から関与など出来ぬように徹底しておきましょう」


 アブドゥラ第四皇子を次の皇帝に押し上げようと考えていた勢力は、ラファが次の皇帝だと言って戯れに指名したシャムサを担ぎ上げようと考えるかもしれない。そういった輩は処分するとウィッサムは宣言したわけだ。


「であるのなら、アブドゥラは氷漬けのままで良かろう」

「即位式に氷のままオブジェとして飾っても面白いかもしれませんね」

「お前も酷なことを考える」


 身分の低い母親を持つウィッサムの即位に否定的な者も多いが、凍ったアブドゥラをその目で見れば、反対の声などあげることはないだろう。


 何しろウィッサムの後ろには、白龍に変化できる光の王子と、第一皇子を殺した氷の英雄が居るのだ。ちなみに、皇帝ラファは第一皇子をアンドレスに殺されたことを恨んではいない。弱い者が殺されるのは当たり前だとしても、第二皇子を毒を使って皇妃が殺したことには激怒していたらしい。やり方が汚い、だからこそ、踏み潰して殺したのだと皇帝ラファ自らがそう宣言しているのだった。



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