表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/165

第四十三話  ムサ・イル派の最後

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 聖都にある大聖堂には火がかけられ、怒り狂った信者たちが破壊の限りを尽くしている。罵声があちこちから飛び、引きずられるようにして外に連れ出された枢機卿や司教たちの額が雨のように投げつけられた石の礫で傷つけられていく。


『闇の呪法に魅入られた悪魔のような集団』


 アストゥリアス王国で司教たちに呪いをかけられることになったアドルフォ王子は死の淵を彷徨うこととなったものの、フィリカ派の使徒ルーサーによって呪いは解除されることになったのだ。この呪いは女体を媒介として広める類のもので、アストゥリアス王国では二十人以上の被害者が死んでいるような状況だ。


 何故、アドルフォ王子が呪いをかけられることとなったのか、それは王子が全ての民に等しく生きる権利と希望を与えたいと言ったから。光の神を信奉していると言いながら、殺戮を愛する司教たちは、多くの命を礎にして作り出した今では禁呪とされている呪いをあっさりと使うことを決意した。


 貴族の結婚にまで口を出してくるムサ・イル派のやり口に辟易としていた人々も、ついには王位継承にまで呪いを使って来たことに嫌悪感を露わにした。呪いを成就させる際に魔力持ちの血や心臓が使われるのは有名な話であり、多くの国々では、魔力を持つ貴族の子供の誘拐が問題となっていたことから、呪いを発動する為に自分の子供が使われたのではないかと疑われることになったのだ。


 ムサ・イル派の戒律は政治に組み込んで使うと使い勝手が良い。

 だとしても、ムサ・イル派に王位を自由に決められるというようなことを望んでいた訳ではない。王家の正当なる血すら呪いを使って排除するとなると、話が変わってくることになる。


 しかも、新たに見つけられたイルの福音書には、ムサ・イル派が主張する通りのことは書かれておらず、歴史的に改竄されて行ったのだということが明らかとなる。


 全てを思い通りにしてきた枢機卿たちは、いざ、大勢の敵に取り囲まれることとなった時に、自分たちを守護すべき番人たちが悉く殺されていたということに気が付いた。


 ボルゴーニャとアストゥリアスとの戦争で送り出した十人の暗殺者が殺されてしまったのは仕方がないとしても、それ以外の者たちまでもが殺された。

「なんてことだ!なんてことだー!」

 枢機卿は発狂したように叫び出した。


 周囲は全て燃えている。司教たちの屍が積み重なり、

「「「悪魔たちを殺せーーー!」」」

 民衆の叫びが炎の中で木霊する。


「何故だ!皇帝ラファはサラーマが洗脳したはずだろう!何故我らを弑するようなことを行うんだ!」


 一人の帝国人が老いた首を蹴り飛ばしながら言い出した。

「我らが皇帝が洗脳などされるわけがない」

 もう一人の男が枢機卿の襟首を掴み上げながら言い出した。


「龍は自由でなければならん、我が皇帝は何者からも支配など受けぬ」

「やめろ」

 数多の人間が死ぬように命令し、己の欲に塗れるままに生きてきた枢機卿も、まさか自分が殺されることになろうとは思いもしない。

「嘘だ、やめろ、光の神が決してお許しにはならないぞ」

「はっ!光の神ね!」

「俺たちは火の神を信奉しているんでね」

「光の神なんて知ったこっちゃねえよ」


 大聖堂に潜入して暗殺の限りを尽くした帝国人に捕まり、引きずられた枢機卿は、これから自分がどうなるのかを理解していなかった。今は帝国人に捕まっていたとしても、熱狂的な信者は何処にでも居るものなのだ。絶対に誰かしらは自分を助けに来るだろう。そうだ、自分は神に見捨てられるはずなどないのだから。


 間もなくして枢機卿は民衆によって八つ裂きにされることになるのだが、そんなことは知るよしもない。



     ◇◇◇



 目を覚ましたサラーマは、ラファに抱きしめられているような状態で寝所に横になっていることに気が付いた。薄暗い室内には自分とラファしか居らず、娘のシャムサは乳母に預けられているようだった。


「私・・」

 目が白くぼやけてよく見えない、それでも呪いの力が全て焼き切れて無くなっていることに気が付いた。


「サラーマ、帝位はウィッサムに継がせることにした」

 サラーマの髪の毛に顔を埋めるようにして抱きしめていた皇帝ラファがそう告げると、勢いよく起き上がったサラーマがラファの顎を掴みながら言い出した。


「もしかして・・もしかして!あなた!私の洗脳を受けていたわけじゃないのね!」

 ラファは翡翠色の瞳を細めると、意地悪そうな笑みを浮かべながら言い出した。

「私に偽物の力が通じるわけがない」

「では・・では・・何で私の言うことをそのまま聞くようなことをしたの?」


 ラファはサラーマが命じるままに、皇宮の奥深くにサラーマを招き入れて、ムサ・イル派から送られて来た間者は全て、サラーマの望むままに排除してくれたのだ。


「番の言うことを聞くのは当たり前のこと」

「番?」

「お前は私の番だからな」


 ラファはサラーマを抱き寄せると、再び髪の中に自分の顔を埋めながら言い出した。

「番を守るのは私の役目、番の望みを叶えるのも私の役目だ」

「もしかして・・ムサ・イル派の枢機卿や司教たちは滅ぼされたの?」

 サラーマの問いに、ラファは抱きしめる力を強めて答える。

「奴らの行いを明らかにしてくれたの?」

「私は手の者を送り込んで、戦闘能力が高い者を率先して殺させただけだ。奴らの悪事の暴露は他の国の者どもがすでに手をつけていたのでな、アラゴン大陸は大騒ぎとなっているだろう」

「なんていうことかしら・・」


 サラーマはラファの胸に自分の額を押し当てながら泣き出した。差別と迫害、虐殺とエゴの権化のような者たちが、ようやくこの世から排除されたのだ。


「私、あいつらを殺すために今まで生きてきたの」

「知っている」

「あいつらを殺すために生きてきたのよ」

「それも知っている」


 大泣きするサラーマをラファが包み込むように抱きしめた。

 自分の勝手な行いによって呪いが発動して、危うくサラーマは死ぬところだったのだ。あの水と氷の魔法使いの番と、光の魔法使いの兄妹がいなかったら、サラーマは危うく死んでいたことだろう。


「サラーマ、今は眠れ。そうして体が良くなってから、シャムサと一緒に砂漠へ帰ろう」


ここまでお読み頂きありがとうございます!

モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ