第四十一話 宝石眼の呪い
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皇帝ラファの妾妃であるサラーマは、頭がおかしくなりそうだった。
サラーマが持つ宝石眼は強力なものであり、だからこそ、帝国までわざわざ送り込まれることになったのだ。
魔法王国サラマンカの王の心臓を用いた邪法によって作り出された宝石眼に適合出来たのは、サラーマの他には少女が一人だけだったと聞いている。
適合出来なかった四十六人の子供は死んでいる、それだけ強力な呪法によって作り出されたものなのだ。
「安易に使ってはいけないものだったのよ」
最初は優しい人だと思ったのだ。そうして、寂しい人なのだと思ったのだ。
皇帝だとは思いもしなかったその人が、自分の身分を明かした時に、サラーマは躊躇せずに自身の宝石眼の力を使った。
『ムサ・イル派の枢機卿たちや司教たちを破滅に導くために、帝国を、奴等を誘き出す格好の餌場としたい』
聖騎士団を結成した枢機卿たちは必ず海峡を渡ってこの国までやって来る事だろう。協力していると見せかけて、奴らの思惑通りに進んでいると見せかけて、そうして破滅へと導いてやる。
何が神だ、何が神の意思だ、全てはお前たちのエゴで物事が決められているだけではないか。多くの血を流し、心臓を抉り出し、邪法を手に入れて、己の好むままの世界を作り出そうとしている。その下に積み重なる屍の山を見ても、何も感じないお前らに生きている価値はない。
そう、奴らを殺すために皇帝を利用してやろうと思ったのだ。世界を平和に導くために、皇帝を利用してやろうと思った。それがどうだ、ラファは黒龍と化して皇妃を踏み潰し、多くの臣下を肉塊として、後継者となるウィッサム皇子を殺そうと牙を剥いている。
二人の間に生まれたシャムサ、太陽という意味を持つこの名は男にも女にも付けられる名前。ラファからこの名を授かった赤子は男子であると、皆が皆、勝手に思い込んでいるのだが、シャムサは女児なのだ。
皇帝になるのは男と決められているのだから、シャムサが皇帝になれるわけもないのに、ラファは何故、次の皇帝はシャムサであると宣言したのか?洗脳ゆえの効果なのか?
「ああ、全て私が悪いのだわ」
使い慣れない強力な力を使ったが為に、おかしな方向に力が働いてしまったのだ。今はこの命を賭けてでも、ラファを止めなければならない。
宝石眼は呪われた力、その強力な力を引き出す際には、血の涙が溢れ出す。恐ろしい力の渦を感じで、赤子のシャムサは火がついたように泣き出した。
「シャムサ、ごめんね、お前を置いていくお母さんを許してね」
洗脳の力を発揮して、巨大な黒龍の動きを抑え込む。
氷の騎士が黒龍の頭上に巨大な氷の塊を落としたけれど、ウィッサム皇子がついに漆黒の薔薇で皇帝の体を捉えたけれど、血を吹き出しながら白龍が黒龍の喉笛に噛み付いているけれど、まだ足りない、皇帝を倒すにはまだ力が足りない。
足元に赤子のシャムサを置いたサラーマは己の力を外に出すことに集中した。だからこそ、後ろから誰かが近づいていることになど気が付きもせず、
「皇帝は嘘をついていますよ」
後ろから伸びてきたほっそりとした女性の手はひんやりとした水をまとったものであり、その手はサラーマの目を無理やり閉じさせると、
「皇帝!あなたは嘘をついている!あなたの嘘が私には見える!」
と、背後の女性は大きな声で叫んだのだった。
◇◇◇
なんという茶番か。こんなことをやりだすくらいなら、最初から話し合いで解決してもらいたい。そんなことを考えながら、ペネロペは宝石眼を使って力を発揮しようとするサラーマの目を水の力を使って覆い隠すようにすると、
「マリー!マルセロ!万が一があったら困るから、こちらに来て赤ちゃんを守ってちょうだい!」
と、大声をあげる。
すると、瓦礫の上を飛んできた二人が赤子を拾い上げ、自分たちの前に大量の武器を瓦礫の間に差し込むようにして並べていく。
「皇帝ラファ!あなたの愛する妻が死ぬわよ!今すぐ暴れるのをやめなさい!」
ペネロペはサラーマの目を手で覆いながら大声をあげると、黒龍はピタリと動きを止めて、ウィッサムの薔薇の檻に捕えられるようにして体を小さくしていく。
漆黒の薔薇の檻の周囲には氷まで覆い始めているけれど、元の姿に戻った皇帝は雁字搦めの状態でペネロペの方を振り返る。
「このままでは、あなたの妻が死にます。番を死なせたい龍が居るなんて知らなかったのですが?貴方は番を殺したいの?」
大きく目を見開いた皇帝が慌てた様子でこちらに向かって走ってくるので、ペネロペはため息を吐き出しながら言い出した。
「アンドレス様、氷の力をください。今すぐこの人の目を冷やしてあげないと、とってもとってもまずいの」
巨大な龍が消失して拍子抜けしたような様子だったアンドレスも、切迫したペネロペの声に応じるような形で氷の魔力をペネロペに飛ばした。
ペネロペの水の魔力とアンドレスの氷の魔力は親和性がかなり高いため、ペネロペに宿った氷の魔力があっという間にサラーマの目の周囲を薄い膜のような形で凍らせていく。
赤子のシャムサはマリーが抱えているため、マリーの兄となるマルセロの協力を得てサラーマをその場で横たわらせると、膝枕をしたペネロペはサラーマの目を押さえたまま額から汗を滴らせた。
「ラファ様、今は緊急時なのです、この方の命を助ける為には目に宿った呪いを引き抜かなければなりません」
薔薇と氷で雁字搦め状態でここまでやって来た皇帝を見上げたペネロペは、
「命が掛かっているのです、だからこそ、暴れたり、地面を揺らしたり、そういうことは絶対にやめてください!」
はっきり、きっぱりと言うと、ラファはその場に跪きながら言い出した。
「何でも良いから助けてくれ!彼女をこんな目に遭わせるつもりは全くなかったんだ!」
「でしょうね」
ペネロペは全てを分かっているような様子なのだが、周りに集まった者には全く理解が追いつかない。それでも、ペネロペの後ろからそっと手を伸ばしたアンドレスは、魔力を流しながらペネロペの手を捉えると、
「ペネロペ、力なら私の力を使え」
そう言ってペネロペを後ろから抱きしめ、集中するように目を閉じたのだった。
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