第四十話 急いでお願い
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「長老たちは転移魔法を使ってまとめて外に送り出すことにする。バルデムも一緒に外に出て欲しいのだが」
「「旦那様!」」
後ろから声をかけて来たのは、マリーとマルセロ兄妹であり、
「大魔法には物理が効きます」
「戦闘許可を出してください」
と、勢い込みながら言い出した。
「皇子、この二人は優秀な手の者なのですが、皇帝陛下を抑えるのに使ってやってはくれませんでしょうか?」
「うん、いいよ」
皇子は自分の腰からもカーブを描いた剣を引き抜きながら言い出した。
「バルデムは皇帝が私やアブドゥラを殺しにかかると思っていたのであろう?だからこそ、光の王子を帝国まで連れて来た」
「発案はグロリア・カサスの弟、ジョルディ殿なのですがね」
「皇帝ラファへの洗脳がどの程度まで深いものかは分からないが、ムサ・イル派の枢機卿共の思惑通りとするのなら、私やアブドゥラは邪魔になる」
「皇子様!物理です!物理!」
「行ってきても宜しいでしょうか?」
馬鹿みたいに興奮する兄妹をじろりと見ると、ウィッサム皇子は追い払うように手を振りながら言い出した。
「物理で倒せるものなら倒して見せよ」
「「承知いたしました!」」
二人が黒龍に向かって走り出すと、白龍がその二人を迎えるように手を伸ばす。その竜の腕を飛ぶように登り上がった二人は、巨大な竜の頭の上へと降り立った。
「アストゥリアス人同士の連携か?」
「いえいえ、ただ単に船の中で仲良くなったみたいですよ」
アドルフォ王子の質問の嵐はセブリアンを辟易とさせるものだった。結果、侍女のマリーに王子の対応は丸投げすることにしたのだが、意外なことにマリーは王子のしつこさに辟易ともせずに、真面目に一つずつ答えていったのだ。
本当に王子のしつこさにはうんざりとしたものなのだが、それに合わせられるマリーは凄いとセブリアンは密かに思っている。
「それでは外に出すぞ」
竜と連携しながら戦う兄妹の姿を眺めていたセブリアンは、
「それでは行きましょうか」
と、答えて族長たちの元へ移動する。
「私の転移魔法で安全な場所に移動させるから心配するな」
ウィッサム皇子の転移魔法が生半可なものではないと知る族長たちは安堵のため息を吐き出したのだが、謁見の間はすでにメチャクチャな状態になっている。
「あれ?皇妃様は?」
族長の一人があちこちに視線を送りながら問いかけると、ウィッサム皇子が、それは良い笑顔を浮かべながら言い出した。
「皇妃とその一族は私の庇護の対象には入らない」
なにしろウィッサム第三皇子はアブドゥラ第四王子と皇位継承争いをしている最中なのだ、自分の陣営の者ではないと言うのなら確かにその通り。
「我が陣営の者のみ助けるつもりで居るのでな、皇妃を探しに行くという者は今すぐ陣より離れよ」
誰もが黙って俯く中、セブリアンだけが視線を上空に向けていた。
何かの力が近付いてくるのを感じていたのだが、まさか、娘のペネロペということはあるまい。
なにしろペネロペは熱発したロザリアの面倒を見に行っている、こんな所に現れる筈がないと壊れた屋根を眺めていると、氷が降り注ぐようにして現れる。遥か上空を氷の馬に乗って現れたのはアンドレス・マルティネスと娘のペネロペであり、
「ペネロペ!」
セブリアンは柄にもなく大声を張り上げたのだが、その声がペネロペに届くはずもなく、転移魔法によって皇宮の外れに放り出されることになったのだった。
◇◇◇
巨大な黒龍と白龍が互いを噛み合い、尾を振るって叩き合う中で、長剣を携えた二人の戦士が黒龍から伸びる触手を斬っていく。
黒々として薔薇の檻が現れて漆黒の長大な龍の体を捉えようと動き出す。その薔薇の波の上にウィッサム皇子が乗り、巨大な牙を作り出して喰いつこうとしたが、黒龍の咆哮によって崩れ落ちる。
崩壊した謁見の間に豪奢なドレスを着た女が居たのだが、黒龍の足に踏み潰されて真っ赤な肉片と化している。
その近くには一歳になるかならないかという赤子を抱いた女がいて、黒龍に向かって何かを叫んでいた。
本来護衛につくはずの兵士たちは、封鎖された結界から逃げることも出来ず、右往左往するばかりとなっているようだったけれど、ウィッサム皇子の配下の者なのか、漆黒の薔薇を使ってよく戦う兵士たちもいるようだった。
「ペネロペ、君の父上は転移魔法で移動をしたようだ!」
父を助けにこの場までやって来たのだが、魔法陣の光と共に、父は大勢の人たちと安全な場所に転移したようだった。
白龍と連携して戦っているのはマリーと兄のマルセロのようだけれど、黒龍の方が圧倒的に有利な戦いのように見える。
「皇帝を抑えるのに力を貸してくる、ペネロペは安全な所に居てほしいのだが・・」
空飛ぶ氷の馬から睥睨したアンドレスは、
「これでは、安全な場所などないな」
と言って絶句した。
ウィッサム皇子が作り出した漆黒の結界は強力なもので、黒龍の魔力をこの場で抑えつける執念のようなものを感じた。そして外から中に入るのは簡単だが、中から外に出るのは非常に難しい作りだということにも気が付いていた。
「アンドレス様!私をあの赤ちゃんを抱えている女の人のところに降ろしてください!」
ペネロペは叫んだ。
「あの女の人のところへ急いで、お願い!」
赤子を抱えた女は、大きく震えながら黒龍を見上げている。
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