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第三十九話  巨大な魔法

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 誘拐されてから緊張し続けていたロザリアは、離宮へと移動している間に、体調を崩してしまった。


「ロザリア様、お医者様が来たから診てもらいましょう」

 ジョルディの言葉に首を横に振り続けたロザリアは、

「嫌、絶対に嫌」

 と言って頑なに拒否をする。


「ペネロペが戻って来るまで待っているから」

 ウィッサム皇子の子供達に病気をうつしてはまずいという事で、離れた場所にある個室へと移動することになったロザリアは、頑なに診察を受けることを拒否し続けたのだった。


「やはり帝国人の医師では駄目だということかしら?アストゥリアス人の医師は無理だとしても、異国出身の医師は探せばいるかもしれないけれど」

 ウィッサムの妻が気遣うようにそう言ってくれたけれど、侍女のマリーは首を横に振って困り果てたように笑う。


「姫様は他人が信用できないのです。今まで医師を信頼することが出来なかったので、例えアストゥリアス人を連れて来たとしても無理なのです」


 高熱を発するロザリアにただ熱冷ましを飲ませれば良いというわけではない。勿論、医師や治癒師の診察を受けてもらいたいとは思うのだけれど、マリーだけでは到底無理で・・

「私、ペネロペ様に相談して来ようかと思います」

 マリーがそう言うと、ウィッサムの妻は案内役を用意してくれると言うし、ジョルディは責任持ってロザリアの面倒をみると申し出てくれたのだった。


 帝国の皇宮は腕状の屋根を上に乗せた無数の建物で出来ており、皇帝が執務なども行う本宮の壁の縁には鮮やかな黄金が装飾されており、豪華絢爛となっている。


 ペネロペを呼び出して欲しいとマリーは願い出て、案内人と共に侍女や侍従が控える控室へと案内されることになったのだが、待てど暮らせどペネロペは現れない。


 どうやら皇帝の妾妃がわがままを言っていまだに謁見は行われていないようなのだけれど、ペネロペはこちらの方へ出向いて来ない。ロザリアは熱を出しているし、さあ、困ったぞとマリーが頭を抱えそうになっていると、突然、天をも貫くような爆発音が轟いて、屋根に無数の瓦礫の雨が降り注ぐことになったのだ。


「な・・なんだこれは!」

 案内人の後について歩きながら建物の外に出ると、無数の屋根が衝撃で吹っ飛んでいく様が視界に入る。


 巨大な魔力のぶつかり合いで建物が破壊されたようで、もうもうたる煙が天に昇るように広がっている。

「あの!」

 マリーは案内人の男に声をかける。

「私は姫様の護衛も兼ねているのですが、向こうで巨大な魔力がぶつかり合っていますよね?魔力のぶつかり合いを止めるには物理が有効だと思うのですが、その物理で止めに入っても宜しいでしょうか?」


「ぶ・・ぶ・・物理ですか?」

 一体どこから引き出したのかも分からない巨大な剣を持つマリーをびっくりした様子で眺めていると、

「この規模のぶつかり合いは街を消滅させるレベルですよ、皇都を守りたいなら急いだほうが良いと思うのですが?」

 マリーが被せるように言ってきたため、案内人の男はごくりと唾を飲み込んだ。


 案内人の男が唾を飲み込んでいる間も、衝撃波で近くの建物が崩れ落ちていった為、

「わ・・わかりました!私について来てください!」

 とりあえず男は腹を括ることにしたらしい。



 巨大な魔力のぶつかり合いを確認したマルセロは、武装をした妹のマリーが遠くで移動をしている気配を窓から顔を出して確認する。


「い・・今のは何ですか?」

 ロザリアに付き添うジョルディの質問に、マルセロは小さく肩をすくめて答える。

「魔力同士のぶつかり合いですが、放置すればこの場所も危うい。俺はあの戦いを止めに行こうと思うのですが、姫様をジョルディ様に任せてもよろしいでしょうか?」


「も・・もちろん!」

 魔力のぶつかり合いの規模の大きさにはジョルディも気が付いている。鬼才とも言われるグロリア・カサスの弟は、凡庸な男ではない。


「こちらの宮には私が魔道具を利用して結界を張りましょう。こちらは僕がどうにでもしますので、大元の方をお願いします」


 ジョルディはそう言った後、

「皇帝とアドルフォ王子がぶつかり合っているのですよね?」

 と、声を顰めるようにして言い出した。


「皇帝は闇の魔法の使い手、それは大魔法使いキリアンや大魔法使いエルを超えるとも言われています。その皇帝を止めるのに光の魔法があれば良いと思ったのですが・・」

「魔法には物理も効くんですよ」


 マルセロはそう言ってニヤリと笑うと、

「皇帝のドタマをかち割ってきますよ」

 と、酷く物騒なことを言いながら、窓の外に飛び出して行ってしまったのだった。



     ◇◇◇



 セブリアン・バルデムと皇帝ラファはそれなりに長い付き合いとなるのだが、今の皇帝の動きは理解の範疇に収まらない。


「グァアアアアアア」

 巨大な黒龍の咆哮は耳が痺れるほどの大音量であるし、それを迎え撃つ白龍の威嚇する牙を擦り合わせる音が身の毛もよだつような異音に聞こえる。


「はあああ・・どうしてこうなってしまったのか・・」

 水の力で押し除けながら、瓦礫の下に挟まった長老とその側近たちを助け出しながら、セブリアンは自分の痛む胃を手のひらで押さえ続けた。


 アストゥリアス王国はボルゴーニャ王国に勝った。


 それは喜ばしい一報となったのではあるが、続けて送られて来たのがグロリア・カサス嬢から送られて来たもので、王都には黙った状態で、ボルゴーニャの王から買い上げた王国に関する全ての権利を、帝国と交渉して売り払いたいと言う。


 王都に黙ってと言うことは、アストゥリアス王国のラミレス王に黙った状態で、ボルゴーニャ王国の権利一式を帝国に売るという。戦争に勝利したと言うのに、併呑しないで売り払う。そんなので良いのか?そんな勝手が通るのかとセブリアンは疑問に思ったのだが、

「ボルゴーニャの海軍は帝国に渡さずに我が手中とする」

 と、最後にそんな一文が載せられていた。


 代々の皇帝は北大陸への侵出を目論みながら失敗を続け、北大陸に領土を広げるのは帝国にとって悲願にもなっていた。今の皇帝ラファは現実主義であるため、先祖代々の想いというものに頓着するようなことはしないタイプの男なのだが、力ある族長たちの思いまで踏み躙ることが出来ない。


 落とし所としては、ボルゴーニャ王国の占領まで。ここ最近のボルゴーニャ王国は凡庸な王の統治が続き、民の疲弊が目についていた所でもあった為、ここで先進国でもある帝国に統治を任せて、そのノウハウを盗み出すことが出来たなら、そんなことを考えていたわけだ。


 ボルゴーニャ海軍を手中とするのならば、有能な家臣の引き込みにまでグロリア・カサスは手を出すだろう。


 アストゥリアス王国ではシドニア公爵の没落により、連座する形で多くの貴族が地位を剥奪される形となったのだ。であるのなら、優秀なボルゴーニャ人を引き込んで利用するくらいのことならやるだろう。


 ボルゴーニャ海軍をアストゥリアスに引き込むのは、帝国に力を付けさせないため。満足するまで帝国にはボルゴーニャの地を統治して貰って、その後は帝国との友好国であるサラマンカとアストゥリアスが分割統治という形に持っていく。


 皇帝がまともであれば、そのシナリオで進められるだろうとは思ったものの、最近の皇帝はどうもおかしい。今日に至っては、謁見の間で黒龍の魔法を使って大暴れまで始めているのだ。


「ああああ・・こんなはずじゃなかったのに・・」

 シクシク痛む胃を押さえながら最後の一人を瓦礫の下から助け出すと、黒の結界で皇帝とアドルフォ王子の魔力が外に溢れ出ないように抑え込んだウィッサムがこちらの方へとやって来る。


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