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第三十八話  光の王子

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 妾妃サラーマが謁見の間に嫌々現れた、彼女の腕の中には皇帝との間に生まれたシャムサがぐっすりと眠っている。シャムサはサラーマに良く似た亜麻色の髪を持つけれど、顔立ちは帝国人のように彫りが深く、まつ毛は影が出来るほど長いのだった。


 皇帝ラファは45歳、皇妃アリアズィアの他に側妃を六人抱えており、その全てが有力な族長たちの娘ということになる。


 ポッと出のサラーマは帝国人とアラゴン大陸に住む貴族との混血なので、特徴的には帝国寄りの容姿をしていた。サラーマが皇宮に現れてからと言うもの、台風の目となって周りをかき乱していることもあり、謁見の間に集まった族長たちから憎悪の目を向けられることになってしまった。


 今、現在、アストゥリアス王国とボルゴーニャが戦争をしており、アストゥリアスが勝利をしてボルゴーニャを併呑すれば、帝国が北大陸にへ侵攻することが非常に難しいことになるだろう。


 陸軍の要は新型の武器であり、その新型武器の要となるのが、これから謁見の間に現れる予定のセブリアン・バルデムが帝国に売る弾丸や火薬の類ということになる。


 族長たちとしては、ボルゴーニャ王国に向けての侵攻を開始するように皇帝から今すぐ命令が出ることを望んでいるのだが、サラーマを溺愛して夢中になっている今の皇帝では無理かもしれない。


 長年の悲願が放棄されるのを黙って見ているしかない状態の族長たちの憤怒の怒りは相当なもののようで、空気は張り詰めたものとなっている。


 指先で魔法陣を作り出したサラーマは、自分と皇帝、二人の子供であるシャムサに光の神の結界魔法陣を作り上げていく。帝国人、特に皇族の血が流れる者には闇の魔法を良く使う者がいるため、暗殺防止のための結界となる。


 大聖堂で神の子として暮らしたサラーマは膨大な魔力を持っていた為、枢機卿たちから秘術と呼ばれるものも多く学ばされた。これから売りに出す子供の存在価値を上げて値を釣り上げようという魂胆に他ならないのだが、今はその教えがサラーマを特別にしてくれている。


「今日はセブリアンとの謁見であったか?」


 玉座についた皇帝ラファが、自らの膝の上に子を抱えたままのサラーマを乗せる。暗殺防止という名目を付けながら、実際にはラファがサラーマを離したくないだけのことであり、隣の席に座る皇妃アリアズィアが、歯軋りする音がこちらまで聞こえて来そうだ。


 これから現れるセブリアン・バルデムという男は、枢機卿たちが送り込んで来た信者の一人に違いない。


 サラーマがどれだけラファを虜にしているか、自分たちが大陸から帝国に逃げ出すのにどれだけ助けとなるのか、どれだけ皇帝を利用出来るのか判断するために来たのだろう。


「帝国の太陽にご挨拶申し上げます」


 しばらくして、謁見の間へとやって来たのはずんぐりむっくりの男で、皇帝の前で跪くこの男と会った記憶はないけれど、その後ろに居る若い男にサラーマは興味を唆られることになったのだ。


 漆黒の瞳と髪を持つその男には呪いの残滓が僅かだけ残っており、その僅かな匂いはサラーマの記憶を呼び起こす。


「サラーマお姉様、私はこの呪術を使ってアストゥリアスの王子を呪い殺して来ます」


 美しく可憐な妹、彼女もまた僅かに持つ魅了の力を見出されて枢機卿たちに攫われた存在。呪いをその身に宿して大聖堂を出発するその日に、

「神のお望みの通りに、私はアストゥリアスの王妃となってみせましょう」

 と、渦巻く瞳で言っていたものだった。


 神の子は年頃となると、司教たちの思惑によってお互いに洗脳をし合うようになる。枢機卿や司教の忠実なる駒となるため、何重にもかけられた思いや思考はなかなか外すことは難しい。


「ああ・・あの娘は失敗してしまったのね」

 サラーマは洗脳にはかからない。誰よりも膨大な魔力と宝石眼の力を持っているからだ。


 呪いを植え付けられた少女は司教たちによって種を解放されることになる。道連れにするはずだった男が生きていることが許せずに、少女はへばりつくようにして男にまとわりついている姿がわずかに見えた。


『ああああ・・神に・・神に彼の魂を捧げなければ・・・楽園に行けない・・彼を道連れにしなければ楽園に行けない・・』


 彼が光の魔力の持ち主だからこそ、少女は男を闇の中に引き摺り込めずに嘆いている。


「サラーマ、宝石眼を使うな」

 皇帝ラファは大きな手でサラーマの目を覆うようにすると、

「ウィッサム皇子、貴様は予に謀反を働くつもりか?」

 と、第三皇子に向かって苛立たしげな声をあげた。


「光の魔法使いを連れて来るとは!我を弑するつもりであるのか!」


 噴き出る皇帝の魔力によって、謁見の間の壁が崩れ落ちていく。

 膨大な魔力の拡散を前に、ウィッサムが闇の結界を瞬時に広げるのが良く見えた。


 この謁見の間には有力者と言われる族長たちも集められていたのだが、皇帝の怒りに驚き慌ててその場でへたり込む者まで出て来る始末。


「ラファ様!やめて!」

 光の王子を見たままにやりと笑う皇帝ラファの意識の中にサラーマは居ない。その一瞬の隙をついて隣に座る皇妃アリアズィアがナイフを振り上げて、シャムサに向かって斬りつける。


「お前が!お前さえ居なければ!」


 ラファとは同じ年齢となる皇妃アリアズィアはとても若々しく見える美女であったはずなのだが、鬼の形相となってナイフを振り下ろそうとするその表情は皺だらけの老婆のようにも見えた。


 魔石を使った魔道具のナイフを使っているだけに、サラーマの結界を破る自信が皇妃にはあったようなのだが、ナイフは結界に弾き返されて皇妃が床に転がっていく。


「影の者ども!サラーマを頼む!」

 赤子のシャムサを抱いたままのサラーマを皇帝が膝から下ろすと、足元に漆黒の穴が開いたような感覚がして、次の瞬間には謁見の間の端の方へと移動している。


 帝国の偉大さを表すために皇帝の謁見の間は天井が高く荘厳な作りをしている。

 椀型の大きな屋根の下には巨大な渦を描いたシャンデリアがぶら下がり、その下で驚き慌てる族長たちが逃げ惑う姿が良く見える。


「光の魔法使い、お前は嫌な匂いがして堪らない」


 玉座から立ち上がった皇帝ラファが漆黒の巨竜に変化をした為、周囲は阿鼻叫喚の坩堝と化したのは言うまでもない。


「嫌な匂いだなんて・・心外だな」

 漆黒の王子はそう言うと、純白の竜となって躍りかかる黒龍を迎え撃ったのだった。


ホラーの連載も始めました。『チャンネル』と言うお題で、病院で働いている時の実話など織り交ぜながらお話を作っております。良かったらそちらも読んでくださーい!モチベーションの維持にも繋がります。

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