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第三十四話  絶句

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 妾妃の化粧直しは無限に続くのではないかと思うほどの時間が経過したけれど、未だにお呼びがかからない。時間は有限であるし、今この時間を使って根回し出来るところには最大限根回ししておきたいと考えたペネロペの父は控えの間から出て行ってしまった為、ペネロペはアドルフォ王子と二人だけで残されることになってしまったのだ。


 ウィッサム第三王子も最初に顔を出しただけで、謁見に付き添うだけで他の用は特にないペネロペは、アドルフォとのお茶会無限地獄に嵌まり込むこととなったのだが・・


「姫様の好みのドレスですか?そうですね、姫様は着られれば何でも良いと口では言いながらも、それなりにこだわりがある方です。特に注意が必要なのは脇の下ですね」


「脇の下だと?」

「そうです、肩口に固い素材を使うと脇の下に違和感を感じて二度と着ませんし、レースを沢山使用するものも好みません。実は一番好まれるのが、金持ちの商家の娘が着るような形のドレスです」


「商家の娘だと?何故、そんなドレスをロザリアが着るのだ?」

「外で遊ぶ時に利用されて、それから好むようになったのです」

「淑女が外で遊ぶ?」


 物凄い目で睨まれたものの、ペネロペはまるきり無視して話を続けた。


「姫様は離宮に軟禁状態でお育ちになったようなもの。しかも周りの大人は害意のあるような者ばかりで、姫様を心から気に掛けるような者はおりません。周り中が敵というような状態では室内に居ても満足に息つく暇もなかったことでしょう。そんな姫様をまずは解放しようと思い、外で遊ぶことを覚えて頂いたのです」


 あえての泥んこ遊びで、ロザリア姫はドロドロになって地面に寝転がっていたものだが、それを繰り返すうちに、彼女の中で何かが吹っ切れたのをペネロペは感じていた。


「子供のうちは外で遊ぶことが必要なのです、殿下も外で遊んでいらっしゃったでしょう?」

「私は外では鍛錬のみで、遊んだことなど一度もない」

「そんな育て方をされたから、碌でもない大人に育ってしまったのですよ」


 むぐぐと唸り声を上げるアドルフォ王子(今は王子ではない)を見つめながら、ペネロペは大きなため息を吐き出した。


「私は一体いつまでロザリア様のことを貴方様にお教えしなければならないのですか?大概の話はマリーからお聞きになったものと思いますけれど?」


「いや、同じ話でも視点が違うだけで新しい発見は多いものなのだ」

 メモをめくりあげて確認しながらそう言うアドルフォを見ながら、悪人ではないんだけれど、と、ペネロペは思っていた。


 悪い人ではないのだけれど、為政者にありがちな自己中心的というか、世界は自分を中心にして回っているというか。周りの人間は自分に合わせて当たり前というか、ペネロペはイケメンがとっても嫌いなのに、長々と質問を受けている間に、アドルフォに対する好感度はマイナス値を突破しそうになっていた。


「ロザリアにドレスを送ろうと思うのだが、レースは少なめに、肌触りが良い上等な生地を使ってレースは少なめにすれば良いということだな」

「そういうところですよ」


 ペネロペは目を眇めながら言い出した。


「ドレスを贈れば女はとりあえず喜ぶだろうというその固定概念、捨てた方がよろしいと思いますわよ」

「・・・・」


「ドレスが駄目だったら宝飾品などと考えていたら、呆れてものが言えませんわね。ロザリア様はそこら辺に転がっている令嬢たちとは違うのです、聡明すぎるほどに聡明な姫様がそんなものを喜ぶと思いますか?」


「そ・・それでは・・お前なら何を喜ぶと思うのだ?」

「問い掛ければ何でも答えて貰えるだろうと考えているのが浅はかなのですよ」


 ペネロペは呆れ返りながら言い出した。


「ご自分で考える努力をなさいませ、貴方自身、誰かに言われたからと言って用意されたプレゼントを心から喜べますか?自分のことを必死に考えて用意されたプレゼントだからこそ嬉しいものだと思いませんか?」


「必死に考えて用意されたプレゼントが検討はずれの物だったらどうする?下手したらゴミ箱入りになると思うのだが?」

「殿下のお心は貧し過ぎますよ」

「はあ?」

「そんなことだから、女性の心一つ捕まえることが出来ないのです」

「はああああ?」


 アリカンテ魔法学校に通っている時点で、アドルフォは確かに女子生徒から絶大な人気を誇っていただろう。銀色の髪に金の瞳を持つ王子様らしい美しい容姿をした彼のことを憧れる者は多く、常に彼の隣に立つ子爵令嬢もなかなか可愛らしい容姿をしてはいたのだ。

 

 可愛らしい令嬢と青春を送っているように見えながらも、その可愛らしい令嬢は誰とでも深い関係を結ぶビッチオブビッチ。更には浮気をしているというのに、婚約者であるグロリアは完全に無視の状態。


「女性にモテているように見えて、虚しい関係しか築けなかった青春時代。結局、ビッチオブビッチに嵌められて死にそうな目に遭って、それで今更のように今まで放置一択のロザリア様と関係を構築したいですって?」


 心の奥底から馬鹿馬鹿しい、そんな眼差しを向けられたアドルフォは、過去に自分の婚約者だったグロリア・カサスが降臨したような錯覚を覚えた。


「そういえば、お前はグロリアの友人だったか」

「ええ、そうですけど?それがなにか?」


 お互いの間に不穏な空気が流れ始めたところで、扉をノックする音が響き渡った。応対に出た侍女がペネロペを呼ぶので扉の方へと行くと、筆頭侍女と呼ばれる人がペネロペを待ち構えていたようだった。


「ペネロペ・バルデム様、貴女様の侍女が貴女様を呼んでくれないかと、急に本宮の方へとやって来たのです。何でもアストゥリアスの姫の具合が悪くなったようで」


 侍女頭はペネロペの耳元に囁くように言い出した。

「このまま離宮で安静にするべきか、それとも邸宅に姫様だけでも戻るべきなのか、判断を仰ぎたいとのことでございまして」


 朝からロザリアの顔色は悪かったのだ。

「熱が出たということでしょうか?」

「それは私どもの方に話してはくれませんでした、とにかく貴女様を呼んでほしいとのことでございまして」

「分かりました」


 ペネロペは一旦、アドルフォの方まで戻ると、

「姫様の具合が悪くなったようなので、少し様子を見に行ってきます」

 と、彼の耳元に近づいて小声で囁いた。


 王族の体調を大っぴらに言うことを忌避しての行動だったのだが、アドルフォは途端に眉間に皺を寄せて言い出した。


「君はここで嘘を見抜かなければならないのだろう?であるのなら、私がロザリアの元へ向かおう」

「貴方様は姫様に嫌われていますよね?」


 苛立ちを露わにする王子を見下ろしながら、ペネロペは言い出した。

「姫様は本当に、具合が悪くなるとお医者様も側に寄せようとしないのです。それで困り果てたマリーが私を呼びに来たのかもしれません」

 実際、ロザリアは大概の大人を信用していない。


「何でもアストゥリアスの離宮では熱が出て医師を呼んでも何もしてはくれなかったのだそうです」

「なんだと?」

「薬の処方も何もなく放置されていたそうで」

「はあ?」

「ですから、姫様は医師が大嫌いなのです」


 王と妃に無視された王族の扱いなど、大概が碌でもないものだ。周りの人間が権力に敏感だからこそ、権力に無視される存在に対して虐げる傾向にある。


「私は、今まで良くぞご無事でいられたものだと思っています」

「・・・・」

「ですので、姫様の元には私が行かないと」

 絶句したアドルフォは、膝の上に置いた手を握りしめながら、

「わかった、ウィッサム殿下やバルデム卿には私の方から言っておこう」

 と言ったのだった。


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