第三十一話 頭くるくる
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グロリアの弟であるジョルディがロザリアの顔を見に来た為、ペネロペが気を効かして席を外そうとした所、タイミング良く父であるセブリアンから今すぐ執務室まで来るようにとお呼びが掛かったのだった。
王都オビエドにあるタウンハウスよりも数倍豪華な帝都の邸宅は、父の執務室に移動するだけでもかなりの距離がある。途中、窓越しに美しい庭園の花々を眺めながら、ペネロペは悠長に構えていたところがある。
突然、ウィッサム皇子に誘拐されてからは船の移動を余儀なくされたものの、港からウィッサム皇子が所有する離宮まで移動してからは、比較的のんびりとしてはいたのだ。
まだ二十五歳だというのに、ウィッサム皇子はすでに妻帯をして、美しい奥さんと三人の子供も居るような状態。その奥様の歓待を受けて、ロザリア姫とペネロペはウィッサム皇子の子供達と遊んでいたのだが、その間も皇子はペネロペの父からプレッシャーを受け続けていたらしい。
ペネロペはようやっとの思いで父の元に戻れてホッとしていたのだが、
「あの・・何でウィッサム皇子とアドルフォ王子が一緒に居るのですか?私の父は何処に行ったのですか?」
待ち構えていたのは、二人の王子様というわけだ。
「旦那様はすぐに戻って来ますので、お嬢様はこちらでお待ちくださいませ」
テーブルの上には焼き菓子や紅茶などが用意されており、優雅に二人の王子がソファに腰をかけている。アドルフォ王子は呪いで髪と瞳が漆黒に染まり上がっている関係で、似たような髪色をしているというのに、全くタイプの違うイケメンが並んでいるのを眺める形となってしまった。
イケメンが大嫌いなペネロペは、うんざりした様子でため息をつくと、
「うちの子供たちが君に手紙を書いたので持って来た」
と言って、ウィッサム皇子が封蝋された手紙をペネロペの前に差し出してきた。
ウィッサムの子供は上から四歳、三歳、一歳となるため、中身は丸に線を足したような絵と、形の崩れた文字。一本線が蛇行しているのは、一番下の子が書いたのだろう。
『また遊びに来てね』
と書かれた手紙は非常にほっこりとさせるもので、丸が五つは家族を表しているのだろう。
「これは貴殿の子息が書かれたのか?」
ペネロペが広げた手紙を横から覗き込んでいたアドルフォが問いかけると、ウィッサムは胸を張りながら言い出した。
「息子のハッサンはまだ四歳なのだが、これだけのメッセージが書けるのだ。家族の絵は三歳のアイーシャが描いたもので、下の線は一才のジャマールが書いたのだ。うちの子、天才だろう?」
天才というよりかは年相応に伸び伸びと成長しているように思えるのだが、
「私が仕事で帰れない日が続くと、こうやって手紙を書いてくれるのだ。全てを宝箱に入れて保管している!」
胸を張って答えるウィッサムを見て、
「手紙をいちいち子供から送りつけられるなんて、迷惑ではないのか?」
と、呆れた声をアドルフォがあげている。
「迷惑なものか!生きるための励みだ!子供たちの手紙と妻の愛がなければ、私はとうの昔に帝国から逃げ出していると思うぞ!」
皇帝なんて全くの無縁だと思っていた母の身分も低いウィッサムは、二人の兄が相次いで亡くなったせいで、いらぬ神輿に担ぎ上げられることになったのだ。
第四皇子のアブドゥラは甘やかされて育ってしまったような男で、彼が皇帝となればあっという間に帝国は欲深い族長たちの食い物にされるだろう。今まで地域の紛争は兄弟任せでいたが為に、戦地に赴いたことすらないのだ。
今の皇帝ラファが武力を武器にしてのし上がったことからも分かる通り、部族の族長たちは強い者を求める傾向にある。だからこそ、武勇を求めて第一皇子は海へと行ってしまったし、氷の英雄の返り討ちを喰らって亡くなってしまったのだ。
「皇妃の息子のアブドゥラはあまりに情けない男だし、他の弟たちは八歳とか十歳とか、年齢が低すぎる。であるのなら私が出るしかないと、いやいや担ぎ出されたところで、妾妃の産んだ赤子を次の皇帝にすると宣言されたのだ。色々と大変だし、もう本当に嫌だ!いや!いや!家に帰りたい!」
突然、イヤイヤ期の子供のようにいやいや言い出したウィッサム皇子を見て、ポカーンと口を開けたアドルフォは、恐る恐るという感じで問いかける。
「であるのなら、何故、わざわざアストゥリアス王国まで出向いてきた?何故ゆえにロザリアとペネロペ嬢を誘拐などしたのだ?」
「セブリアンがペネロぺ嬢なら嘘も見抜けるし、何とか出来るかも、とか言い出すから」
「では、何故ロザリアを連れて行った?ペネロペ嬢だけ連れて行けば良いではないか?」
「だって、ロザリアちゃんが可哀想だったから」
ペネロペの協力を得たいと考えたウィッサムは、まずは叔母となるジブリールを頼ることにしたのだが、そこで出会ったロザリアを見て、
「ああ、この子には愛情が必要なんだなぁと思ったんだよ」
と言ってウィッサムは長い足を組んで両手を足の上に置いた。
「可哀想で他国の王女を誘拐するな」
アンドレス並みの凍てついた声でアドルフォが言い出したけれど、その可哀想な王女に、自分は兄のハビエルだと偽って接触していたのだ。同情心から始まっているにしても、そのやり方が残酷なのは間違いない。
「結局、不貞相手の子ではないかと思われている王女が王位を継ぐことはないだろう。であるのなら、ハビエルがアストゥリアスの王位を継ぐ。哀れな姫が暗殺されても可哀想だと思って、わざわざ帝国まで避難させたのだ」
「その避難を勝手にされては困りますよ」
ようやく所用から戻ってきたペネロペの父は、うんざりとした様子でため息を吐き出すと、ペネロペの隣にどっしりとしたお尻をおろしながら言い出した。
「謁見申し込みをして皇帝とは明後日に顔を合わせることとなりましたよ」
セブリアンが不機嫌をあらわにして、睨みつけるようにしてウィッサムを見ると、大きく翡翠色の瞳を見開いたウィッサムは大笑いを始めた。
「私がいくら謁見を申し込んでもなしの礫であったのに、貴公がすれば通るのか!」
「私は帝国に火薬を卸していますからね、戦争好きな皇帝陛下は、火薬弾薬に困るような事態には陥りたくないのでしょう」
ペネロペの父は帝国の火薬や弾丸を独占販売しているような状態なので、何に対してもそこそこには強く出ることが出来るらしい。
「お父様、まさか皇帝と謁見するつもりですか?」
「私はしょっちゅう皇帝とは顔を合わせている、だが、最近の皇帝陛下はやはり頭がおかしくなっているようなのだよ」
セブリアンは自分の頭の周りで人差し指をくるくる回しながら主張すると、
「謁見には妾妃サラーマ様を同席させるようだから、ペネロペにはどういった嘘が蔓延しているのかを確認して欲しい」
と、言い出したので、愕然としたペネロペはしばらく固まると、
「そのお話ってまだ生きていたんですか!」
と、大声を上げた。
嘘があるなら見破って欲しいとウィッサム皇子からは耳にタコが出来るほど言われていたのだが、父の元に戻って来て、その話は無くなったものと考えていたのだ。
「皇帝の頭がコレだから、周囲の皆さんが本当に困り果てている。帝国も決して一枚岩というわけではないのだよ」
それにしても、セブリアンは自分の頭のまわりで指先をくるくると回しているが、不敬罪に問われることはないのだろうか?
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