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第三十話  責任を取る必要性

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 アラゴン大陸でムサ・イル派が権勢を誇っている今の時代では、帝国相手に貿易で儲けようと考える人間は極端に少なくなっている。


 他民族で他宗教を信奉する人間は蛮族に他ならず、帝国まで来て頭を下げてまでして交流を求めたのもフィリカ派に帰依した魔法王国サラマンカ位のものである。その帝国相手に対等に商売をしようと現れたバルデム伯爵が持ち込んだのが『黒色火薬』であり、魔法使いの出生率が著しく下がっている帝国の起爆剤となったのは間違いない事実だ。


「ハー、何で私がここまで多忙じゃなくちゃいけないんだ・・」


 皇帝ラファの三番目の息子として生まれたウィッサムは、母親の地位も低く皇帝になる目など無かった為、若くして幼馴染の族長の娘と結婚し、子供もすでに三人いる。皇帝となるのは皇妃が産んだ第一皇子、その補佐として活躍するのが第二皇子、地位も低いウィッサムは軍部に居た為、第二皇子との付き合いの方が長かった。


 領土を広げ過ぎた帝国では反乱が頻発し、その鎮圧に当たるために闇の魔法を使う皇子たちは重宝されることになったわけだ。皇帝一族は代々、闇の魔法の使い手が生まれ出ることが多い。広大な領土を統治するのに瞬時に移動を出来る闇の魔法は、使い勝手が良いのは間違いない。


 皇妃の息子である第一皇子と第四皇子は、皇妃の能力を受け継いで火の魔法を良く使う。皇帝の地位を継ぐのに火の魔法を厭う者もそれなりに居たが、政治能力があるのだから気にしなければ良い。


 皇妃の息子なのだから、何の憂いも感じずに堂々としていれば良いのだ。


 第二皇子の方が皇帝に相応しいと言い出す輩の声など気にせずに、堂々としていれば良い。大きな部族の娘である皇妃の後ろ盾があるのだから、何を心配する必要があるのか?軍部は脳筋とも言える弟たちに任せて、自分は堂々としていれば良いではないか。


 周りの声など一切気にせずにいれば良かったものの、第一王子は海軍の船に乗ってアルカンデュラ諸島を占領するために出かけて行ってしまったのだ。


 北大陸への進出は代々の皇帝と族長たちの願い、大陸への侵略を進める際の補給基地とするために、アルカンデュラ諸島は支配下に置いておきたい。


 アルカンデュラは遥か昔、船を漕いでこの島へと辿り着いたアストゥリアス人が旗を立てて自国の領土としていたのだが、その後は放置したままだった為、海賊の根城と化しているような場所だった。


 確かに帝国は、アストゥリアス王国から火薬を輸入するようになり、陸軍が使用する武器は目覚ましい進歩を遂げた。だとしても、海戦は魔法を使った戦いが主流で、黒色火薬を使って何かをするという所まで漕ぎ着けていない。そのため、海軍にとってはアストゥリアスの火薬などさほど重要なものでは無かったというわけだ。


「大丈夫、例えアストゥリアスが文句を言って来たとしても、僕が黙らせてしまうから」


 囃し立てられるようにして船に乗った第一皇子は、氷の英雄の襲撃を受けて船を大破させ、海に死体となって流れている所を回収されることになった。


「貴方が居なければ皇子は海に出ることなどなかったのよ!」

 怒り狂った皇妃は第二皇子に殴りかかったが、それはお門違いなのは間違いない事実。


 そもそも、第二皇子よりも強い皇子だと喧伝するために海へと送り出したのは皇妃自身ではないか。自分の失策によって息子が死んだのだから、次の皇位継承者は人望も厚い第二皇子で決まりだ。


 第二皇子が政務に就くようになり、その代わりとしてウィッサムが軍部を預かることとなったのだが、一年も経たないうちに、第二皇子死亡の一報がウィッサムの元までもたらされたのだ。


 死因は毒殺。

「こうなっては次の皇位継承は第四皇子のアブドゥラしかいないわね!」

 そう嘯く皇妃に向かって待ったをかけたのは、第二皇子の母とその一族、そして軍部の全てが激しい怒りと共に非難の言葉を吐き出した。


 そうして次の皇帝には第三皇子であるウィッサムが相応しい、いやいや、第四王子のアブドゥラしか居ない。と言って、継承争いが激化していたところ、現れたダークホースは赤子だった。

「次の皇帝はサラーマが産んだ赤子、シャムサとする!」


 愛妾の産んだ赤子を次の皇帝だと宣言をした皇帝ラファの姿は正気とは思えないものだった。そもそも、妾妃サラーマはアラゴン大陸から流れて来た貴族の娘であり、その背後にはルス教の司教たちの姿が垣間見えるのだ。


「もう、どうしたら良いのか分かりません。サラーマの嘘を見抜き、皇帝を正気に戻すことが出来れば私は何でもしますよ、何か良いアイデアはありませんかね?」


 藁にもすがる思いでウィッサムが問いかけると、

「うちの娘のペネロペは嘘を見破るのが得意なので、皇帝と妾妃の嘘と謎を見破るかもしれないですかね〜」

 と、言ったのは酔っ払ったバルデム卿なのだ。


自分の言ったことの責任は是非とも取ってもらいたいとウィッサム第三皇子は考えている。

 


         ◇◇◇


「うー〜ん」


 普通、いくら疎遠であったとしても自分の実の兄が現れたとなれば、仲良くしたい、自分のことを良く見せたい、歩み寄りたいと思うものだろうけれど、姫はそうは思わない。


 幸いにもセブリアンは陞爵をして侯爵位を賜ることとなった為、伯爵位では出来なかったことも出来るようになったのだ。ペネロペとアンドレス・マルティネスとの婚約も解消して、家に戻して、ロザリア姫をバルデム家の養子としてペネロペに妹となった姫のフォローをさせる。


 落とし所としてはそれが一番良いのかもしれない。ハビエル王子が王位を継承するにあたって、ロザリア姫の存在が邪魔となるようであれば、姫とペネロペを一番遠い国に向かわせても良いかもしれない。


 その国で島の一つでも買って、一・二年住まわせるのも良いだろう。南の島でバカンス、きっとペネロペもロザリア姫も喜ぶことだろう。


 セブリアンは、ラミレス王が自分の王位をアドルフォ王子に継承させる気だったことを知っている。実際、ムサ・イル派が大きな力を持っている状態では、ハビエル王子の王位継承は難しかっただろうし、王がそこまでハビエル王子に王位を継がせたいと考えていたとは思わない。


 良い意味でも悪い意味でも、ラミレス王は王の中の王なのだ。アストゥリアス王国が他国からも一歩抜きん出た存在となるために、バルデムに帝国との交易を許したのはラミレス王本人なのだから。


 民からは賢王とも呼ばれるラミレスだけれど、家族相手では失格の部類に入るのだろう。アドルフォ王子やロザリア姫は、自分たちだけが王から関心を示されず、放置されたと思っているのかもしれないが、王はハビエル王子にも関心を示してはいない。


 そもそも、王家の親子関係が希薄なのは有名な話であり、ラミレス王自身が、親である前王や前王妃とまともに会話をしたこともないのだ。そんなラミレス王が、まともに自分の子供と交流が出来るわけがない。


 それを側近がフォローすべきところが、宰相職に就くのがガスパール・ベドゥルナなので無理だろう。自分の家族は溺愛している男だけれど、他人の家族関係に口出しをするわけがない。


「はーーっ、私が国王陛下の家庭の尻拭いをすることになろうとは・・」


 セブリアンが頭を抱えていると、侍従が、来客が訪れていることを知らせてきた。


「ウィッサム殿下がやって来ているだって?」


 大きなため息を吐き出しながら、セブリアンは項垂れた。


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