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第十三話  ペネロペ、頭を抱える

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 王位第一継承者となったロザリアが女王となるのなら、強力な後ろ盾となる王配が必要となるのは間違いない。正妃イスベルはシドニア公爵家の力を使って、隣国ボルゴーニャ王国との縁組を持ち込んで来たことになる。


「姫を傀儡としてシドニア公爵家に有利な国作りをしようと模索しているようですし、ボルゴーニャ王国側としては、アストゥリアス王国を丸ごと併合して、アブデルカデル帝国と対決する際の力としようと考えているようですね」


「えーっと・・」


 北大陸と南大陸の間にはアルボラン海峡が広がっているのだが、勢力拡大中の帝国は、北大陸への領土拡大を目論んでいるところでもあるのだ。


 アルボラン海峡に面したボルゴーニャ王国は数年のうちに、帝国の侵略戦争を仕掛けられることになるだろう。北方の国境を接するアストゥリアス王国と婚姻による結び付きを強化しようとしているのは、帝国の侵略に立ち向かう際に背後から狙われたくないからだ。


 北大陸を帝国の侵略から守るためという名目で、周辺諸国も巻き込んだ状態で帝国軍を迎え撃たなければならない状態のはずなのだが。


「シドニア公爵家としては、アドルフォ第一王子の廃嫡と追放は予想外のことであったのかもしれません。ですが、第二王子が継承権を持たない今なら、ロザリア殿下が第一王位継承者となる。公爵家としては、姫は傀儡に相応しいとでも考えたのでしょうね。放置されてきたことからも分かる通り、公爵家としては、姫様はバカのままでいて欲しいとでも考えているのでしょう」


「シドニア公爵の後ろにはボローニャ王国がいると断言できるその理由は?」


 確かに、シドニア公爵はボローニャの第二王子アルフォンソとの婚約を王国に持ってきた張本人でもある。だがしかし、これから帝国と戦おうという中で、ロザリア王女との結婚からの王国の併合というのは無理があるような話に見えるのだが。


 ペネロペはパチパチと瞬きをすると、にこりと笑って言い出した。


「だって、姫の離宮を司る侍女頭、あの人、ボローニャ王国から送り込まれた間諜でしょう?」

「はあ?なんだって?」


「話していて気になりませんでした?あの人、発する言葉にボローニャ訛りが交じっていたのですもの。ですから私、彼女が拘束された時に尋ねたのですよ。あなたはボローニャ王家に関わる者ですかって」

「それで?」


「もちろん、否定はされていましたけど、完全に嘘ですよ」

 ペネロペは花開くように笑いながら言い出した。


「離宮を管理する人間がボローニャが差し回した者だなんて、この国はどうなっているのでしょうか?」



       ◇◇◇



 ベッタリと懐くように見せながらも警戒心を忘れず、試し行動を繰り返すロザリアと本当の意味で仲良くなれたのは、庭に繰り出して泥んこ遊びを始めた直後のことだった。


 豪奢なデイドレスを泥まみれにする背徳感を十分に味わったロザリアは、

「ああ〜!変な嘘なんて吐かないで、最初からこうしておけば良かった〜!」

 と言いながら、ぬかるんだ泥の上に仰向けになって寝転がった。


 アストゥリアス王家では王子や王女は、安全を確保する意味で離宮に住まわせることになるのだが、隔離されたような場所にある姫の離宮は小さな森に囲まれていて、森の木々の枝葉の隙間からこぼれ落ちる光がキラキラと輝いて、自分を祝福しているかのようにロザリアは感じていたのだった。


「姫様はわざと嘘をついていらしたのですか?」

 この時には頭のてっぺんからつま先まで泥だらけとなっていたペネロペが問いかけると、ロザリアは吹き出して笑いながら言い出した。


「お兄様が廃嫡処分となった時に、私は恐ろしくなって母の離宮をこっそりと訪れたの。そうしたら、お母様のお兄様であるシドニア公爵が訪れていたの」


 母を驚かそうと考えたロザリアは、お付きの侍女たちを撒いて、テラスから侵入するために、茂みの中をこっそりと進んで行ったという。


 そこで、開け放った応接室の窓から、公爵と正妃の声がロザリアの耳元へと届いて来たというのだ。


「お母様はお兄様に掛かり切りで私のことなどほとんど気にしたことが無かったの。お母様が私を気にするのは私が姫らしくないことをした時だけだから、お母様に構って欲しかった私は問題行動が多いと判断されるような状態だった。そんな私が王太女になるということが心配だったみたいなんだけど、公爵は『姫は愚かなままでいい』って言い切ったのよ」


 現在、第二王子であるハビエルは非嫡出子であるため、王位継承権を持たない状態となっている。そのため、アドルフォ王子が廃嫡された後は、ロザリアが王位継承第一位となっている。


「北大陸への侵略を考える帝国を迎え撃つ風潮が強まる中で、ハビエル第二王子の立場はより弱いものとなるだろう。自国での立場を守るためという理由でハビエルを戦地に送り、殺してしまうのは容易なこと。ラミレス王は病で倒れ、ロザリアを女王、アルフォンソ王子を王配とするのなら、軍人肌のアルフォンソ王子がアストゥリアス王国の軍部を掌握するのは簡単なもの」


 だから、ロザリアは今のままの状態で愚かで良いと言い切る公爵の言葉を聞いて、ロザリアは一人、震え上がってしまったわけだ。


「私はハビエルお兄様が優秀なことも知っているし、血筋など関係なく、ハビエルお兄様が王位を継承されるべきだと考えていたの。だけど、お母様や公爵は、ハビエルお兄様だけでなく、お父様まで殺そうと企んでいるのよ。公爵は私が愚かなままで良いとは言っていたけれど、限度を越えるほど問題があれば、誰かが私の話を聞きに来てくれると思っていたの」


 結局、ロザリアの嘘は悪い形で進んでいくこととなり、ロザリアの一番側近くに仕える侍女たちの悪巧みに利用されることとなったのだ。誰もがロザリアを無視し続けることになってしまって、

「姫は問題があるお方だから、王配はしっかりした人を選ばなければならないわね」

 という話にすり替えられていく。


 何もかもが上手くいかず、誰もが自分という存在を無視して、都合が良いように利用する。追い込まれたロザリアが自暴自棄に陥っていく中で、

「姫様は明らかに嘘をついていません」

 と言い出して、自分を救い上げてくれたのがペネロペだったのだ。


「だからね、ペネロペ、私は貴女にしかお願い出来ないの。どんな嘘でも見破る貴女なら、お母様や公爵の野望を打ち砕いてくれると私は信じているのよ」


 宰相補佐であるアンドレスから姫の面倒を丸投げされたペネロペは、泥だらけの状態の中で、今度はロザリア殿下から、国家の存亡が関わる大問題を丸投げされることになったのだ。


 まずは、離宮にボルゴーニャ王国の間諜が紛れ込んでいたことを示唆すれば良いだろうとは思うけれど、

「ちなみに、侍女頭は公爵の愛人よ」

 姫から与えられる情報量が多すぎて、ペネロペは頭を抱えることになったのだった。


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