第二十九話 やっぱりイケメンに碌な奴はいない
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最悪な雰囲気となったところで、とにかく一旦解散しようとペネロペの父が言い出した為、アドルフォとグロリアの弟のジョルディは別室へ移動することになった。
その場に残ったセブリアンは、直接、姫と娘のペネロペから話を聞くためにお茶の席を用意したのだが、現在、誘拐されたという重大事案よりも、アドルフォ王子の態度が問題となっているらしい。
「私は学生時代に王子が子爵令嬢とこれみよがしにイチャイチャしているのを直接目撃しているので、そんな女とイチャイチャする時間があるんだったら、姫様の様子の一つでも見に行きなさいよって言いたいですわね!本当に、今まで一回も顔を見たことないってどういうことなのでしょうね?やっぱりイケメンには碌な奴はいないというのはこの世の真理だと思いますわ!」
黒髪黒瞳となっても、アドルフォは母親に似て麗しい顔立ちをしている。やっぱりイケメンには碌な奴はいない!そうペネロペが憤慨していると、珍しいことにマリーがフォローをするように言い出した。
「お嬢様、アドルフォ様の後悔は凄まじいもので、帝国まで来るまでの間は私を専属の侍女に指名し、朝から晩までロザリア様について質問しっぱなしの状態でしたよ」
どうやらマリーは船で移動中に王子の世話をすることになったらしい。
「ミノ島に飛ばされた私は本国の港で旦那様たちと合流したのですけど、その時から、王子は姫の専属侍女だった私に、姫様の話を聞かせえてくれないかと願ったのです。この年になるまで顔を合わせたこともなかったと聞いて、とても驚いたのですが・・」
紅茶を淹れたマリーがテーブルの上にティーカップを置きながら言い出した。
「マルセロ兄さん曰く、王族の家族関係が希薄なのは有名な話みたいですよ。帝国なんか特にその傾向が強いみたいで、母親が違うなら会話もしないとか普通にあるみたいなので、アドルフォ様ばっかり責められないのかなと」
すると、ペネロペの父であるセブリアンが口髭の下の口をもごもごさせながら言い出した。
「アドルフォ様は王となるために幼少の頃から、こちらが信じられないほどの過密なスケジュールを組まれていたし、周囲の期待に応えるように努力をされている方だったのだよ。母親であるイスベル妃殿下の我が子を王にするための執念は凄まじいもので、周りも引いた目で見ていたものだった。あの時のアドルフォ殿下に妹姫であるロザリア様のことまで考える余裕はなかったと思うよ」
「だから!アリカンテ魔法学校では、女子生徒とイチャイチャする時間はあったわけで!」
「それについても、王位継承権を弟のハビエル王子に譲るために、殿下はわざとやっていたようなのだ。令嬢と深い関係になったのも、グロリア様を冤罪で断罪したのも、自分が廃嫡されるためにわざと行ったのだ。姫様が、ハビエル王子に継承権を渡すために、自分が王の子供ではないと宣言すると言い出した時には、殿下も思うところがあったのだろう。酷い顔色になっていた」
「私は自分の言ったことに後悔はありませんわ」
優雅な仕草でティーカップを手に取ったロザリアは、小さく肩をすくめながら言い出した。
「彼の方は血筋で言えば私の兄ということになるのでしょうけれど、赤の他人以上に赤の他人と言えるでしょう」
紅茶を一口飲むと、カップをソーサに戻しながらロザリアはため息を吐き出した。
「私、今回のことでつくづく、家族には縁がないのだと実感致しましたの。血の繋がりなど何の足しにもならないし、なんなら重い足枷にしかならない。だとしたら、ここで断ち切ってしまった方がよっぽどさっぱりする」
まだ十歳の姫の言葉とは思えないけれど、今まで放置されて来た姫の境遇を思えば、今更家族に歩み寄れなどと言えたものではないとセブリアンは思う。
「本当に、姫様は王の子ではないと宣言されますか?」
セブリアンの問いにロザリアは大きく頷いた。
「そのように嘘でも良いから出来ないかと、グロリアがサラマンカの王に相談しているところなの。もしサラマンカの王が嫌だと言っても、侍女の証言などと言ってでっち上げて宣言するつもりだけれどね」
まだ十歳の子供が言う言葉とは到底思えない。
姫がカサス領から王宮に移動をして、ラミレス王がロザリア姫との交流を始めたという話は聞いてはいたものの、全く上手くいっていないことを実感する。
「私が王の娘ではないとなれば、母方の家は没落しているし、兄と同じく平民扱いとなるでしょう?そうしたら、ペネロペの専属侍女にして貰うつもりなのよ」
セブリアンはガシャンと音を立ててカップをソーサーの上に落とした。
「ペネロペ、平民になっても雇ってくれるわよね?もしも平民じゃまずかったら、マリーの家が養子にしてくれるって!マリーの家は子沢山だから、今更一人増えたくらい問題ないって言っていたものね!」
「うちは男爵家ですけど、平民よりかは末端とはいえ貴族籍があったほうが姫様の待遇も良くなるかもしれませんものね。ですが、姫様がもしもジョルディ様のお嫁さんになるとしたら、我が家よりももっと格上の家の方が良いかとも思うのです」
「そうしたらペネロペの子供になろうかしら?ペネロペは近々、アンドレスと結婚するのでしょう?二人が結婚して、私が養子に入るの。あら、それじゃあ、ペネロペの専属侍女じゃなくて娘になっちゃうわね!」
「冗談じゃないですよ!私はアンドレス様と結婚なんかしませんから!この婚約も!冗談みたいなものなので!夫なんか出来ないので!お父様!お父様が姫様を養子にしたら姫様は私の妹になるのでは?」
「というか、そもそも、ジョルディと私が結婚するって何?そういう前提で話が進んでいるのは変よ!私とジョルディは友達であって、そういうのじゃないのだけれど?」
「ほら、全然わかってない」
「普通、友達が帝国まで助けにやって来ると思います?愛ですよ!愛!」
「ないないないない!やっぱりマリーの家の養子でいいわ、男爵令嬢としてペネロペの専属侍女になるわ。バルデム侯爵、私を侍女として雇ってくれますわよね?」
「うーーんと・・」
セブリアンは口髭をもごもごさせると、自分の顔を両手で覆いながら言い出した。
「その件については持ち帰らせてください」
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