第二十七話 前途多難
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ペネロペの父であるセブリアン・バルデムはずんぐりむっくりの体型の男であり、新緑の円な瞳を瞬かせていれば、従順で無害、世の中の流れに流されながら生きている。処世術だけには長けたおじさんというような風貌をしている。
そう、見た目は無害そのもののペネロペの父は、意外に反骨精神が旺盛で、地獄の番人と呼ばれる宰相ガスパール・ベドゥルナに喧嘩をふっかけることもある、隠れた武闘家と呼ばれるような人でもある。
何しろ、シドニア公爵が権勢を振るっていた時代に、密かに公爵麾下の貴族たちに助けの手を差し伸べていたような人でもある。鉱山に関しては一家言持っているセブリアンは、公爵の不正をすぐさま見抜いて、不正の証拠を集めていたような人物でもある。
今は亡きシドニア公爵に対しても、何かあれば喧嘩をふっかける気満々のセブリアンは、帝国相手でも同じような姿勢を貫き通したらしい。
「ペネロペ!ペネロペ!我が娘よ!無事で良かった!まだ怪我が治りきったわけでもないのに大変な目に遭ったね!もう何も心配をしなくても良いんだよ!」
ペネロペがウィッサム王子の妻子が住み暮らす離宮に連れて行かれてから五日後には、帝都に所有するバルデム家の私邸に移動することになったのだ。
帝国と大きな取引を続けているバルデム家は帝都に支店を持っているし、邸宅も豪勢なものを保有している。帝国の屋敷はアストゥリアス王国の王都に構えるタウンハウスの数百倍豪華な建物となっているのだが、皇帝と取引をしていると顕示するためには、これ位のアピールは帝国では必要になるらしい。
「ロザリア様!無事で良かった!」
「ジョルディ?なんで帝国に?」
「心配だから迎えに来たんじゃないか!」
カサス領滞在中に親しくなったグロリアの弟のジョルディは、ロザリア姫をギュッと抱き締めた。姫に同年齢の友達が出来てペネロペはホッと胸を撫で下ろすような気持ちになっていた。
そのジョルディの後には背が高い男が立っていたのだが、その背が高い男の後に控えるように立つお仕着せ姿の専属侍女の姿を見て、
「「マリー!」」
ペネロペは自分の父を、ロザリアはジョルディを押し除けて、侍女のマリーに飛びついた。
「何処に行っていたの?」
「大丈夫だった?」
「「心配したのよ!」」
姫とペネロペに抱きつかれたマリーはニコニコ笑う。
「ウィッサム第三皇子は転移魔法を使って私をニノ島まで飛ばしたんですけれど、ニノ島はバルデム家所有の島ですし、マルセロ兄さんも丁度島に居たので拾って貰ったのです」
マリーの隣には騎士の姿をしたマルセロがおり、彼は辞儀をしながら、
「ご主人様より姫様たちの護衛を言いつかっております、これからは私がお守り致しますのでご安心ください」
と言ってにこりと笑う。
マルセロはマリーと良く似ているため、ロザリアの警戒心もそれなりに少なくなっているらしく、
「そ・・そう、であるのなら励みなさい」
と、ツンツンしながらも、ロザリアはマルセロが護衛になるのは認めたようだった。
離宮で放置されたロザリア姫は害意がある大人に囲まれて育った為、なかなか人を信用するようなことはしない。ただ、ペネロペとマリーだけは信用しているので、この二人が信用する親族ということになれば、彼女の心の中にある壁が格段に低くなる傾向にあるようだった。
そんな孤高の姫様は、
「ロザリア」
実の兄であるアドルフォに名前を呼ばれても振り返ろうともしない。
「ロザリア、無事で良かった。どれほど心配したことか」
「初対面だというのに、名前で私のことを呼ぶ貴方は誰?」
呪いの影響で髪や瞳が漆黒に染まったといえど、アドルフォはアドルフォのままだ。確かに病で窶れたようにも見えるけれど、治癒師の治療の甲斐もあってか、彼は見違えるほど回復したのだ。
「ロザリア、君の兄となるアドルフォだ」
「私には家族は居ません」
ここでようやっとアドルフォの方を振り返ったロザリアは、金色の瞳を真っ直ぐに向けながら冷静な口調で言い出したのだ。
「私の産みの母であるイスベルはロドリゴ・エトゥラという愛人との不貞を理由にムサ・イル派の戒律に従って処刑となりました。そして、兄であった人もまた、王位継承権を剥奪され、放逐処分となりました。そして、私は母と愛人との不貞で出来た子供かもしれないということで、ラミレス王との親子関係を疑われているような存在です」
ロザリアは大きなため息を吐き出しながら言い出した。
「一度、カサス領から王宮へと戻ることとなったのですが、私の居場所はここには無いと判断したのです。父王がどういう思いであれ、私は必要のない存在です。それに、ハビエル王子が王位を継ぐのであれば私は邪魔な存在になるでしょう?」
ロザリアはラミレス王が真実愛するのはジブリール妃であるということを知った。彼にとってはジブリール妃とハビエル王子だけが自分の家族であり、正妃イスベルと、彼女が産んだ子供など不必要な存在ということになるのだろう。
「何でも魔法王国サラマンカでは、親子かどうかを鑑定する魔法があるというのです。その魔法で鑑定をしたということにして、王の子ではなかったと宣言するつもりです」
ロザリアの言葉を聞いて、ペネロペの父は口髭の下にある自分の口をもごもごと動かした。アドルフォは驚きで大きく目を見開いたが、ジョルディだけでなく、ペネロペも侍女のマリーも、特別驚く様子を見せずにロザリアを見守っている。
「そうすれば、アストゥリアス王国を継承するのはハビエル王子だけ。司教たちが私を女王に押し上げようとしながら、その裏で悪事を企んでいることが分かった時に、そうしようと思ったのです」
「ロザリア・・」
アドルフォは絶句し、激しく後悔をした。
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