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第二十六話  グロリアの決意

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 サラマンカの子爵家の息子という立場でアリカンテ魔法学校に留学をしたハビエルは、ただただ、飼い主の近くに居たいと望むワンちゃんみたいな男の子。


 グロリアにとってワンちゃんみたいな男の子は、8歳で大魔法使いの称号を手に入れた、魔法の塔のトップスリーに入るのは間違いない傑物で、

「この子を放り出すアストゥリアス王国とはアホの集団なんじゃないのか?」

 というのがサラマンカの魔法使いたちの大半の意見でもある。


 帝国の姫とラミレス王の息子という彼は、生まれた時から非嫡出子扱いの上、王位継承権を剥奪された存在だったけれど、そんなことなど彼には全く関係ないのは皆が皆、知っていることだった。


 亜種と言われる彼は魔法使いの中でも別格で、世界を滅ぼそうと思えば簡単に出来るほどの力を持っているけれど、グロリアにとっては、大魔法使いエルは自分に懐くワンちゃんで、まさか自分との結婚など考えていようとは思いもしなかった。


 魂の浄化を行ったエルの背にグロリアが手を触れると、グルリンと音がしそうな勢いでこちらを振り返ったエルがはしゃいだ様子で言い出した。


「リアちゃん、僕、キチンと二人の魂はすり潰さずに昇華させたんだよ?偉いでしょ?」

「うん、偉い!偉い!」


 本当はブランカには生きたまま帰ってきて欲しかったけれど、あれだけ宝石眼の魔力を使ってしまっては不可能だろう。


 魂を見ることなど出来ないグロリアには、実際に何がどうなったのかは分からない。それでも、周囲の空気が清浄化して、黒々と渦を巻く頭上の雲が霧散するようにして散っていく姿を眺めながら、二人が来世でこそ幸せになれるように、祈ることしか出来ない自分の無力さを感じていた。


「わ・・私の宮殿が〜!」


 ヤコフ王の絶叫で見つめ合っていた二人が我に返ると、床にしゃがみ込んだ王はベソベソ泣きながら言い出した。


「こんな・・こんなことになるなんて・・」


 絶大な力を持つムサ・イル派の司教たちは、ヤコフ王に、自分たちの言う通りにしていればボルゴーニャ王国だけ一人勝ちするだろうと宣言したのだ。

 北大陸への侵略を考える帝国に一番近い位置にあるのがボルゴーニャ王国で、例え海峡を挟んでいたとしても安心など出来るわけがない。


「聖騎士団を結成すれば国を越えて兵団を集めることが出来るのですよ、神の名の元に巨大に膨れ上がる武力があれば、何を恐れる必要がありますか?」


 司教たちの甘言に踊らされ、アルフォンソ王子の思い上がりをそのまま野放しにした結果、ボルゴーニャ軍はアストゥリアス王国軍に敗れ、王都は大魔法使いの所為でボロボロ。


「破滅だ!破滅だ!こんなんじゃ破滅しかない!」

 わーっと泣き出した小太りの王を見下ろしたグロリアは、

「ヤコフ王、ご自分だけ助かる方法がありますわよ?」

 と、言い出したのだ。


「ご自分と家族だけは無事に助かって、悠々自適な余生を過ごすことが出来るプランがありますの」


 軍は敗れ、王都は崩壊、王宮は壁や天井すら取っ払われた状態で、後は北からアストゥリアス王国が、南の海から帝国軍の侵攻を受けて崩壊だ。首切り待ったなし、一族郎党、処刑される場面を脳裏に描いていたヤコフは、鼻水を垂れ流しながらグロリアの美しい顔を見上げる。


「私にボルゴーニャ王国が所有するあらゆる権利を売ってください、お値段はこれくらいが妥当だと思うのですけど?」


 グロリアが指定した値段は結構な金額だったが、先祖代々治めた国を売り払うのである。ヤコフ王に欲が出るのは仕方がないことかもしれないのだが、

「このお値段は私が間に入って交渉することも入れての値段ですのよ?普通、王国が崩壊する時には一族郎党皆殺しが当たり前のところを、無血で解決しようとしているのですが?」

 と言って、グロリアは頑として値段を変えようとはしなかった。


「その値段で貴様に我が国を売り払うとして、我々はその後、どうすれば良いのだ?」


 国が滅ぶのは決まったようなものなので、高値で売り払ったとしても、その後のことが不安になってくる。


「貴方のお妃の中にアラゴン中央諸国の人間が居たと思うので、その生家を頼っても良いとも思うのですけど、私のお勧めとしてはサラマンカでのバカンスですわね」


「サラマンカだと?」


「サラマンカは帝国との繋がりが強いので、帝国がボルゴーニャを支配する際には協力体制を取ることになるでしょう。そのサラマンカにボルゴーニャの王族一同が移住したら、帝国から預かりの身となったのだなと皆が思うでしょうし、手を出しづらい。全てを投げ捨てて安全にバカンスするにはサラマンカくらいが丁度良いかと思いますわ」


 どうせ滅ぶことが決定の屋台骨がへし折れた王国である。価値があるうちに売れるものは売って飛ぶのが正解であるし、先祖とか、国王としての矜持とか、そんなものは持ち合わせないヤコフの頭の中は、隠居生活にシフトチェンジしているような状態だ。


「リアちゃん、そんな勝手なことをして大丈夫なの?」

 侯爵令嬢が国を買い上げるなど、前代未聞にも程がある。

 その大胆な行動に若干の怯えを見せながらエルが問いかけると、グロリアは輝くような笑みを浮かべながら言い出した。


「だって、エルったらアストゥリアス王国の王様になるつもりなのでしょう?」

「・・・」

「しかも私を妻にしてくれると言うのでしょう?だったら何の問題もないじゃない!」

「リアちゃん!リアちゃん!リアちゃん!大好き!」


 妻という言葉を聞いて飛び跳ねながら抱きつくハビエルを抱きしめ返しながら、グロリアはギュッと目を瞑った。


 グロリアは人が死ぬのが嫌いだ。

 人が死ぬのを見たくない。

 これからボルゴーニャがアストゥリアス王国と帝国に挟み撃ちを受ける形で攻め入られれば、多くの人が死ぬことになる。無辜の人々が死なないようにする為には、ボルゴーニャの権利全てを一旦手中に収める必要がある。


「一枚上手を取るにはエルの協力も必要なの、エル、大好きよ」

 大きな賭けに出るには、エルの存在が必要不可欠。グロリアの愛するワンちゃんは見えない尻尾を振りながら、

「大丈夫だよ、リアちゃん、僕に任せてくれれば良いんだからね」

 と言ってグロリアの頭に頬ずりをした。


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