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第二十五話  僕のリアちゃん

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 エルと愛称で呼ばれることが多いハビエル第二王子は、生まれた時から疎まれているような存在であり、ラミレス王と皇帝の実妹の子供でありながら非嫡出子扱いとなり、王位継承権すら剥奪されていた。


 大きな権力を持つシドニア公爵家とムサ・イル派の司教たちの後ろ盾を持つ正妃イスベルは、ジブリール妃とハビエルの命を狙い続けていた為、離宮は帝国から送り込まれた人間だけで守るようにしていた。


 ジブリール妃は皇帝ラファが愛する妹姫となるため、輿入れしたアストゥリアス王国で何かがあれば、皇帝は帝国の全ての船を差し向けてでも滅ぼしにかかることだろう。司教たちは帝国の民を蛮族、穢れた民と蔑み続けていたが、それは都合が悪いことに目を背けているだけのことだ。


 皇帝の地位にラファが就いてからというもの、武器開発に大量の資金を投入し、内政の強化に努めた結果、南大陸の覇者としての地位を確固たるものにしたのだ。


 本来なら、公爵家から嫁いだ正妃など外して、ジブリールを正妃にするべきであったのだ。輿入れしたジブリールが、想像以上に排他的な風潮にある風土を察して表に出ることを望まなかったから側妃の座におさまっただけのことであり、なろうと思えば正妃になれた。格で言えばイスベル妃など足元にも及ばない。


「穢れた王子が!」

「王国から出て行け!」

「お前なんか死んだほうがいいんだよ!」


 第一王子であるアドルフォはハビエルの3歳年上ということになるけれど、そのハビエルの側近候補として王宮へとやって来ることになった貴族の令息たちは、ハビエルを執拗に探し出すと暴力を振るうようになったのだ。


 暴力は痛いから嫌だ。だから相手を殺してやりたいと思うし、ハビエルには王宮に勤める人間全てを殺すだけの力がある。母が悲しむだけだからやらないだけであって、足の一本から腐らせることなど容易に出来る力がある。


 ただ、加減がわからないから一度魔力を使えば、何処まで腐の魔力が広がるか分からない。万が一にも母が住み暮らす離宮まで腐らせたらたまったものではないと考えて、我慢をしているだけの話なのだ。


「何も出来ない弱虫が!」

 そう言って最後の一発が腹にめり込むと、堪らずハビエルはその場で嘔吐した。

「うわっ!汚い」

「放っておこうぜ」


ハビエルの周囲の草花があっという間に萎れてクタリと地面に落ちていくと、まるで落ちた水滴が広がるように周囲が腐り落ちていく。

「馬鹿みたいだ・・」

 魔力の波紋が広がる前に収縮させたハビエルが、唾を地面に吐き捨てながら立ち上がると、

「まあ!素晴らしい自制心!膨大すぎるほどの凶暴な魔力だというのに、コントロールが素晴らしいじゃない!」

 と、声がかかったのだった。


 漆黒の髪に緋色の瞳をしたその少女は、美しいドレスを着ているというのにずぶ濡れの状態で、それでもあっけらかんとした笑顔を浮かべながら言い出したのだった。


「私の先祖にも帝国人が居るから、差別の対象になっちゃうのよね。今日は噴水に落とされる程度で済んだけど、本当に王国貴族たちの選民思想にはうんざりしちゃうわよね!」


「えーっと君は?」

「私はアドルフォ王子の婚約者候補にあがっているグロリア・カサスよ。あなた、第二王子のハビエル殿下でしょ?」


 グロリアはハビエルと挨拶の握手をしながら言い出した。

「こんなくだらない国に居ても何も良いことないわよ。だから、私と一緒にサラマンカに留学しない?」

 サラマンカとは魔法使いの王国と言われているような国なのだ。


「アリカンテ魔法学校に通い出す前の二年とか三年でいいのよ。ジブリール妃のコネがあれば可能だと思うんだけど、王子の側近とか世話人とか、とりあえず役割は何でもいいから私をサラマンカに連れて行ってくれないかな?」


 グロリアがハビエルにそんなことを言い出したのは、ハビエルが6歳、グロリアが9歳の時のことだった。


 元々、王位継承権も持たない非嫡出子扱いの王子である。王国に居ても何の役にも立たないし、膨大すぎるほどの凶暴な魔力をコントロールするためには、サラマンカ王国に行く必要はあったのだ。 


「まあ!まあ!貴女がエルと一緒にサラマンカに行ってくれるの?」


 びしょ濡れのグロリアを、自ら風魔法を使って乾かしたジブリールは、グロリアの頭を撫でながら言い出した。

「それでは手続きはすぐに始めてしまいましょう、お父上の方には話は通しておきますからね」

 結果、即座にグロリアとハビエルのサラマンカ行きが決定することになったのだった。



 北大陸の人間と南大陸の人間で子供を作ると、膨大な魔力や特殊な魔力を持つ子供が生まれやすい。皇帝の妹とアストゥリアス王国の王の子供であるハビエルがただの闇の魔法使いではなかったのは必然かもしれない。

「どれだけ人を殺せる力を持っていたとしても、使わなければ良いだけの話なのだよ」

 サラマンカの前王ヘルムートは諭すようにハビエルに言い続けた。


「力が無いよりもあった方が良いのは間違いないし、大事な人が危機に陥った時にすぐさま助ける力があるのと無いのとでは、あった方が良い。これは間違いない事実じゃろう?」


 年老いたサラマンカの王は、自身も膨大で破壊的な力を持っていた。その為、どんな魔法使いも恐れやしない。そのヘルムートを殺したキリアンを、追いかけて行って殺したのは間違いなくハビエルとなるのだが・・


「司教たちの悪行は天井知らずなところがあるんだよな」


 足元に腐ったように何百という魂の痕跡が広がる。司教や枢機卿たちはキリアンを生き返らせるために、死者蘇生の禁呪に手を出したのだろう。

 キリアンは確かに一度死んだのだ、ハビエル自身が殺したのだから間違いない事実でもある。


 消滅する魂の渦の中で、寄り添うようにして抱き合う二つの魂の塊が見えた。宝石眼の能力は洗脳だけでは無い、ブランカ・ウガルテがその力を使ってキリアンの魂を引き寄せている。


 人工で作られた宝石眼を施された人間の寿命は短い。ブランカも余命は何年も無い状態だったのはハビエルも理解していたけれど、その残りわずかな命の力を使ってキリアンの魂を掴み捕えようとしている。


『お兄ちゃん・・キリアンお兄ちゃん・・一緒に行こう・・』

『ブランカ・・』

『せっかく腐の魔法使いが手加減してくれたのよ、だから、今度こそ二人で一緒に行こう』


 魂も消滅させる魔法を炸裂させる時に、ハビエルは少しだけ手加減をした。ブランカが死ぬ覚悟を持って自らの力を使ったことに気が付いたから、だからこそ、普段は発揮することのない慈悲の心を持って魔法に手心を加えたのだ。


『大魔法使いエル・・お前はそれで良いのか?』


 こちらを見て問いかけるキリアンを見て、ハビエルは小さく頷いた。こういう展開の方が僕のリアちゃんは好きだから、二人の魂だけは昇華するようにしてあげよう。



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