第二十四話 今そんなことを言われても
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精神感応系の魔法が失われて久しいけれど、もしかしたら何らかの手段を用いて復活したのではないかというのがサラマンカの魔法の塔に住み暮らす魔法使いたちの意見だった。
花の宮殿でブランカ・ウガルテを捕まえた時に、エルは確かに彼女が精神感応系の魔法を使う宝石眼の持ち主であると判断した。
そのまま転移をしてサラマンカへと移動をしたエルは、魔法使いたちから信じられないような話を聞くことになる。
「この令嬢からは亡くなったヘルムート王の魔力を確かに感じる」
ヘルムートはサラマンカの先代の王の名前であり、大魔法使いキリアンに殺されている。
「グロリア嬢、エルと一緒にムサ・イル派の総本山とも言われる大聖堂に潜入して来てくれないかな?」
サラマンカの王ファティは、グロリアに向かってニコニコ笑いながら言い出した。
「もしも大聖堂の謎を解いてくれるのなら、私は自国を出てアストゥリアス王国へ向かうことを約束しよう」
サラマンカの王ファティは他の魔法使いでは到底使うことが出来ない独自の結界魔法を行うことが出来るのだ。それは『反感』を消失させる結界であり、その範囲は王都程度であれば覆い尽くすことが出来るほどの広さを保つ。
宗旨替えをしたばかりだというのに、隣国ボルゴーニャと戦争ということなれば、
「神を信じない王国が悪い!」
と言い出すムサ・イル派の熱狂的信者が暴れ出すことになるだろう。暴動を起こそうとする熱狂的信者の炙り出しが出来れば良いのだが、それが難しいのは言うまでも無い。
であるのなら、暴動しようとする気持ちが起こらないように結界を敷いてもらえば良いと考えたグロリアは、サラマンカで交渉を続けていたのだが、
「それでは今すぐ総本山とやらに向かいましょう。ただ、エルが連れてきた宝石眼の女を連れて行くことをお許しください。内情に詳しい人間が居た方が話が早いと思うので」
と、グロリアは豪気にも言い出した。
実際、アストゥリアスの花の魔道具を使用してからというもの、ブランカの思考は空を覆う雲が晴れるようにして明瞭となったらしい。
闇魔法が使えるエルにとって、敵国への潜入が一番得意だと豪語することが出来るだろう。アラゴン大陸の東部に位置する聖都キアラには、ムサ・イル派の枢機卿たちが住み暮らす大聖堂があるのだが、そこの地下は本物の地獄絵図となっていた。
己の権力を維持するためには洗脳技術の促進が一番手取り早いと思ったのだろうが、それにしたって犠牲となる人間が多すぎた。
囚われた子供たちはいったん保護してサラマンカに送り込むことにしたのだが、そこでファティ王から連絡を受けることになったわけだ。
国境線から大魔法使いキリアンを追い立てるから、おそらくボルゴーニャの王宮に奴は現れるだろう。金に目がない司教たちのために金銀財宝を狙って動くだろうから、宝石眼の女と知り合いかもしれないからぶち当ててみろ。
ファティ王の言う通り二人は知り合いだったようなのだが、混乱したキリアンが魔力暴走を始めたのだ。
長年、キリアンを殺すために追いかけてきたエルとしては、初めて彼の人間らしい姿を見たような気がしたものの、魔力暴走を起こした大魔法使いは、あっという間に堅牢な造りの城を破壊しているのだ。
「リアちゃん大丈夫?」
「私は大丈夫だけど、ブランカさんが囚われてしまったわね!」
グロリアはマジックバッグから取り出した魔道具を起動して、結界術三段掛けでヤコフ王を抱えながら凌いでいるようだった。
マジックバッグの中には結界の魔道具が二十個入っていたはずなので、彼女の方は大丈夫。ただ、衝撃に飛ばされて壁に背中を打ちつけたブランカはそのまま失神してしまった為、キリアンの闇の触手に取り込まれてしまったようだ。
「枢機卿や司教たちは禁呪に手を出しすぎじゃない?あれ、もう僕の腐った魔法を使わなくても腐り切っているように見えるんだけど!」
闇を従えるキリアンの体はすでに半分以上が腐り落ちている、その体でブランカを抱え続けているのは、彼なりの執着の現れなのかもしれない。
「枢機卿たちについては周辺諸国だって黙っていやしないでしょう!それよりも、腐らせる前にすでに腐っちゃっているみたいだけど大丈夫なの?」
嵐に負けないようにグロリアが大声を上げている、エルは自分の魔力を練り上げながら大声を上げた。
「こんな時だから言うんだけどさ、僕は、リアちゃんが王妃になりたいって言うなら王様になってもいいと思っているんだけど、どう思う?」
闇の魔法が屋根を吹き飛ばしていく、空の上には黒々とした雲が渦を巻き、雷が地上へと降り注いでいく。
「リアちゃんのことが好きだから、リアちゃんの思う通りにしようかと思うだけど、どう思う?」
「なっ・・なっ・・なっ・・」
雷の直撃を結界の魔道具で防ぎながらグロリアは顔を赤らめた。
「なんで今、この時に、そんなことを言い出すのかしら?」
「ペネロペ嬢が素直になった方が良いみたいなことを言っていてさ」
「ペネロペが?」
「彼女、嘘は見抜いちゃう人でしょう?」
エルとしては、憧れる先輩に仕える後輩をひたすら演じていたつもりなのだが、色々と見破られているような気がしないでもないわけだ。
「正直に言ってアストゥリアス王国とかどうでも良いし、僕には関係ないって今まで思っていたんだけど、リアちゃん、領地がめちゃくちゃ大事な人じゃん。国が滅びたら領地も滅びちゃうわけで、リアちゃんの大事な領民とかを守るためにやんなくちゃいけない事って結構あるかもしんないなって思ってさ」
「今そんなことを言われても!」
壁が次々と剥がれ落ちていった為に、人々の悲鳴が木霊する。
「こういう事って勢いとかないと僕は駄目で、それで、僕はリアちゃんが好きだし、結婚したいと思っているんだけど、リアちゃんはどうなの?僕と結婚してくれる気ある?」
「だから、何で今そんなことを言い出すのよ!」
キリアンの魔力暴走で次々と壁が剥がれ落ちていった為、王宮の二階部分にあった王の間は崩壊して崩れ落ちる寸前の状態となっている。
「いや、ここでリアちゃんから結婚するって言ってもらえたら、僕だってやる気が出てくることになるでしょう?」
やる気は出るかもしれないけれど、これはほぼ脅迫に近いのではないかとグロリアは考えた。ただ、グロリアにしがみつく王は必死になって、
「結婚するって言ってくれ!頼む!」
と、懇願しているのだ。
「ちょっと・・考える時間を・・」
「無理無理、考えている間にこの国、物理的に滅びることになっちゃうから」
「そんなにエルは私のことが好きなの?」
「好きだよ!兄上の婚約者の時からずーっと好きだよ!」
真っ赤になって俯くグロリアの顔を呆れた様子で見つめたヤコフ王は叫んだ。
「恥ずかしがってないで言え!その顔はもうイエスなんだろう!この状況でもったいぶる意味は?ないだろう!」
「・・はい」
「なあに?リアちゃんきちんと言ってくれなくちゃ分からないんだけど?」
「はい、わかったわよ、エルの妻になってあげるわよ」
「本当に?」
「本当よ」
暴風雨によって焦茶色の髪の毛が巻き上がるようにしてあがり、金色の瞳がじっとグロリアを見つめながら笑みを浮かべる。
そうして彼が掲げ上げた両手目がけて稲妻が降り注ぐと、腐った塊となったキリアン目がけて光が炸裂したのだった。
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