第二十二話 理想と現実
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「アルフォンソが討ち取られた?」
ボルゴーニャ王国の国王ヤコフは驚き慌てた様子で、国王の間に報告に来た侍従の肩を掴んだ。
「嘘だろう?息子が?息子が死んだだと?」
「はい、残念ながら・・」
「アストゥリアスが動かす兵数の二倍を用意し、司教たちは虎の子の暗殺者たちを我が方へと差し向けてくれた。さすがの地獄の番人や氷の英雄であっても身動きが取れない状態に陥っていると言っていたではないか?」
「確かにボルゴーニャ側が優勢ではありましたが、大魔法使いキリアンが逃げ出した為、前線が崩壊してしまったのです」
「はあ?」
「多くの敵を屠って来たキリアンが逃げ出したんです」
「何故だ!何故、大魔法使いが逃げ出したんだ!」
「それは、サラマンカの王が動いたからです」
「何?」
「自国から今まで出る事がなかったファティ王が動いたのです」
ボルゴーニャ王国の国王ヤコフの体が小刻みに震えだす。
ムサ・イル派と手を切り、フィリカ派に帰依をしたサラマンカは、周辺諸国からそっぽを向かれて鎖国状態となっていた。帝国との取引を行うことで国力を回復させたという話は聞いているが、以降も、他国の騒動については一切の不干渉を貫き通した国でもある。
「なんてことだ・・なんてことだ・・」
ヤコフは拳を自分の膝に叩きつけた。
司教たちの後ろ盾があるから大丈夫だと言うから、アストゥリアス攻略をアルフォンソに許したのだ。聖戦を掲げればアラゴン中央諸国が動きだす、神の意思に背く穢れた人々を改心させるため、救いを与えるために、ボルゴーニャ王国を先頭にして多くの国々が動きだす。そう言っていたはずではないか。
「理想と現実は違ったっていうのかな、やっぱり冬に戦争を始めたのもまずかったよね」
窓の下の隅に集まる闇がより一層濃くなったかと思うと、声を発しながら人の形となって動きだす。
「ボルゴーニャ王国とかアストゥリアス王国とかさ、海に面しているから海軍の育成に力を入れるし、陸軍よりも海軍の方が花形みたいなところがあるじゃない?」
黒々とした闇から現れたのは大魔法使いキリアンであり、彼は衣服にこびり付いた泥や埃を叩いて落としながら言い出した。
「アルフォンソって船酔いが酷い体質だから、軍を率いるなら陸軍一択じゃない?その陸軍はというと、海から陸に上がってきた海賊の討伐とか、盗賊と化した流民の討伐とか、そんなのばっかりになっちゃうじゃない。敵国との小競り合いは海がメインになっちゃうから、活躍出来ないって王子様は苛立っていたんだよね」
キリアンは小さく肩をすくめながら言い出した。
「戦いたい!戦いたい!って言うからさ、司教たちもさぞかし武勇の誉が高い王子なんだろうなって思ったみたいなんだけど、蓋を開けてみたらズブの素人。理想と現実のギャップが凄すぎるっていうの?結果、周りをお友達で囲ませて、苦言を呈する奴は思いっきり外しまくるんだもの」
第一王子であり、王位継承権を持つアルフォンソには、確かに身を削るような実戦の経験はないだろう。国を導く存在が危険な思いをする必要はないというのがヤコフの持論でもあるのだが、そんなヤコフの息子、アルフォンソは戦いを求めた。
軍人肌の息子には実績がない、だからこそ彼は戦いを求める。自分が英雄のような存在だとでも言わんばかりの有様を見たヤコフは、ロザリア姫の夫としてアルフォンソを隣国に送り込もうかと考えた。
王配となったアルフォンソがそのままアストゥリアス王国を呑み込むような形で併合するのも良し、それが失敗したとしても婿入りさせた息子となるので、何の問題もないだろうと考えた。
それが、今、目の前に居る闇の魔法使いが現れてからというもの、アルフォンソは王配になるのを拒否するようになったのだ。早く成果を出したい、早く実績を上げて世界に向けて喧伝したい。焦りばかりが大きくなり、結果、カランダ平原で敗北を喫することとなったのだ。
ヤコフはギリギリと歯軋りをしながら言い出した。
「お前が付いていたというのに!一体何をしていたんだ!聖戦は成功すると言い出したのはお前だろうに!」
「だって〜サラマンカが本気で動き出しちゃったんだから、仕方がないじゃないか〜」
「だってじゃない!そもそも、お前が戦線に残ってさえ居れば勝てた戦いじゃないのか!」
「無理無理!サラマンカの王様まで出て来ているんだから、僕なんか逃げの一手しか打てないって〜」
キリアンはケラケラとひとしきり笑うと言い出した。
「まあ、そんな訳でさ、この国ももう終わりだよ」
「なんだって?」
「勝って当たり前の戦いに負けたんだから、もうどうしようもないじゃない。だからさ、ボルゴーニャ王家秘蔵の宝物をさっさと出してくれるかな?それを持って帰らないと僕が司教たちに怒られることになるんだから」
「はあ?」
「この調子だったら、帝国がボルゴーニャを征服するために今すぐにも動き出すでしょう?そしてこの王城が襲撃されて、有象無象に宝物を持ち出されることになっちゃう!」
キリアンの足元から闇の触手が無数に伸びてくる。
国王の間には護衛の兵士が並んで居たが、その兵士たちがあっという間に闇に呑まれていく。
軽快に笑っていたキリアンの漆黒の瞳が胡乱に光り、ヤコフ王はその場にへたり込むようにして座り込む。
「さあ!早く出してくれるかな?お宝が山のように眠っているんでしょう?」
「結局お前は司教たちの犬のままなのか」
すると、アルフォンソ王子の死亡を報告に来ていた侍従が前に出て、大きく口を開きながら息を吐き出したのだった。
本年も今日で終わりとなりますが、ここまでお付き合い頂きありがとうございます!
また来年も物語は進んでいきますので、最後まで読んで頂ければ幸いです!
また、年末年始は『悪役令嬢のその後は』改稿版を一気に載せていきますので、暇つぶしにして頂ければ幸いです。誤字脱字、名前間違えが多かった作品で、皆様に修正頂き有難うございます。ですが、読みづらいかなと思い、変更を加えています。
モチベーションの維持にも繋がります。
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