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第二十一話  戦争のやり方

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 アラゴン大陸では戦争の最初のぶつかり合いは魔法使い同士となるのが主流だ。


 広域の魔法を展開出来る者が一人でもいれば、その魔法使いがまずは初手で魔法を敵側にぶつける事となり、応戦する側もそれなりの腕がある者が最前線に出て迎え撃つということになる。


 魔法を使った戦いが終盤に差し掛かると、歩兵が動き出してぶつかり合いが始まることになり、そうして敵の隙を突くような形で騎兵隊が動き出す。


 国によっては長距離の魔法攻撃を持つ魔法使いが居ない場合もあるため、そうなると、中距離攻撃や近距離攻撃に特化した魔法使いが騎乗で前線に出てくることになる。序盤で騎兵隊による特攻がかけられた場合は、自軍には有力な魔法使いは居ないのだと喧伝するようなものなのだ。


 早朝、両国の国境に広がるカランダ平原でぶつかり合うこととなったのだが、広域の闇魔法を仕掛けてくるはずのボルゴーニャ側の動きがやけに鈍い。


 サラマンカの王が今日にも到着するという一報を受けているのため、王の側近となる魔法使いたちがすでにボルゴーニャ軍への潜入を果たしているに違いない。


 ボルゴーニャ軍の最前線で闇魔法を駆使する大魔法使いキリアンは、サラマンカの先代の王の暗殺に成功した大魔法使いだ。あらゆる手立てを使ってでも捕まえてファティ王の前に引きずり出すつもりでいるのだろう。


 執務を放り出してまで前線へとやってきた宰相ガスパールは、愛妻の誕生日までには家に帰りたいためことを急いでいるところがある。そのため、ガスパールは過激な発言でアンドレスを焚き付けた。もちろんアンドレスの胸中が穏やかなわけが無い。


 どうして今になってもペネロペが自分を呼び出さないのか理解できないが、ガスパールが言うようにペネロペが帝国で慰み者となっているとは思わない。何しろ、誘拐直後からペネロペの父が動いているはずなのだ。


 帝国の武器開発にはバルデム卿が作り出す火薬や弾薬は必須の状態となっている中で、バルデム卿を敵に回してまでペネロペに害を成そうと思う者はまず居ないだろう。


 万が一にも居たとしたら、そいつはよっぽどの馬鹿だ。そう、そんなバカは居ないだろうとは思うのだが、アンドレスの中の苛立ちがとにかくおさまらない。


 カランダ平原に向かい合う形で双方が布陣しているのだが、アストゥリアス王国軍は二万二千、ボルゴーニャは四万と、倍に近い兵力を有しているのが小高い丘から良く見える。


 敵軍の中央に緋色の旗を無数にはためかせており、その中心に騎乗のアルフォンソ第一王子が見えた。おそらく王子を取り囲んでいるのは将校なのだろう、数の有利を鼻にかけた様子で緊張感のない表情を浮かべているのがよく見える。


「行くぞ」


 アンドレスが片手を振り上げると、後方でドラムの音が鳴り響きだす。通常、歩兵を鼓舞するためにドラムが一斉に叩かれるのだが、まずは最初に動き出したのがアンドレス率いる千の騎兵部隊となる。


 騎兵部隊が初手で使われるのは、広域や遠距離魔法を使える魔法使いが居ないことを意味している。ムサ・イル派の司教たちが送り込んできた暗殺者がアストゥリアス側に潜り込んでいるのは間違いない事実のため、ボルゴーニャ側はアストゥリアス側の魔法使いの暗殺に成功したことを確信した。


 騎馬が目の前に迫っているというのに、盾を構えた歩兵たちの後方にいる兵士たちに緊張感が見られない。指揮官の中には、こちらに向かって嘲るような笑みを浮かべている者まで居るようだった。


「投擲開始!」


 一直線に走り出した騎兵部隊は敵の前を滑るようにして一直線に走りだす。敵側はこちらが短距離の魔法を撃ち込むものと思って前線に盾を構えているが、その盾を飛び越えるような形で丸い陶器のようなものが投げ込まれる。


 導火線に火をつけた火薬壺が、千の騎兵隊から一斉に投げつけられた為、千に渡る爆発音が轟き、中衛の兵士たちの肉片が空中に飛んでいく。


 叩かれていたドラムは勢いを増し、アストゥリアス王国軍、歩兵二万が進軍を開始する。


 火薬壺の投擲後、弧を描くようにして戻ってきたアンドレス率いる騎兵隊が二列となって迫り来る。彼らが構えているのはライフル銃であり、敵の騎兵部隊はすれ違いざま、魔法ではなく銃弾を受けて馬から落ちていく。


 アンドレスは騎兵隊二千を二つの部隊に分けていたのだが、その残された騎兵隊も敵の後方から奇襲をかけるような形で動きだす。


 普通、魔法使いは格上の存在となるため、戦地では馬に乗って移動をすることになるのだが、今回、アンドレスは魔法使いに馬を与えることはしなかった。


 馬に乗るのは帝国から買い入れた武器と火薬を駆使する魔法の使えない兵士たちであり、彼らは馬上から弾丸を撃ち込み、火薬を投げつけてからの離脱を繰り返す。


 そうして、いつもは主役級の扱いとなる魔法使いを歩兵部隊に組み入れた。

 歩兵は魔力なしがなるものだというのがアラゴン大陸では常識なのだが、それを逆手に取る帝国式の戦い方をアンドレスは取り入れる。


 数で押し進める守りに特化した布陣を選んだアルフォンソ王子は中央で差配をふるっていたようだが、火薬の爆発で動きを止めた前衛に魔法を使った歩兵部隊が襲いかかり、後方からはアストゥリアスの騎兵部隊が火薬と弾丸を使って襲いかかる。


 真ん中に陣取っているアルフォンソ王子が大声をあげて指示を出しているが、自分自身が身動き出来ない状態に陥っていることに気が付いているのだろうか?


 大魔法使いキリアンがサラマンカの魔法使いを恐れて戦線を離脱したとしても、倍に近い兵が居るのだからと負けなど想定していなかったのだろう。


「うぉおおおおおっ!」


 愛馬で特攻をかけるアンドレスの周囲を取り囲むようにして、側近たちが進んでいく。アンドレスは本来、海戦でこそ本領を発揮する男なのだが、背中を預けられる仲間が居れば海も陸も関係ない。


 敵を踏み潰しながら馬を走らせたままの状態で鞍の上にアンドレスは立ち上がると、氷の塊を作り出しながら宙を飛ぶように進んでいく。


 海上であれば海を凍らせて自らが進むことも出来るものを、地上ではそれも出来ない。そのため、空中に出現する氷の塊を足場として進むしかない。


 敵兵の上を進んで行くアンドレスを見上げたアルフォンソ王子の若々しい顔は驚愕を露わにしていたけれど、引き抜いた剣を一閃させたアンドレスは、趣味の悪い黄金の鎧を着込んでいた王子の首を刎ね切った。


 そうして王子の馬に降り立つと、剣を舞うように動かしながら王子を守る将校たちの首を切り飛ばしていく。呆然とする敵に取り囲まれたアンドレスが頭上を見上げると、その上空に大きな結界の陣が広がっていく姿が見えた。


 この特殊な結界はサラマンカの王ファティが到着したことを意味している。あらゆる反感を消失させることに特化した結界、戦場で使われるとこれほど厄介なものはないのだが、

「あああ・・あああああ!」

「アルフォンソ王子が殺された!」

「我々の負けだ!」

 敵の戦意があっという間に消失していく様を眺めて、アンドレスは皮肉な笑みをその口元に浮かべた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 王子の死が1行で示されてウッカリ鼻で笑ってしまいました アンドレスがそれだけ強いのかと思いますが、このアッサリとした終わりかたでよく戦争を仕掛けたもんだと浅はかさを感じて好きです
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