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第十八話  ペネロペの胃痛

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ペネロペにとって、ロザリア姫と共に誘拐されたことは大きなストレスになったのは言うまでも無い。ちなみに船の揺れと胃痛の相性は非常に悪い、しかも船上で出される食事は塩辛い干し肉を使ったものが多く、ペネロペの胃は悲鳴をあげ続けることになったのだ。


「ペネロペ、大丈夫?」

「ええ、姫様、大丈夫ですよ」


 酷い船酔いになったわけではないけれど、とにもかくにも胃が痛い。一度だけ治癒師からの治療を受けることになったけれど、船を降りる頃には窶れ果てているような状態だった。


 桟橋から板が渡されて地上へと降り立つことが出来た時には、思わず泣きそうになってしまったほどだ。そうして隣を歩くロザリアを抱き寄せながら、ようやっと陸に上陸したのだから、呪術刻印入りの指輪に魔力を込めてやろうと考えた。


 指輪に魔力を込めればアンドレスを呼び出すことが出来るのだ。海上で呼び出したら最悪、船が沈没することも考えなければならないけれど、陸上であれば沈没する恐れはない。何とか帝国に到着したのだから、いつ、何処でアンドレスをこちらに登場させようか。


 ペネロペが薬指に嵌められた自分の指に触れようとすると、ふと、こちらを振り返ったウィッサム皇子が言い出した。


「そういえば君たちにはまだ言ってなかったんだけど、アストゥリアス王国はボルゴーニャ王国との戦争を開始して、現在、劣勢に追い込まれているという報告を受けている」


「はい?」


「氷の英雄と呼ばれるアンドレス・マルティネスや王国の地獄の番人ガスパール・ベドゥルナが前線にまで出向いているそうなのだが、ボルゴーニャ側にはムサ・イル派から送り込まれた神の番人とも言われる十人衆が活躍しているらしくてね。さすがは無敵のマルティネス卿であっても苦戦を強いられているらしいんだよ」


「えーっと、前線では地獄の番人と神の番人が戦っている訳ですか?」

「そうみたいだね」


 宰相ガスパールが『地獄の番人』と呼ばれているなんて知らなかったけれど、蛇のような印象を醸し出す宰相にはこの二つ名がとても似合っているように思える。司教たちはまた性懲りも無くこちらが破滅するように仕向るために『神の番人』という十人衆を送り込んで来ているらしい。


「それでは戦況は」

「一進一退を繰り返すという感じらしい」

「そうですか・・」


 ロザリアを抱き締めながらペネロペは項垂れた。

 前回、ボルゴーニャからの襲撃者を迎え撃った時には、ほんの僅かの魔力しか使えずに刻印入りの指輪を起動することは叶わなかったのだが、今回はアンドレスから注ぎ込まれた魔力があるため、いつでも指輪を起動することが出来るだろう。


 だというのに、肝心のアンドレスが戦争中で身動きが取れない状態だと言うのだ。今、この時にうっかり帝国まで彼を転移をさせてしまえば、アストゥリアス王国がボルゴーニャに負けてしまうかもしれない。


「むぐぐぐぐぐぐ」


 アンドレスに見出されてからと言うもの、波乱万丈にも程がある展開を迎え続けているペネロペは、陸に到着したら即座に指輪を起動してやろうと思っていたのだ。窮地に追い込まれるのはもう十分に体験したので、何もかもを元凶アンドレスに押し付けて逃げ出してしまいたい。


「うん?」

 活気ある港をペネロペとロザリアを引き連れて歩いていたウィッサム皇子は、何かに気がついた様子で形の良い眉を顰めた。


「いつの間にか情報が漏れていたようだな・・」


 周囲を囲む側近たちにも緊張が走ったことに気が付いたペネロペが前を見ると、朱色の旗を掲げた騎馬の一団が人の波をかき分けながらこちらの方へと近づいて来る。


「ブラヒム、姫と令嬢を秘密裏に私の離宮へとお連れしろ。私がアブドゥラの相手をしている間に移動を急ぐんだ」


 ウィッサムが側近のブラヒムにそう言うと、眼鏡をかけた地味な顔立ちの側近ウィッサムが恭しくロザリアに一礼をして、ついて来るように言い出した。


「今、こちらに向かっているのはアブドゥラ第四皇子です。見つかっても碌なことがないので急いで移動を致します」

「アブドゥラ第四皇子ですか」


 今現在、帝国では第三皇子と第四皇子との間で継承争いをしているような状況だということは話に聞いている。そんな中で、突如、妾妃の子供を自分の後継者にすると皇帝ラファが宣言したという話も聞いている。


 ペネロペは妾妃がどのような嘘をついているのか暴くために帝国まで連れて来られたということになるのだが、そこのところの話が第四皇子にまで漏れてしまったということになるのだろうか?


 丁度、大型船が数隻到着したということもあって波止場は人足たちでごった返しているような状態だ。

 ガレオン船から運び出される荷物は多く、そのうずたかく積み上げられた荷物の合間を通ればあっという間に第四皇子の視界からは逃れることになるだろう。


 人の間をすり抜け、時には食堂の中や市場の後ろを通り抜けながらブラヒムの後ろをついて行くと、無紋で黒塗りの四頭立ての馬車が停車している場所にたどり着く。


 押し込まれるようにして馬車へと飛び乗ったペネロペは、隣に座るロザリアを抱き寄せるようにすると、向かい側に腰をかけたブラヒムが馬車を走り出させるなり言い出した。


「我が帝国ではアンドレス・マルティネス卿は非常に有名人なため、すでに侯爵が婚約を発表したという話もこちら側に流れて来ています」


 アンドレス・マルティネスが最近婚約を発表した、その相手とはペネロペ・バルデムであることはラミレス王も認めたことだった。


「我が帝国の第一皇子はアルカンデュラの海戦で氷の英雄に殺されました」


 海賊の拠点でもあったアルカンデュラ諸島を帝国海軍とアストゥリアス海軍が奪い合い、結果、氷の英雄率いるアストゥリアスが勝利をおさめた話は有名だ。


「皇妃は第一皇子と第四皇子をお産みになりました。つまりアブドゥラ第四皇子は同腹である兄を殺された恨みを持っている訳です。おそらく、氷の英雄の婚約者が帝国まで連れて来られたという情報が漏れたのでしょう。アブドゥラ皇子はマルティネス卿をそれは恨んでいるのです。だからこそ、彼の婚約者という貴女が見つかれば八つ裂きにしてやりたいと考えるでしょう」


「えーっと・・私は婚約者かもしれませんが・・」


 ペネロペは確かにアンドレス・マルティネスの婚約者だ。

 くだらない賭けが元で結ばれた婚約は、一年の間にアンドレスが碌でもない奴だと立証できれば、ペネロペは金貨百枚を貰った上でペネロペに相応しい結婚相手を紹介してもらう予定となっている。万が一にもペネロペが賭けに負けた場合には、アンドレスの言うことを一つだけ叶えることにもなっている。


 本当に冗談みたいな理由で結ばれた婚約だというのに、どんどんとドツボに嵌っていくのは何故なのだろうか?ペネロペはとりあえず、シクシク痛む自分の胃を両手でおさえた。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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