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第十七話  ラッキーマリー

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「貴女、侍女として働いている割には扱う武器が多すぎない?」


 ロザリアに付き添ってカサスの領主館に移動をすることになったマリーが、空いた時間に武器の手入れをしていると、呆れた様子でグロリアが声をかけてきたのだった。


 グロリアは才女としても有名で、彼女の研究する空間魔法はサラマンカの魔法の塔のお墨付きも得ているほどなのだ。


「これから専属でロザリア姫の護衛もしてもらうことになるのだし、手製のマジックバッグを貴女に渡しておくことにしようかしら」

「マジックバッグって何なのですか?」

「長槍五本と長剣十本ほどを収納することが出来るバッグなのよ。軍部からも発注を受けていているんだけど、大量生産が難しいのよね」


 貴婦人が持つポシェットほどの大きさのバッグには、嘘のように長槍や長剣が収納されていく。マリーは武器なら何でも使えるタイプなので、限界ギリギリになるまでバッグに武器を詰め込んだ。


 帝国の襲撃者が現れた時にもこのバッグから武器を抜き取って出したのだが、武器とバッグが紐付けされている関係で、異空間を飛ばされたとしても床に刺し込んだ武器はマリーと一緒についてくる。


 帝国の皇子に弾き飛ばされたマリーが森の中に落下すると、マリーと一緒に無数の武器も落下してくる。

 どうやら何処かの丘の上に飛ばされたようで、木々の合間から月明かりに浮かび上がる黒々とした海が良く見えた。


 武器を仕舞いこみながら木々が切れているその先へと進むと、足元に断崖絶壁が広がった。どうやら何処かの島に飛ばされたようで、海の遥か向こう側には夜の街の明かりが海岸線の形を浮かび上がらせるようにして光っている。


これほどの街の明かりが灯っているということは、大きな港湾都市を意味している。転移魔法はいくら術者が達者だとしても、同伴なしで遠くに飛ばすことは難しい。ということは、王都オビエドからもさほど離れていない場所に移動したのに違いない。


 海の向こう側に見えるのがオビエドの港ナザレだとするのなら、ナザレから視界に入るほどの距離にある島に居るということになると・・


「ラッキー!私はラッキー!ラッキーガールだわ!」


 マジックバックは市場にも出回ってはいない超高額商品なのはまず間違いない。その高額商品を姫様の護衛だからという理由でポンと貰ったのもラッキーだったし、この場所に飛ばされたのもラッキーだった。


 ここはミノ島と呼ばれるバルデム家が個人的に所有する島でもあり、鉱物の一時的な集積所にもなっている場所なのだ。


「ラッキーラッキー!姫様!お嬢様!待っていてくださいね!すぐにマリーはお二人に追いつきますからね!」


 バルデム家は黒色火薬を帝国向けに輸出しているのだが、最後の加工は領地ではなくこのミノ島で行うようにしている。何故そのような事をしているのかというと、バルデム家秘蔵の火薬を司教たちに奪い取られないようにするためでもある。


 ムサ・イル派の司教たちの欲は際限がないものであり、綺麗な女を見かければ神への奉仕のためと言って自分たちの欲の発散のために連れ去ってしまうし、武器弾薬に至っては、人を傷つける武器は神の御心を傷つけると言って回収し、聖戦のための武器として保管しているような有様なのだ。


 元々、司教たちからは距離を取り続けていたバルデム家だけれど、帝国との取引を始めてからは何もかもを隠し通すことに決めたのだ。それについては王家からの承認も得ており、帝国とアストゥリアス王国の結びつきをより強固なものにしているのはバルデム家であると断言しても良いような状態になっている。


「兄さん!兄さん!兄さん!兄さん!」


 崖を滑り降りるようにして眼下に広がる集積場へと移動を果たしたマリーが泥だらけの姿で大声をあげると、

「マリー?まさかマリーなのか?」

 と、大柄の男が一人、外に駆け出して来たのだった。


「マルセロ兄さん!マルセロ兄さん!」


 子沢山のマリーの家では兄、姉、妹、弟、だいたい全ての人間がバルデム家に仕えている。ミノ島に隠れ住んでいた海賊たちを叩きのめして自分の配下の者にして護衛として使っているマルセロは、突然現れたマリーに抱きつかれながら、

「お嬢様が!姫様とお嬢様が誘拐された!」

 マリーの言葉に殺気を噴出させたのだ。


「まさか・・ペネロペお嬢様が誘拐されたのか?」 

「そう!そう!ペネロペお嬢様だけでなく、ロザリア姫も一緒に誘拐されちゃったんだよ!」

「何処の海賊に誘拐されたんだ?身代金目的ってことになるんだよな?おい!お前ら!今すぐ船を用意しろ!」 


 周りにいるのは全員海賊くずれのため、厳つい顔をした男たちが慌てたように動き出す。


「兄さん、お嬢様たちを誘拐したのは帝国の皇子様なんだよ」

「はあ?」

「ウィッサム皇子とかいう奴が、嘘を見破れるお嬢様の力を使うとか何とか言って連れ去ってしまったんだ」

「なんだって?そのことを旦那様はご存知なのか?」

「いや、まだ知らないと思うけど」


 船の用意をするとしても、一旦はナザレ港に移動をして急使をペネロペの父に向けて送った方が良いだろう。


「マリー、とにかくお前は一旦着替えて来い」

 マルセロは泥だらけで、お仕着せの至る所が破れているマリーを呆れたように眺めながら言い出した。

「もしかしたら旦那様に直接お前が説明することになるかもしれない、だとしたらその格好はまずいだろう?」

「あ・・・」


 木々の合間を潜り抜け、崖を滑り降りてきたマリーの髪の毛には木の枝が刺さっているし、木の葉が差し込まれて酷い有様となっている。


「わ・・わかった、すぐに着替えてくるから絶対に置いていかないでよ!」

「わかった、わかった、絶対に置いてなんていかないから」


 相手は帝国の第三皇子、マリーが何の抵抗も出来ずに飛ばされたことからも分かる通り、尋常じゃない魔法の使い手ということになる。その皇子様相手にマリーだけでは到底太刀打ちできないが、マルセロは強い。マリーの百倍強いマルセロがいれば、恐らく何とかなるだろう。


「ラッキーラッキー!ここでマルセロ兄さんに会えた私は超ラッキー!」


 マリーは着替えのために歌いながら走り出す。ラッキーなマリーはその後、マルセロよりも更に強い光の王子様と出くわすことになるのだが、ラッキーマリーはまだそのことを知らない。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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