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第十六話  ペネロペ帝国に赴く

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ペネロペには呪術刻印という、とてもお高い値段を払って刻印を刻んだ指輪が薬指に嵌められている。案の定、魔力封じの首輪を嵌められたペネロペは船の中で目を覚ますことになったのだが、

「今、呼び出しても意味がないかも・・」

 と、自分の指輪を撫でながら独り言を呟いた。


 嵌められた首輪はペネロペの魔力を確かに封じているけれど、アンドレスが注ぎ込んだ魔力までは封じられていない。この魔力を指輪に注ぎ込めば、書類上は婚約者となっているアンドレスが転移をしてくるだろう。


 問題は、巨大な船の中にアンドレスがやって来たとして、彼一人でこの事態をどうにか出来るとも思えないし、彼一人の力で船を動かすことも出来るわけがない。彼一人が現れたとしても、逃げる場所もなく海の藻屑となるかもしれないわけだ。


 だったら、とりあえず帝国まで移動をした後でアンドレスを呼び出せば良いのかもしれない。海の上で呼び出すよりも陸の上で呼び出した方が、姫と共に逃げ出せる可能性は大きくなるのに違いない。


 幸いにも船の中に連れ込まれてからは、暴力を振るわれるわけでもなく、ロザリアと共に船室に押し込められるだけで、食事もきちんと用意してくれるのだ。


「姫様、とにかく帝国に到着するまでこのまま様子見をしようと思うのですけど」

「ペネロペが一緒ならそれでいいわ」


 ロザリアはペネロペに抱きつきながら言い出した。

「それにしても、ペネロペをわざわざ帝国まで連れて行ってどうするのかしらね?」

 それについては、目を覚ました時にウィッサム皇子から話を聞いている。


「どうやら皇帝ラファが妾妃に夢中となっていて、彼女が産んだ子供を次の皇帝に据えると宣言されたそうなのですよ」

 ペネロペはロザリアの銀色の髪を優しく撫でながら新緑の瞳を細めた。


「皇帝はそう宣言されているけれど、妾妃の子供が皇帝の子供かどうかも分からない。なにしろ妾妃となったサラーマは皇宮に入った時点ですでに妊娠していたというのです」


 皇帝が外から拾ってきた女、側妃にもなれない身元の知れない女。アラゴン大陸にある何処かの国の男爵家の娘で、家が没落して帝国に流れ着いたと言うけれど、彼女の名前はアラゴン大陸由来の名前ではなく、南大陸由来の名前なのが気に掛かる。


 サラーマ、平和を意味するこの名前は帝国では良くある名前でもあるのだ。その話を聞いたロザリアは、形の良い眉を顰めながら言い出した。


「それじゃあ、ペネロペは妾妃の子供が本当に皇帝の子供かどうかを確かめるために帝国まで行くってことなの?」

「そうみたいですね」


 ロザリア自身、イスベル妃の愛人の子供なのか、ラミレス王の子供なのか、どちらの子供なのかと疑われ続けてきているため、他人事とは思えない。


「もし、皇帝の子供だとしたらどうなるの?本当にその子が皇帝になるのかしら?」

「どうなんでしょうね」


 元々は皇妃の息子である第一皇子が帝位を継承するはずだったのに、アストゥリアスの海戦でアンドレス・マルティネスと戦い、皇子は船の沈没と共に亡くなってしまったのだという。


 その後、有力候補だった第二皇子は流行病で死に(本当は皇妃に毒殺された)現在、第三皇子であるウィッサムと皇妃の息子である第四皇子のアブドゥラとの間で継承争いが続けられているような状況らしい。


「皇帝ラファは多くの側妃を抱えていますし、他にも皇子や皇女は沢山いるんですよ。だと言うのに、何の後ろ盾もない妾妃の子供を次の皇帝にすると言っても、そう易々とうまくいくわけがないんです」


 今の皇帝ラファも居並ぶ兄弟たちを討ち倒して皇帝の座に着いたような男なのだ。だからこそ、安易に赤子を皇帝にするなどということを言い出すわけがないはずなのに、皇帝は異常なほどに妾に夢中になっているという。


「洗脳かしら?」

 ロザリアは金色の瞳を低い天井に向けながら言い出した。

「グロリアが言っていたの、司教たちは禁断の技を使って洗脳する術を見出したって」

 グロリアは子爵家の令嬢に婚約者を寝取られ、カルネッタもまた、自分の婚約者を男爵令嬢に取られている。


「妾妃サラーマは何処だかの国の男爵の娘と言っていましたものね」

「いつでも男性の心を乱すのは爵位も低い家の娘なのよね」


 それは何故かというのなら、爵位が低い家には素性の知れない女でも養女として潜り込ませやすいから。当主が侍女に手を出して生ませた子供を、庶子を自分の家に呼び戻した。そんな話は巷に溢れ返っているものだから、爵位も低い家であればあるほど誰も気にしない。


「司教たちが皇帝の元にまで女性を送り込んでいたとして、何故、そんなことをするのかしら?皇帝によって信じる神様を変えさせようと考えているの?」


 帝国が信じて祀るのは原初の起こりでもある火の神となる。


「皇帝を通じてルス教を広めたいというよりも、きっと、武力で南大陸を平定したのかもしれませんね」


 司教たちは聖騎士団の結成に執着し続けているし、聖戦を起こすことで自分たちをより上の存在に押し上げようと企んでいる。皇帝を洗脳でおかしくすれば帝国の屋台骨は簡単に軋み出す。異教徒を排斥する、邪悪な神を信じる人々を救済する、理由は何でも良いけれど、聖戦を仕掛けたムサ・イル派が聖騎士団の力を使って勝利をすれば、司教や枢機卿たちは絶対的な力を手に入れることになるだろう。


「すでに司教たちの悪の手は帝国にまで伸びていたってことになるのかもしれませんね」

「そこでペネロペが嘘をまるっと見破って、みんなを平和に導くってことになるのね!」

「いやいやいやいや」


 はしゃいだ声をあげるロザリアをペネロペはゾッとしながら見下ろした。

 嘘を見破ると言っても、無意識のうちに出される相手のサインを読み取っているだけのことであり、特殊な魔法を使っているわけではない。


 特殊な能力を持っているわけでもないのに、大事に巻き込まれていくのは何故だろう?聖人アーロの手紙を偽造した時点で世界中をペテンにかけているようなものなのに、今度は皇帝の溺愛する妾妃の嘘を見破って平和に導くって・・


「いや、本当に無理です」


 何がどうしてこうなったのか全く理解出来ないけれど、ペネロペがドツボに嵌り続けているのは間違いない事実だ。ペネロペが一人で頭を抱えて唸り続けていると、ベッドに腰掛けたロザリアが足をぶらぶらさせながら言い出した。


「ああーああ、それにしてもマリーは無事でいるのかなー」


 マリーは一緒に船に乗せられたわけではなかった。彼女なら無事に逃げ出しているとは思うけれど、

「お父様と合流出来ていれば良いんだけど・・」

 ペネロペが帝国に攫われたとなれば、きっとペネロペの父は動き出す。ずんぐりむっくり体型の父だけれど、やる時にはやる男だとペネロペは信じているのだった。


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