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第十二話  ジブリールの苦悩

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ジブリールは前皇帝の八番目の姫君であり、皇帝ラファと同腹の兄妹ということになる。ラファとジブリールの母は砂漠の民とも言われる遠方を行き来する部族の族長の娘であり、皇宮の中で育てられる子供たちの中では、ハズレ扱いをされて執拗に虐められていたのだった。


 膨大な魔力を持つラファは成長すると共に軍を率いるようになり、最終的には多くの兄弟たちを追い抜いて皇帝の座に君臨することとなったのだ。


 皇帝になるまでの間にラファとジブリールの母は暗殺され、ジブリールも何度も命を狙われることになった。そんなジブリールを生かすために、ラファはジブリールをアストゥリアス王国へ輿入れさせることを計画する。


 膨大な魔力を持つラファだが、魔力を一切必要としない武器の開発に余念がなく、その武器の開発にはアストゥリアス王国で作られる火薬が絶対に必要となっていた。


 遠い異国に嫁がせることで妹の命を守り、妹を輿入れさせることでアストゥリアスの火薬を安定供給する。その計画中に、ラミレス王とジブリールが恋に落ちるという予想外のことが起こったけれど、無事にジブリールは帝国から逃げ出した。


 後ろ盾がないラファは、魔力を持たない者でも使用が出来る銃火器と自身が持つ膨大な魔力を武器にして、圧倒的な力と恐怖で皇宮を押さえつけた。そうして新たなる皇帝となったラファは抵抗を続ける親族に対しては容赦ない粛清を行った後、帝国の内側を強固にするために金と時間を掛け始めたのだ。そのうちに、歴代の皇帝たちが望み続けた北大陸への進出を何故始めないのかと、多くの族長たちからせっつかれることになるのだが。


 自分たちの足元もおぼつかないというのに、海を挟んだ向こう側に広がる大陸まで支配しようと考える。老人たちの妄執は凄まじいもので、皇帝といえども無視できない状況に追い込まれることとなる。そこで現れたのが、ムサ・イル派からフィリカ派に帰依して周辺諸国からそっぽを向かれることとなった魔法王国サラマンカの王だった。


 魔法使いは四大元素の力を取り入れることから精霊信仰を捨てられない者が多い。精霊信仰など絶対に許さないムサ・イル派は宗教弾圧を繰り返した為、自国から逃げ出した魔法使いの多くが帝国へとやって来ることになったのだ。


 その魔法使いの伝手を使って皇帝の元へとやってきたサラマンカの王は、

「ボルゴーニャ王国へ侵攻する際には我が国は帝国の支援を致しましょう。その代わり、帝国からはわが国へ食糧支援をして頂きたい」

 と、言い出した。ムサ・イル派の司教たちは魔法使いたちを餓死に追い込むつもりなのか、食糧の輸入が出来ないようにあらゆる手段を用いているのだという。


 サラマンカでは食料自給率が低く、他国からの輸入に頼っているような状況だった為、サラマンカの王は帝国に泣きつくことしか出来なくなったわけだ。


 皇帝の頭の中では、代々の皇帝や族長たちの妄執を成就させるために、北大陸への侵攻は絶対に行わなければならないものとしても、それほど北大陸に興味があるというわけではない。


 一番帝国からも距離が近いボルゴーニャを征服してサラマンカに併合させる。そして、帝国の属国という扱いとすれば良い。アストゥリアスの鉱山は帝国から距離がありすぎるため、妹に管理を任せて、次の王は妹の子が継ぐということにして族長たちを納得させるのが得策だろう。


 アストゥリアス王国に輿入れすることになったジブリールは、帝国の思う通りにことが運ぶわけがないとその肌身に感じていた。ムサ・イル派が力を持つことで、アラゴン大陸の人々は寛容さを失い、他民族を嫌うようになっていたからだ。


 自分たちの信じる神を信奉せぬ者は神に背く者であり、穢れを身に纏う者である。司教たちはあらゆる手立てを駆使してジブリールの息子ハビエルの王位継承権を剥奪し、非嫡出子扱いとしたのだ。


 であるのなら、第一王子であるアドルフォには、寛容さを身につけさせなければならない。人と人との間に差別があってはならない、光の神が等しく全てを照らし出すというのなら、王となる者は全ての者に対して平等に扱わなければならない。


 これは、帝国が侵攻してきた際に上手く立ち回ることが出来るようにするための礎となる思想であり、王国が生き残るための布石でもある。誰の支配も受け入れぬというアストゥリアス王国建国の王の教えを貫くための意思を嫌った司教たちは、アドルフォ王子を簡単に排除した。


 正妃の娘であるロザリア姫を次の女王に担ぎ上げようと考える司教たちは、ラミレス王とハビエル王子の暗殺まで企んだ。そんな司教たちをようやく排除することに成功したという時に現れたのが、ウィッサム・アル・アブデルカデル第三皇子。


 彼は帝国に新たなる危機が訪れたとして、一人の令嬢を帝国に寄越すように言い出したのだが、まさか、その第三皇子が令嬢と共にロザリア姫まで誘拐して行くとは考えもしない。


「妃よ、まさかロザリアが誘拐されるのを分かっていて黙認したのではあるまいな?」

 憤怒の表情を浮かべながら離宮へと現れたラミレス王を迎えたジブリールは、最近まで滞在していた甥を殴り飛ばしたい気持ちでいっぱいだった。


「申し訳ありません、ウィッサムがロザリアの遊び相手となって声をかけていたのは知っていたのですが、まさか、誘拐を企むなど・・」


 ジブリールも、ラミレスも、非公式で王国を訪問していたウィッサム第三皇子が、二人を誘拐して帝国に連れ去ることを考えていたとは思いもしない。


 ボルゴーニャ王国が本格的にアストゥリアス王国への侵攻を始めようとしていることから、帝国側としてはこの間に、背後からボルゴーニャに攻撃を仕掛けて征服をする。


 当初からボルゴーニャは帝国の領土とする予定でいた為、秘密裏に話し合いをしに来ていたのだが、その帝国では大きな騒ぎが起こっていた為に、ウィッサムは解決のため王国の協力を願っていたわけだ。


「私の兄が全ての原因なのです」

 ジブリールは跪きながら言い出した。

「皇帝ラファが、妾妃を皇后に、妾妃の産んだ誰の子とも分からない赤子を次の皇帝にすると宣言してから、全てがおかしくなっているのです」


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