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第十一話  嘘ですね

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「ハビエル第二王子?」

 突然現れた身体つきも逞しい男性を見上げたペネロペは言い出した。

「嘘ですね」

 男は肩下まで伸びるダークブラウンの髪を一つに纏めた、顔の彫りが深い美丈夫で、瞳は輝くような翡翠色をしている。

「イケメンは嘘を吐く、これは世界の常識になりつつあるかもしれませんわね」


 ペネロペの言葉を受け取ったマリーは二人を庇うようにして前に飛び出すと、刃と柄が一体となったフリスクナイフを五本の指に挟み込むようにして引き抜いた。


「私はハビエル殿下を直接この目で見たことはありませんが、ハビエル王子ではないと断言することは出来ます。貴方は皇帝ラファの三番目の息子、ウィッサム皇子ではありませんか」


 ペネロペは父親について帝国まで商売の為に何度か出向いていることがある為、帝都で一般市民向けに売られている肖像画を見て皇子のことは知っている。第一皇子が戦で、第二皇子が疫病で亡くなった今、目の前の第三皇子は、アブドゥラ第四皇子と皇位をかけた継承争いをしているはずだった。


「やっぱりそうでしたか〜!」

 マリーは八本のフリスクナイフを構えながら悔しそうに言い出した。


「なんか見たことあるって思っていたんです。何処かで見たって、それって帝国で描かれた絵を見ていたってことですかね。お嬢様、この方がロザリア姫の兄であると偽って声を掛けてきて、姫とお嬢様を帝国に連れて行ってくれるという話をされていたのです。やっぱりアストゥリアス王家の瞳は金色ですよね〜翡翠じゃないですよね〜、どうしてなんだろうって思っていたんです〜」


「母の方の瞳の色が遺伝したかもしれないでしょう?」

 ニコニコ笑う皇子はマリーが構える暗器に怯えた様子一つ見せない。

「ロザリア、ペネロペの言うことは嘘だよー、私が君のお兄様だよー」


 その言葉を聞いたロザリアはペネロペにしがみつきながら言い出した。

「ペネロペは嘘を絶対に吐かないし、嘘を絶対に見抜くもの!嘘つきは貴方よ!私のお兄様じゃなかったのね!」


「君の兄じゃあないけど、従兄ではあるんだよ?だったらお兄様呼びでも良いんじゃないのかな?」


「はい、嘘です。ハビエル殿下と貴方が従兄弟同士の関係なのは事実ですけど、正妃様から生まれたロザリア様は貴方とは血縁上、何の関わりもございません」


 ペネロペがロザリアを抱きしめながらそう宣言すると、大きく目を見開いたウィッサムは、

「うざーーーっ!」

 と、後ろに仰け反りながら言い出した。


「いちいち、こっちの言動に嘘か本当かのジャッジをしてくるあたりがマジでウザい。だけど、まあいいや。君の力は違う人間相手に発揮してもらうつもりだから、特に問題はないってことになるわけだよ」


「力って、私は洞察力だけで嘘か本当かを見抜いているだけで、精神感応系の魔法を持っているわけでも使っているわけでもないですよ」


「知っている」


 転移魔法を使用して四人の男がウィッサムの背後に現れた為、マリーが八本のフリスクナイフを同時に投げながら、鷹の嘴とも呼ばれるサボタージュナイフをスカートの中から引き抜いた。


 ロザリアを庇うように左手で抱きしめたペネロペは、右手を前に差し出して掌を開いた。空中に現れた五つの水球が勢い良く発射されたけれど、その全てが途中で破裂していく。その一瞬の間を詰めるようにして高速で飛び込んで来た男の気管を水で塞ぎ、もう一人の男の頭全体を水の膜で包み込む。


 周囲に無数の水の玉を浮き上がらせていく間に、マリーが襲撃者を蹴り付け、突撃して来る男の首を切り裂こうとナイフを振るった。


「面白いっ!」

 合間に割り込んだウィッサムはマリーを窓の近くへと弾き飛ばし、瞬時に移動をしてペネロペの額を鷲掴みにすると、ペネロペの意識は一瞬で刈り取られていく。


「やめて!やめて!やめて!」

 ロザリアの叫びは届かず、空中に霧散していくと、皇子はロザリアの目を塞いで意識を奪う。崩れ落ちる二人をウィッサムが両腕に抱えると、

「お嬢様と姫様を離せ!」

 マリーは所持する武器を全て自分の前に突き刺しながら言い出した。


 何処にどう隠していたのか全く分からないが、マリーの前には長剣や長槍まで十を超える武器が床に刺さっていく。燃えるような殺気を噴き出しながら長剣を手に取ろうとするマリーに向けて、

「弾けろ、飛べ」

 そう言ってウィッサムは指先で描いた魔法陣をマリーに向けて飛ばす。


 転移の際には魔法の使い手との接触が必須とも言われているのだが、今では魔法陣と魔力の利用で闇の力がなくても転移が出来るようになっている。


 転移門などは最たるもので、本人に闇の力が無くても長距離の移動が可能。飛ばした魔法陣はマリーを包み込むと、80キロ先にある洋上の孤島へとマリーを単独で転移させた。


 マリーの居た場所には魔法陣の跡が残ってしまったが、それもまたご愛嬌と言えるだろう。


「剣やら槍やらは残らないのか」

 侍女のマリーの前には10本近くの武器が床に突き刺さっていたのだが、その全てが消えてなくなっているということは、マリーと一緒に武器も転移をしたということになるのだろう。


「武器の従属化ですか?面白い能力ですね」

 ウィッサムの側近であるブラヒムが呆れた様子でそう言いながら、ウィッサムからロザリア姫とペネロペを受け取った。


「それでは我らも移動しよう」

「船へ移動でよろしいですよね」


 洋上には船がウィッサムたちの帰りを待っている。通常であれば帝国まで十四日はかかる航海も、今回は風魔法の使い手を載せているので六日の航行で帰国は可能となるだろう。


「ジブリール様にはお話しされないままで宜しいのですか?」


 アストゥリアス王国に嫁いだジブリールには、誘拐の件については何の話もしていない。ジブリールは皇帝ラファの寵愛を受ける同腹の妹ということになるのだが、帝国の後継者争いについては不干渉の立場を貫き通している。


「叔母上は何も知らなかった、帝国の皇子が何やら勝手なことをして帰って行った。それで良いであろう?」

 そう答えながらウィッサムは空間を飛んだ。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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