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第十話  アンドレスは酷いやつ

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 突然、侯爵邸に現れたロザリアは言い出した。

「私はペネロペを助けたいの!お願いだからセレモニーが終わったら私が居る控室まで絶対に来てね!」


 すでに結婚という呪縛にはまるところを助けてくれたロザリアは、尚もペネロペを助けたいと言い出した。ロザリアに会ったのはペネロペが大怪我を負った時の見舞い以来のことで、彼女が精神的に不安定になっているということには気が付いていた。


 侍女のマリーも何か言いたげにペネロペを見ているのだが、周りに人が居るという状態で何も言って来ないということは、何か込み入った話になるということなのだろう。


「アンドレス様、姫様のところへ顔を出して来ようかと思うのですけど、宜しいかしら?」


 番犬よろしく卒業セレモニーの終了と共にペネロペのところに戻ってきたアンドレスに声をかけると、

「それでは私が部屋まで送って行こう」

 と言ってアンドレスはエスコート申し出てくれたのだった。


 パーティー会場には多くの人が集まり始めているのだが、挨拶を始めればキリがないのは目に見えている。そのため、まずは姫が待っている控室へと移動することになったのだが、隣を歩いていたアンドレスが、

「何だか嫌な予感がする」

 と、言い出した。彼は元軍人であり、こういう勘は物凄く当たるらしい。


「ペネロペ、こっちにおいで」

 手を引いて近くにあった控室の一つに滑り込むと、アンドレスはペネロペを抱え込むようにして唇を重ね合わせてきたのだった。


 以前、大怪我を負って意識が朦朧としていた際に、アンドレスは口移しで水を飲ませてきたのだが、今回もアンドレスが何か得体の知れないものを口移しで流し込んできた。


 自分の物ではない異物は不快なものではないけれど、アルコール度数が高い酒を無理やり飲まされたような、酩酊するような感覚が全身に広がっていく。濃厚なキスは想像以上に長く、抵抗したくてもアルコールで酔っ払っているような状態に陥っているため力が入らない。


 ようやく口づけをやめたアンドレスは、ペネロペの乱れた髪を整えながら言い出した。


「また君の魔力を封じられるようなことがあるかも知れない。そうなったら抵抗が出来なくなるのは間違いないため、私の魔力を君に今、譲渡しておいた」

「・・・・」


「何かあれば私の力を使って指輪に魔力を込めろ。そうすれば世界の果てに居たとしても私は転移して君の元まで向かうことが出来る」

「・・・・」


「前回は魔力の押さえ込みにより指輪が外れるような事態になったが、私の魔力が混じったので絶対に外れない。例え魔力封じをかけられたとしても、私の魔力は使えるはずだから、危急の時には遠慮なく使え」


「あの・・アンドレス様、私が年相応に成長した淑女(レディ)だということはご理解頂けているんですよね?」


 腰が抜けそうなほどの濃厚な接吻に加えて他人の魔力で酔っ払った状態になったペネロペは、足元がふらつくのでアンドレスにしがみつくような形になりながらも、恨みを込めながらアンドレスの整った顔を見上げた。


「水を飲ませるのも口移し、魔力を移動させるのも口移し、アンドレス様は口移しがことのほかお好きなようですけれども、人命救助のための人工呼吸だってこれほど頻回にやらないと思うのですが?」


「だって君は私の婚約者だろう?」

「書類上の婚約者です」

「ほら、深呼吸をしてみろ。魔力酔いが大分良くなっていると思うのだがどうだ?」


 大きく深呼吸をしたペネロペは、アンドレスの魔力がお腹の底に溜まるような形で円を描いていることに気がついた。広がっていた魔力が一箇所に固まることで、酔っ払ったような感覚が霧消するように消えていく。


 手っ取り早く脱水症状を解消するために口移し、魔力をお腹に一気に投下するために口移し。それは彼にとっては合理的な方法なのかも知れないけれど、ペネロペとしては、乙女相手に何をするんだと文句の一つも言いたくなってくる。


「ペネロペ、誰も信じるな」

「はあ?」

「私以外は誰も信じるなよ」


 なんなのそれ?イケメンによる自惚れ的な発言?

「本当にウッザ!」

 ペネロペの魂の叫びはアンドレスには届かなかったようで、彼は平気な顔でロザリアの元までペネロペをエスコートした。



       ◇◇◇



「お嬢様!お嬢様!お嬢様!」


 侍女のマリーは氷の英雄が出て行くのを見送ると、即座にペネロペに抱きついた。ロザリア姫よりも早く抱きついたのは本当に申し訳ないことだったけれど、彼女は彼女なりに限界に近い状態だったのだ。


「嘘か本当か分からないのです!」

「はい?」

「お嬢様!嘘か本当かが分からないのです!」


 マリーは何が嘘か本当か分からないのか説明しようとすると、後から飛び付いてきたロザリアが言い出した。


「ペネロペ!一緒に逃げましょう!」

 ロザリアはペネロペのスカートにしがみつきながら言い出した。


「ボルゴーニャ王国と戦争が始まれば、ペネロペは戦地に連れて行かれることになるわ!嘘が見破れるペネロペを利用して、捕虜となった兵士の嘘を見破らせていくことになるだろうって!戦争に利用されるだろうって!そんなの駄目よ!アンドレスは想像以上に鬼畜な奴だったわ!」


「ちょ・・っと良く分からないのですが、つまりはどういうことなのでしょう?」

「アンドレスは、戦地までペネロペを連れて行くって言うのよ!」


 ペネロペは彼ならやりかねないと思った。何しろ外交に同行させるためだけの理由で婚姻届にサインをさせるような男である。


「捕虜の嘘を見破らせるって!そんなの許せない!」


 それもやりかねないとペネロペは思った。彼は利用出来るものは何でも利用しようという男でもある。嘘を吐いているかも知れない捕虜がいれば、ペネロペをかりだすことも十分にあり得るだろう。


「ペネロペが戦争に行って死んだら嫌!嫌なの!」


 わーっと泣き出したロザリアを抱きしめながら、戦争に行ったら死ぬだろうなとペネロペも思った。何しろボルゴーニャとの戦争には、ペネロペがアキレス腱をカピカピになる程水分を吸い取って、血液の塊を無数に飛ばした大魔法使いキリアンも参戦するだろう。


 相手はやられたらやり返すつもりだろうし、ペネロペだってやられたらやり返すつもりだけれど、何処までやり返せるかは判断がつかない。


「だからさ、帝国に一緒に逃げませんか?」

 自分たち以外には誰も居ないはずの控室で、突然、男性の声が響いたのだった。

 見ると、ダークブラウンの髪を後ろに一つにまとめた男性が笑顔を浮かべて立っており、

「ハビエルお兄様、本当に迎えに来てくれたの?」

 と、ロザリアが嬉しそうな声を上げた。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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