第八話 困惑のセブリアン
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「ぺ・・ぺ・・ペネロペが誘拐〜?」
ペネロペが卒業のメダルを授与するところはしっかりと見守ったペネロペの父セブリアンは、パーティー会場でペネロペが戻ってくるのを、首を長くして待っていたのだが、なかなか娘は戻って来ない。
そうするうちに、アンドレスの配下の者から、隣国ボルゴーニャが遂にアストゥリアスへの進軍を開始したという報告を受け、自分は戦地へ今すぐ移動することになるから後は頼んだと伝えられることになったのだ。
ペネロペはロザリア姫と共に王宮で保護されることになったと言われたものの、どうも様子がおかしい。その為、配下の者を調査のために残しながら一旦、タウンハウスへ帰ることにしたセブリアンは、先触れもなしに夜中に訪問してきたジョルディ・カサスをすぐさま自分の執務室に招き入れることにしたのだった。
まだ着替えも済ませていないセブリアンが耳にしたのは、娘が誘拐されたという一報。しかも、この誘拐にはラミレス王も絡んでいるかもしれないという事実に軽い眩暈を覚えることになったのだ。
「帝国はペネロペ嬢の嘘を見抜く力を欲しているため、強硬手段に出たということになるのでしょう」
侯爵家の跡取り息子であるジョルディは、今年から中等部に上がるものとは到底思えないほど落ち着いた様子で言い出したのだが、
「いやいやいや、ペネロペの嘘を見抜く力って、あれは魔法でも何でもなく洞察力によるものなんですよ?」
と、セブリアンは呆れた声をあげた。
「精神感応系でも何でもない、ただの洞察力によるものなんです。そんなものの為に、わざわざ帝国は娘を誘拐したのですか?」
「帝国も切羽詰まっているようだから、思い切った行動に出たということになるのでしょうが」
「いやいや、そんなご大層なことまでして連れて行っても、本当に力になるかどうかも分からないのに・・」
ペネロペは人が無意識で出すサインを読み取って嘘を見抜いているのだ。帝国が求めているものに応じられるのか、甚だ疑問が残る。
「そもそも、ペネロペと一緒に侍女のマリーだけでなく、姫様まで連れて行かれているのですよね?」
「そうです、だから僕は、姫を取り戻すために帝国まで行こうと思います」
「はあ〜」
色々と情報が多すぎて頭の整理がつかないセブリアンは、額に自分の手を置きながら天を仰いだ。
娘が姫様と一緒に攫われた。
どうやら目の前の少年は姫様にラブなのか、帝国まで連れ戻しに行くと言っている。そんなことは自分の父親に向かって言うべきことだろうに、何故ゆえ、彼は最近侯爵になったばかりの自分に声をかけて来たのだろうか?
「バルデム卿は使徒ルーサーが今、何処にいるのかご存知ですよね?」
「そりゃもちろん」
バルデム家は昔からフィリカ派を支援してきた関係で、使徒たちとは太いパイプを持っている。
「ルーサー様に奇跡の力を使ってアドルフォ王子を治して貰おうと思うんです」
「アドルフォ王子ですか?」
昨年、年末のパーティーでグロリア相手に婚約破棄を宣言し、廃嫡になって追放された悲劇の王子。
「ムサ・イル派と司教たちが渡した薬によって王子の病は悪化したと言われているのですが、姉が言うには王子の病は呪いが原因なのだそうで」
「呪いですか?」
人を呪うのはムサ・イルの戒律で厳しく禁止されているというのに、その戒律を使って多くの人間を支配下に置く司教たちが呪いに手を出していた?
「古の魔法を使うルーサー様であるのなら、治せると思うのです」
「ジョルディ殿、その、アドルフォ王子を治したところでどうするのですか?」
アドルフォ王子はジョルディの姉を断罪しようとした男でもある。そんな男を治してどうしようと言うのか、そこのところがセブリアンには良く分からない。
「バルデム卿、アドルフォ王子は光の魔法の使い手ですよ」
「それは王家の血筋なのだからそうなのでしょうけれど」
「彼の力は司教たちも警戒するようなものでした。その力があるからこそ、王子は司教たちによって闇に葬られようとしているのです」
「皮膚が腐り始めていると話に聞いておりますが?」
「腐っていたって、僕らの想像を超える力が使える方なのです」
「その王子を帝国に連れて行くつもりですか?」
「バルデム卿、貴殿の娘も救うのです。協力してくれますよね?」
カサス家の令嬢グロリアは才女として有名で、アリカンテ魔法学校にも特待生として入学し、今でも院生として魔法学校に通い、個人の研究室を持っている。
アドルフォ第一王子の婚約者に抜擢されるだけあって才能溢れる人でもあったが、彼女の歳が離れた弟も、只者ではないということになるのだろう。
「うちの船を利用するつもりなのですね」
「バルデム家が帝国と交易を続けているのは有名な話ではないですか?バルデム家の火薬がなければ、帝国の武器はあそこまで発展はしなかった」
大事な娘を取り戻す為なのだから、船の一隻、二隻、出すのは全く問題ないのだけれど、廃嫡された王子がうっかり治療されるのも、知らぬ存ぜぬを貫き通せば何の問題もないのだろうか?
「今すぐ使徒様のところへ行くのですよね?」
「今すぐです!」
当たり前です!みたいに言い出す少年を見下ろしながら、使徒様はまだ起きているだろうかと時計の針を見ながらペネロペの父はため息を吐き出したのだった。
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