第六話 姫の誘拐
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
ボルゴーニャとの国境線上での小競り合いが増えて来ているということもあり、カサス領に移動していたロザリア姫は王都へと移動することが決定した。
姫が使用していた離宮は火災でその建物の半分が焼けてしまった関係で、側妃ジブリールが住まう離宮へと移動することになったのだ。以降、ロザリア姫からの連絡の一切が途絶えることになったのだった。
ようやく懐くようになった子猫が無理やり親元に戻された。そんな風に感じたジョルディは、人が近づく事を激しく嫌うロザリアが無事に過ごせているのか心配で心配で仕方がない。
帝国は今、後継者の決定にケチが付けられた関係で、国内で不穏な動きを見せている。皇帝ラファはつい最近まで北大陸への侵攻を今すぐにでも始めようとしていたというのに、愛妾相手に人事不覚の状態となっているらしく、船に乗せて移動させようとしていた兵士たちが身動きが取れない状態に陥っている。
帝国の内情はボルゴーニャ王国にも知れ渡っているようで、帝国の身動きが取れないうちにアストゥリアス王国を征服してしまおうという腹なのだろう。
対帝国戦については、ムサ・イル派の司教たちが金と兵士を各国から徴収し、聖騎士団を結成し、打倒異教徒でアラゴン大陸をまとめ上げようとしていたのだが、アラゴン西方はフィリカ派への帰依が続き、ムサ・イル派に対する排斥運動が続いているような状態なのだ。これをひっくり返すために司教たちが戦争を利用しようとしているのは間違いない。
「あの〜、すみません。僕はカサス侯爵家の嫡男、ジョルディ・カサスという者なのですが、国王陛下よりロザリア姫の様子を見て来るように言い遣って来たのです。部屋の中を訪問しても宜しいでしょうか?」
卒業セレモニーと年末パーティーに潜り込むことに成功したジョルディは、ペネロペに伝えたいことがあるからとアンドレスに断りを入れて控室の前までたどり着くことが出来たのだが、扉の前に立つ近衛騎士たちがあまりに物々しすぎるため、思わず国王に頼まれたというような言い方をしてしまった。
ちなみにジョルディは国王に嫌厭されているようで、視界にも入れて貰えていないのだが、護衛として側近くにいたアンドレスがフォローしてくれたのだった。
孤独の王女の精神的サポートは公務などで多忙を極める王様には無理だろう。ロザリア姫が精神的に安定していないという事は察することが出来るため、王女のフォローをするために顔を出すことにしたのだが、
「姫様、カサス侯爵家が嫡男、ジョルディ様がいらっしゃっています。姫様・・姫様・・」
いくらノックをしても中から返答がこない。
普通、誰かしらの訪問があればまずは侍女が対応に出ることになるのだが、姫の専属侍女であるマリーが顔を出さないことにジョルディは強い違和感を感じたのだった。
「騎士様、今は緊急時です、中を確認した方が良いかと」
「そうですね」
ドアには鍵がかかっておらず、苦も無く扉は開いたのだが、
「ロザリア姫・・ロザリア姫?姫様?どちらにいらっしゃるのですか?」
高級な家具で設えた部屋には誰も居らず、窓には内側から鍵がかけられたままの状態となっている。
その窓際の近くで魔力の残滓を感じたジョルディはしゃがみこむと、
「今すぐマルティネス卿を呼んで下さい」
と、ジョルディは近くの騎士に声をかけた。命じられた騎士の顔が真っ青に変色していく様を眺めながら、ジョルディは早く行けと視線を動かす。
最近、自分の婚約者を襲われそうになったアンドレスは、加害者全員を氷漬けとして、男の大事な部分を壊死させて、腐らせて、捥げて落とすようなことをやってのけたので、ここで婚約者が王女と共に誘拐されたなどと言った暁には、どんなことになるのかは想像することも出来ないだろう。
足をもつれさせながら走っていく騎士を見送りながら、床に残る魔法陣の読み込みを行っていく。
転移魔法は闇に属する魔法技術の一つとなるが、闇魔法を持つ者以外でも、膨大な魔力と魔法陣を活用すればある程度の転移は可能となる。床に魔法陣の跡が残されているということは、闇魔法とは関わりないのかというと、そういうわけでもなく、この魔法陣は闇魔法の増幅効果を狙った書き込みが幾つもされている。
金色の瞳を持つアストゥリアス王家は光の魔法を持つ者が生まれ出ることが多いけれど、帝国では漆黒の髪色の者が生まれ出ることが多いし、それに応じて闇魔法を使う者も多いと聞く。転移魔法も彼らにとってはお家芸のようなものであり、消え掛かった魔法陣を読み込めば、彼らが何処に飛んだのかを把握することが出来る。
「ロザリアが居なくなったとは本当のことなのか?」
殊勝なことにラミレス王自身が、姫が攫われた部屋を訪れたようだった。
「今、残された魔法陣の残滓を読み取りましたが、帝国由来の魔法陣であり、距離で言うと八十キロほどの移動。恐らく洋上で待つ旗艦船へと移動をしたものと思います」
「大魔法使いキリアンが誘拐したのではないのか?」
「キリアンは好んで魔法陣に古代文字を利用しますが、残された魔法陣は実に効率を重視した簡素な作りのものでした。この方式を好んで使うのは帝国以外にありません」
「なーんだ、キリアンが現れたのなら追ってやろうと思っていたのに、キリアンじゃないのなら仕方がないな」
ジョルディは魔法王国サラマンカの王であるファティ・フォン・メレンドルクがラミレス王の背後から現れた為、魔法陣から一歩退く形で下がる。すると、まじまじと床を眺めたファティは、
「皇族が転移しているね」
と、言い出した。
「皇帝の一族は独特な魔力を使うから、微細ながらも良く分かる」
サラマンカの王は世襲ではなく、代々、一番の魔力を持つ魔法使いが玉座に就くようになっている。
魔法使いの王ファティは肩近くで結えた髪が純白に染まっていても、まだ三十代の男性で、即位をして八年ほどになるだろうか。大魔法使いキリアンに先代の王を殺された恨みは相当根深いものであるため、キリアンが現れたアストゥリアスに御自ら足を運んだということなのかもしれない。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
モチベーションの維持にも繋がります。
もし宜しければ
☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録
よろしくお願いします!




