第五話 侍女のマリーにはわからない
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侍女のマリーの生家は子沢山の男爵家。曽祖父の時代に戦争で活躍して爵位を授かったというような家であり、代々の方針で、女でも男でも戦士としての特訓を受けることになっている。暗器の使い方は幼い時から習うため、多種多様なナイフが子供の時からの遊び道具の一つでもあったのだ。
侍女が着るお仕着せの中には幾つもの暗器を隠し持つことも出来るけれど、マリーは例え暗器を持っていなくても、身近にあるもので暗殺が出来る。例え一切の武器を持っていなかったとしても、殺すことも出来るし、守ることも出来る。
そんなマリーだからこそ、ロザリア姫の護衛兼侍女としては都合が良かったのかもしれない。
「マリー、ペネロペが王宮に出仕すると言っているんだよ。申し訳ないけど、君にはペネロペの護衛をしてもらいたいんだが、大丈夫だろうか?」
主人としてただ命令をすれば良いのに、バルデム伯爵はマリーのことを気にかけながら問いかける。それは何故かと言うのなら、子沢山の家の出身であるマリーがお嬢様と一緒に王宮に出仕するようになれば、弟妹の面倒を見ることが一切出来なくなるからだ。そこのところを心配してくれているのだろう。
「私は全く問題ありません、お嬢様と共に王宮へ出仕致したく思います」
マリーの家は派閥争いに巻き込まれた余波で、爵位返上の危機にまで追い込まれることがあったのだが、先代のバルデム伯爵が、家の倉庫に眠っていた古書を想像も出来ないほどの高額で購入してくれたことから、何とか危機を乗り切ったという過去がある。バルデム家には足を向けて寝てはいけないと、父や母にも口を酸っぱくして言われている。
マリーがペネロペの専属の侍女として仕え出したのは十歳の時のことになるけれど、以降、八年間、お嬢様を支える為だけに生きてきた。そのペネロペお嬢様が途中で離脱し、ロザリア姫をたった一人で守り切るという重いおも〜い任務を抱えることになったマリーは、その後、王都に移動することになり、お嬢様の卒業パーティーを見学することが出来るという行幸を賜わることになったのだった。
しかも、姫様の異母兄となるハビエル王子は、これから戦争となるアストゥリアス王国は危険だからと言って、ロザリア姫とお嬢様を帝国に逃してあげようと言い出した。
マリーは思わず生唾を飲みこんだ。
アストゥリアスの王宮の中だというのに、周りはみんな帝国人。お忍びでロザリア姫に会いに来たハビエル王子は、帝国と王国の血を半分ずつ引いているはずである。公には出ることのない非嫡出子扱いの王子であるため、マリーはハビエル王子の容姿など知るわけがない。
「瞳が翡翠色」
と、思わず口の中で呟いてしまうほど、ハビエル王子の瞳は美しい翡翠色。帝国の姫だったジブリール妃と同じ色であり、皇族と呼ばれる一族は皆、翡翠色の瞳をしているとマリーは誰かから聞いた覚えがある。
「半分帝国の血が流れるという王子が帝国に誘うのは・・別に変なことじゃないのかな?」
お嬢様が色々とあの後もやらかして、よく分からない大魔法使いを死ぬような目に遭わせて大きな恨みを買ったのだという話は、グロリア様から聞いている。
「元々、帝国に行って商会の手伝いをするとも言っていたし、危険を避けて帝国に行くのはお嬢様にとっても良いのかも」
ただ、マリーはハビエル王子を実際に見たことがないし、お忍びでロザリアに会いにくる王子様が本物のハビエル王子様なのかどうかが分からない。たとえ周りに尋ねてみたところで、その答えが嘘か本当か、お嬢様のようにマリーに嘘を見抜く力はない。
「とりあえず、私はロザリア様の護衛兼専属侍女ということになっているから・・」
アリカンテ魔法学校には多くの要人も訪れる関係から、パーティー会場の近くには豪奢な家具が取り揃えられた控室のようなものが幾つかある。その一室へ移動することになったマリーは、会場まで続く馬車の列を眺めているロザリアに声をかけた。
「姫様、今日はお嬢様が好きなフレーバーティーを用意しようかと思うのですが如何でしょうか?」
「そうね、ペネロペの好きなものは何でも用意してあげて」
ロザリアはスキップしながら戻ってくると、ソファに座りながら言い出した。
「本当はジョルディも連れて行けたら良かったんでしょうけど、離宮に移動してから連絡も取れないし、本当はお礼も言いたかったんだけど仕方がないことよね」
ロザリアがジョルディと連絡を取りたかったのと同じように、マリーもバルデム伯爵(今は侯爵に陞爵した)に報告と相談をしたかった。姫が王と共に卒業式のメダルを授与している時に、少しだけ席を外そうかとも思ったのだが、誰かしらが監視に付いているような状況なので諦めた。
しかも相談する内容というのが、ハビエル王子が、帝国へペネロペとロザリアを逃がしてくれるという話なのだ。ペネロペ第一で考えると、帝国に行けた方が良いのかどうなのか判断に迷うマリーは結局、誰にも相談できないまま今に至るわけだ。
「早くペネロペが来ないかしら」
「本当に姫様はうちのお嬢様がお好きですねぇ」
「ペネロペが好き!もちろんマリーも好きよ!」
「大変光栄にございます」
そう答えながら俯いたマリーは顔をくちゃくちゃにした。
ハビエル王子は公に出ることがなかった為、今までロザリア姫も直接会ったことがなかったらしい。帝国人に囲まれたあの王子様は、本当にハビエル第二王子殿下ということになるのだろうか?アストゥリアス王国の王家の瞳は金色じゃなかったのか?母親の遺伝が強かったってこと?だから非嫡出子扱い?あーーわからないーー!
「はあ、お嬢様の嘘を見抜く力が私に少しでもあったなら良かったのに」
嘘をつく時には大概、口元にある特徴が現れる。そのサインを見逃さないようにすれば良いのよ。なんてことも言われたこともあったのだけれど、マリーに嘘を見破ることはかなり難しい。
「それでも、姫様とお嬢様をお守り出来ればそれで・・」
発言権がないマリーは、とにかく姫とお嬢様をお守りするしかないのだ。そう思い切るしかない。だって誰にも相談なんか出来ないんだから仕方ない。
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