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第四話  王女の孤独

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 アリカンテ魔法学校の卒業セレモニーには親族や友人たちが参加することになるものの、大多数の生徒はセレモニーが終わった時間を見計らって会場に入場する。


 昨年はこの場でアドルフォ王子がグロリア嬢に対して婚約破棄を宣言した。


 本来なら第一王子の卒業式、そのセレモニーに国王が参加することが当然だろうし、卒業のメダルを国王自らが王子や他の生徒たちに渡して然るべきだった。だというのに、それをしなかった。何故なら正妃とその子供たちに目を向けようとはしなかったから。それは、やはり、ラミレス王の犯した罪の一つにもなるのだろう。


 そうして自分の子供が卒業する年でもないのに、ラミレス王は公務としてこの年の卒業生たちに直接メダルを渡す役を担うことになる。その手伝いをロザリア姫もまた初の公務として行うことになるのだが、昨年、王がこのような配慮を見せていたなら事態は違った方向で進んでいたのかもしれないのだが。


「アンドレス、色々と言いたいことはあるかも知れないが、私だって思うところはあるのだ」


 ペネロペを見送ってから国王の護衛として側近くに戻ったアンドレスに対して、ラミレス王は眉を顰めながら言い出した。


 初の公務、しかも父王と共に行う公務だというのに、ロザリア姫はラミレス王の方に視線を向けない。まるで集団の中に埋もれた親を探すようにペネロペを舞台の袖から探している。


 そうしてペネロペを見つけると、その視線に気がついた様子のペネロペがこちらに向かって小さく手を振った。流石は浮気男たちから淑女たちを解放(婚約破棄)させていっただけあるようで、ペネロペの周囲には、ペネロペの卒業を祝う女子生徒たちが大勢集まっている。


 ロザリア姫は後ろを振り返り、寄り添うように付き従っていた侍女に嬉しそうに声をかけている。人間不信を拗らせている姫は身近に人を置きたがらない。


 側に置くのは侍女のマリーだけ。そしてただひたすら、ペネロペが自分の元に戻って来るのを待っている。姫の孤独は解消されず、そのままの状態を維持していることに胸が痛い。カサス領に居た時にはグロリアの弟のジョルディと親しくしていたということだから、姫の遊び相手としてジョルディを招き入れても良いのかも知れないが。


「陛下、姫の遊び相手として」

「今はその時ではない」

「カサス侯爵の子息ジョルディ殿と姫は仲が良かったようですが」

「ないな」


 ラミレス王は放置していた姫に近づこうと努力はしているが、全くうまくいっていないのが現状だ。離宮に移動してから姫の近くにはマリーしかいない。カサス領に居た時にはペネロペの代わりにジョルディが居たのだが、そのジョルディも王の許可がなければ離宮に顔を出すことは出来ない。


「離宮によそ者が入るようでは困るのだよ」


 巷では帝国との交易再開をする条件として、無理矢理、帝国の姫をアストゥリアスが妃として娶ることを強要されたというように言われているけれど、実際には、ジブリールに一目惚れしたラミレスが、当時の皇帝に熱心に願い出て妃として娶ったという経緯がある。


 ラミレス王は無理矢理側妃として娶ったジブリールを冷遇しているように見せかけているけれど、溺愛しているが故に、十五年も表には出さなかっただけの事なのだ。

 離宮にロザリアが移動してしまえば手を出せない、ジブリールの離宮は不可侵で出来ているからだ。


「私の方で一旦、姫をお預かりすることも出来ますが」

「くどい」

 そう答えながら王は視線を王女から背けた。



     ◇◇◇



 ロザリア姫は孤独な少女だった。ロザリアは王と妃の娘なのだろうけれど、いずれは政略的に結婚をさせるための駒に過ぎず、完璧なマナーとある程度の教養を身につけられればそれで良いと思われていたのだろう。


 ロザリアにとって、『嘘』は魂の叫びのようなものだった。目に付くほどの嘘、人が眉を顰めるほどの嘘、様々な嘘をついていけば、父か母が見かねてロザリアに声をかけに来てくれるかもしれない。


 だけどロザリアに声をかけて来たのは父でも母でもなく、今まで見たこともない令嬢であり、

「姫様は明らかに嘘をついていません!」

 と、彼女はその場で断言し、宝石を盗んだ侍女と近衛兵を糾弾してくれたのだった。


 ロザリアにとってペネロペは、一条の救いの光だった。誰もが淑女ではないと眉を顰めて嫌悪する泥遊びを率先して行って、いつでもロザリアの近くに居てくれた。家庭教師との勉強の合間では、ペネロペは分からないところを丁寧に説明してくれたし、ロザリアの愚痴も聞いてくれた。そのペネロペが近くに居ない。


 カサス領から王都に移動することになったロザリアは、今まで会うことがなかった父がジブリール妃を溺愛していることを知った。


 父であるラミレス王にとって、ジブリールとその息子だけが自分の家族であって、母であるイスベル妃とその子供たちはどうでも良い存在だったということを改めて突きつけられていたのだった。


 父は離宮に移動してきたロザリアに対して気遣うように声をかけて来たものの、ジブリール妃に良く見られたい為だけのパフォーマンスにしか見えなかった。ロザリアの所為で自分自身の評判が下がるのを恐れて、娘を気に掛ける優しい父親を演じているだけだ。


 帝国人に囲まれたジブリールの離宮にいると、始めて会うことになった異母兄であるハビエルがこっそりとロザリアに会いに来ると言い出した。


「ペネロペ嬢の嘘を見抜く力は尊い物だから、戦争では重宝されることは間違いない。マルティネス卿はきっと、ペネロペ嬢を戦場に連れて行って捕虜の尋問に立ち合わせるつもりに違いない。だってそうだろう?敵の情報を手に入れるためには、嘘を見破れる令嬢の力は重宝することになるんだからね」


「そ・・そんな・・どうにか出来ないの?」

「うーん、戦争だから難しいんだけどね、私なら何とかなるかもしれないかな」


 帝国と王国の血を半分ずつ継ぐ、何の権利も持たない王子は言い出した。


「ペネロペ嬢は無事に卒業資格を獲得して、アリカンテ魔法学校の卒業セレモニーに参加するようなのですよ。国王陛下は貴女が自分の娘であると喧伝するために、貴女を公務に出すことにしました。ペネロペの卒業セレモニーであれば、貴女が二つ返事で了承すると思っているのでしょう」


「う・・うん・・卒業をお祝い出来るなら直接お祝いを言いたいもの」


「ただ、公務に参加するのでは、ペネロペ嬢とお喋りすることなど出来やしません。国王陛下に貴女から、セレモニーとパーティーの間の少しだけで良いからペネロペ嬢と二人きりで話したいと言いなさい。いつもお付きの侍女が一緒に居ると言って、扉の前に大勢の兵士を並べてもいいからと言って、二人で話せるようにしてくれないかとお願いするのです。そうすることが出来たなら、安全な帝国まで、ペネロペ嬢と貴女をお連れ致しましょう」


 ハビエル王子の言葉を信用して良いのかどうかは分からないけれど、ロザリアはペネロペととにかく一緒に居られるなら何でも出来るような気がしていた。


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