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第三話  ままならない世の中

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 アンドレスは自分の誇りをかけて立ち上がるペネロペの姿が好きだ。

 初対面の国王ラミレスを前にしても、フィリカ派の頂点に立つ使徒ルーサーを前にしたとしても、スッと背を伸ばして一切怯むことなく立つ姿は美しい。


 たった一人で二十人近くの男たちに囲まれたとしても、あの大魔法使い相手に致命的なダメージを与える肝の太さは並大抵のものではない。  


世界中、どこを探しても彼女ほどの人は居ないし、世界中どこを探しても、あの嘘を見抜こうと射抜くように真っ直ぐ向けられる、あの新緑の瞳と同じものを持つ女性は居ないだろう。


「マルティネス様、貴方は宰相であるガスパール・べドゥルナ様がお嫌いですね?」


 まだ幼さが残るペネロペの感情を読ませることのない微笑みを見つめた時から、彼はペネロペの虜になっていたのかもしれない。大嘘を吐いて周囲を困らせ続けるロザリア姫の真実に気付き、孤独な王女を救い出したペネロペ。


 修復師として他の追随を許さぬ技術を持つペネロペを躊躇なく巻き込んで行ったのはアンドレスだ。だからこそ、ペネロペを守るのは自分であるという自負もある。


 独身主義であると喧伝していた、侯爵家の後継は弟の子供に任せれば良いと考えていた。そんな過去の自分はかなぐり捨てて、侯爵夫人に送られる碧の布地を侯爵家の倉庫から運び出し、ペネロペの為のドレスを作るように家令に命令した。


 マルティネス侯爵が伴侶として彼女を認め、自らの庇護下に置いたのだと喧伝するために、なりふりなど構わなくなっている自覚もある。


 卒業パーティーの前に婚姻届にサインを求めたのも、必要にかられたからに他ならない。ボルゴーニャは巧みに自国の兵士をアストゥリアス王国との国境に集めているのを隠しているが、間違いなく、戦争は起こる。


 戦争の前に周辺諸国を回り、こちらに巻き込む形でムサ・イル派との決別を促せたら良いのだが、おそらく、その時間はない。隣国は『聖戦』をこちら側に仕掛けようとしているし、これが大陸中で『聖戦』として認められることになれば、想像を超えるほどの血が流れることになるだろう。


 ムサ・イル派は異物を許さない。異国の宗教を許さない、光の神以外の神を信奉する人々のことを穢れた者と呼ぶ。彼らが信奉する光の神と、フィリカ派が信奉する光の神が同じものであるのは間違いないのに、帝国と結びつきを強くしようとする国々に認められたフィリカは邪教として断定するに至ったらしい。


 聖戦の準備は着々と進められ、国境での火蓋が切られれば、その戦火はアラゴン大陸中に広がることになるだろう。光の神の名を掲げながら司教たちは神を利用しているだけに過ぎないのに、多くの血が流れるだろう。


 金を集めることに執心し、己の権力が大きくなることを望んでいるのは昔も今も同じことで、あまりに多額の金を請求することに不満を顕す、懐具合も厳しい小国の為政者たちを黙らせるために、彼らは強大な武力を望んでいる。


 邪教を祀る帝国を破るために、正しき神の教えを広め、多くの人々を救済するために、そんなものはおためごかしに過ぎない。


 ただ、ただ、自分たちの勢力を拡大したいから、神の名の元に何万、何十万という人々が死んでいったとしても、何の問題もない。


 何十万、いや、何百万の人の屍が積み重なったとしても、彼らは何の感傷も持ちやしない。それは、神の御心に添うための必要な犠牲で、自分たちの欲の所為で多くが死んだとしてもそれは必要だったこと、それだけで終わらせてしまうのだ。


 聖戦が起こらないようにするために、あらゆる策を講じてはいるもののボルゴーニャとの戦いの火蓋は切って落とされることになるだろう。そうなれば、アンドレスは地上戦に投入されることになる。海戦では無敵のアンドレスでも、海水もない地上では苦戦することは間違いなく、死ぬ確率は高い。


 しかもこの戦いには大魔法使いキリアンが参戦してくることになる。そのキリアンにぶち当たるのは自分に他ならず、奴を倒すには死闘が繰り広げられることになるだろう。だとするのなら、ペネロペを名前だけでも侯爵家の正夫人にしておきたかった。


 例え自分が死んだとしても、マルティネス侯爵家の庇護下に居られるようにするために。福音書とアーロの手紙の作成に深く関わったペネロペを、侯爵家の奥深くに隠して守れるようにするために。


 この世の中は本当にままならない。


「アンドレス様、素晴らしいドレスを用意してくれて嬉しく思いますわ!心からの感謝を申し上げます!」

 にこりと笑ったペネロペは改まった形でカーテシーをする。


 今日のペネロペは白地に金の刺繍が施された生地に差し色としてマルティネス・ブルーをあしらったプリンセスラインのドレスを着ている。


 ピッタリとフィットする豊かな胸から首元までは包み込まれるようにして見事なレース生地をあしらい、腰の切り替えから幾重にもギャザーを重ねてふわりとスカート部分が膨らむように広がっている。


 刺繍によって白金にも見える生地はアンドレスの髪の色であり、差し色として用いられるマルティネスブルーはアンドレスの瞳の色と同じ物。侯爵の独占欲を見事に着こなしたペネロペは、ドレスの色などについては全く頓着していない。


 ただ、ただ、肩の傷が目立たないか、それだけを気にしていることをアンドレスは知っている。 

「それではセレモニーが始まりますので、私、行って参りますわね!」


 アリカンテ魔法学校でも、アストゥリアス王立学園でも、卒業のセレモニーでは卒業を記念するメダルを授与するような形となり、後日、卒業を証明する証書は自宅へと配送されることになっている。


 以前はメダルと証書を直接本人に渡していたのだが、授与式の後には卒業を祝うことも含めた年末のパーティーが催されることになる。そこで証書を紛失してしまう生徒が毎年出てしまうことから、証書だけは自宅へ郵送という形を取るようになっているのだった。


「気をつけて行って来い、腹が痛くなったらすぐに誰かを呼ぶように」

「この後に及んでお腹って」


 胃弱体質であるペネロペを気遣って言っているというのに、ペネロペは小さく吹き出すようにして笑うと、友人たちの方へくるりと向きを変えて行ってしまった。


 一年の締め括りとして様々な場所で年末のパーティーは開催されることとなるのだが、それはアリカンテ魔法学校にしても同じこと。

セレモニーの後には、同じ会場で年末を祝うパーティーを行うことになるのだが、もちろん卒業生を祝う意味も含まれることになる。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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