第二話 ロザリア登場
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「ペネロペ!これがどうしてもやらなきゃいけない政略的な結婚だと言うのなら、何も言わないけれど、ペネロペは国を背負っているわけでもなければ、国の命運を握っているわけでもないのでしょう?それに、結婚ってそんなに簡単に決めて良いようなものなの?私のお母様はその結婚で失敗して、死んでいるのよ!」
ロザリア姫を追いかけるようにして部屋へと入ってきたラミレス王は、ウグッと喉を詰まらせたような表情を浮かべて立ち止まった。
「しかも、ムサ・イル派を排除したと言っても、今後どうなるかも分からない状態で結婚なんか決めて、ムサ・イル派が実権を取り戻したらどうするの?彼らは神の御許で承認された結婚だけでなく婚約の破棄ですら認めないのよ!つまりは、望んでも気軽に離婚なんか出来ないってことよ!」
ロザリアの離婚が出来ないという言葉を聞いたペネロペは、握っていたペンをテーブルの上に置いた。
「結婚とは、二人で生涯を共にする、後戻り出来ない道に進むってことなんでしょう?だったら、ゆっくり考える時間ぐらいペネロペに与えて頂戴よ!お願いだから!」
ムグッと言いながら向かい側のソファに座るアンドレスは自分の言葉を飲み込んだ。
確かに、やると言ったらやる男であるアンドレスは、拒絶されることなく、ペネロペを追い込む形で婚姻届の記入に踏み切る手段に打って出た。これは、ペネロペを脅して騙しているようなことになるかもしれないけれど、彼にとっては彼女を守るために必要な手段だったのだ。
だとしても、金色の瞳に涙を浮かべながらこちらを見つめる姫の真剣な眼差しを受けては、自分の間違いを認めざるを得ないのもまた事実で。
「アンドレス、焦る気持ちは分かるが、ペネロペ嬢にも時間は必要だよ」
今日の卒業パーティーにはロザリア姫が王族として初めて参加する公務の一つということになったのだが、彼女が不義の子であるという噂を払拭するため、国王も共に参加する予定でいたのだ。
会場で顔合わせをする予定だったというのに、ロザリア姫がここに居るということは、姫の勢いに陛下が負けたということになるのだろう。ちなみに、父と娘の交流がようやっと始まってはいるのだが、最初の一歩も踏み出していないような状態なのは間違いない。
「ペネロペ、ペネロペ、私、ペネロペに会って話したいことが沢山あったの」
「姫様、私も姫様に話したいことが沢山あります」
ロザリアを優しく抱きしめたペネロペが慈しむように姫の銀色の髪を撫で付ける。父にも母にも興味を持たれなかった少女の心の拠り所は、今でも、ペネロペ一人となってしまっているのだ。
◇◇◇
「陛下、どうして姫様を連れて私の家までやって来たのですか?」
「いや、だって、ロザリアがペネロペに一番に卒業のお祝いを言いたいと言うから」
「ロザリア姫に言われたら、陛下は何でも望みを叶えてしまうのですか?」
「そう言う訳ではないのだが、慕っている令嬢にただ会いたいと言う願いは、決して悪いものではないだろう?」
怒りを滲ませるアンドレス・マルティネスを前にして、ラミレスは困り果てた様子で肩を竦めて見せた。彼が何をどう言ったって、今、この時点で、ペネロペに婚姻届のサインをさせることなど出来やしない。
もちろん、ラミレスが命じればペネロペはサインをせざるをえない状況に追い込まれることになるのだろうが、そんなことはラミレス自身も望んでいない。
「結婚などというものは、互いの意思を確認しあった末に行えば良いと私は思う。私のように伴侶も碌に選べないような身分であるというわけでもなし、男ならきちんと相手を口説いた上で、婚姻届にサインをさせるべきであろうに」
「私なりに口説いてはいたのですが」
「あれで?」
ラミレスは呆れ果てた様子でアンドレスを見ると、
「とにかく、淑女たちは泣いたり笑ったりで色々と調整が必要そうだから、私たちは一旦部屋の外で待つことにしよう」
と言って、アンドレスを部屋の外へと押し出したのだった。
今日は魔法学校の卒業式に公務として国王と王女が出席することとなる。何しろ、隣国ボルゴーニャがアストゥリアス王国の周辺に兵士を集め始めているという噂もある中、いざ、戦争となれば魔法学校を卒業した生徒たちは戦力として投入されることになる。
もちろん、戦争が起きないようにあらゆる手立てを打つつもりではあるものの、多くの若者の失望感を買うことがないように、国王として出なければならない場というものが思いの外、沢山あるということだ。
「ロザリア姫が王都に戻っていたとは思いもしませんでしたよ、今はどちらにいらっしゃるのですか?」
「ジブリールの離宮に預かって貰っているのだ」
側妃ジブリールは自分の身の回りを守るために、祖国から人間を招き入れている。奥宮の人事を司る正妃がムサ・イル派とズブズブの状態だったことから、隔離された側妃の離宮が一番安全な状態なのだ。
「カサス領はボルゴーニャとの国境にも近いため、姫の御身を移動させなければと考えてはいたのですが、ジブリール様のところなら安心と言えるでしょう」
「それで、ジブリールからもペネロペ嬢のことを言われているのだが」
「渡しませんよ」
アンドレスの即答に、思わずラミレスの口元に皮肉な笑みが浮かんでしまう。
「渡すわけではない、少しの間、貸し出すだけだ」
彼の表情は頑ななまでに変わらず、ブルートパーズの瞳はラミレスに向かってまっすぐに向けられる。
「だからこそ、籍だけでも入れておこうと思ったのに、もしかしてロザリア姫を連れて来たのはわざとですか?」
「いや、そんな訳がないだろう」
卒業パーティーに出かける前に、婚姻届にサインをしろなどと言い出しているとは思いもしない。アンドレスがペネロペを逃さない為に、そうした行動に出たのは理解が出来るが、雰囲気もへったくれもない有様に、正直、ペネロペを哀れにも思う。
「そうか・・氷の英雄はいつも女から追いかけ回されるばかりで、自分から追いかけたことがなかったのだな・・」
ラミレスが思わず独り言を呟くと、
「陛下、今、何か仰いましたか?」
怒りを滲ませながらアンドレスが問いかけてきたのだった。
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