猫人族の子どもを拾った少年、ゲートが開くまで面倒を見る
猫人族の子ども『ミィ』は閉じかけのゲートからこちらにやってきた。名前はミィと鳴いていたからミィだ。彼女は閉じてしまったゲート付近でしばらく鳴いていたが、ゲートが消えてしまったことを知るとその場に座り込んでしまった。
もうすぐ日が沈む。こんなかわいい女の子を一人にしておいたらきっと悪漢に襲われてしまう。そう思った僕は彼女に手を差し伸べた。
「ねえ、僕の家に来ない?」
彼女の言葉は分からないが笑顔で僕の手を握ってくれた。えっと、これはオッケーってことかな? 彼女は僕の手を離そうとせずその場から動こうとしない。うーん、困ったなー。いったいどうすればいいんだ?
「お兄ちゃん、その子誰?」
「おー、沙知じゃないか。えっと、この子は」
「ミィ!」
「そう、ミィだ」
「いや、名前を知りたいんじゃないんだけど。まあ、いいや。私のゴーグルで検索すればすぐ分かるから。うーん、あっ、この子この世界の人間じゃないね」
「え? そうなのか? あっ、そういえば、なんかゲートみたいなところから出てきてたな」
「そっか。でも、言葉が分からないと意思疎通できないね。よし、その子今日からうちの子にしよう」
「おいおい、勝手に決めるなよ。というか、母さんになんて言うつもりだ?」
「え? 子猫を拾ったって言えばいいんじゃないの?」
「子猫は子猫でも人型の子猫だぞ?」
「大丈夫だよ。お母さんはそういうの気にしないから」
「それは知ってるけど……」
「ミィ?」
「あー、大丈夫だよ。お前を一人になんてしないから」
「ミィ!」
ミィは僕の背中に乗るとスウスウと寝息を立て始めた。
「おっ、お兄ちゃんの人外に懐かれる謎体質が役に立ったねー」
「うるさい、早く帰るぞ」
「はーい」
僕は帰宅後、すぐにミィのことを母に説明した。母は「あらあらー、かわいい子ねー」と言いながらミィの頭を撫でていた。
「えっと、この子普通の人間じゃないみたいんだけど、それでもいいかな?」
「いいじゃない。娘は何人いても飽きないからー」
「相変わらず能天気だなー。まあ、いいや。沙知、翻訳機作ってくれ」
「もうできてるよ」
「早いな。ん? なんで首輪型なんだ?」
「かわいいから」
「えっと、それ以外に理由はないのか?」
「それが主な理由だよ。もしかして指輪型の方が良かった?」
「首輪でいいです。じゃあ、ミィが起きる前にさっさとつけてくれ」
「はーい」
「ミィ!」
ミィは首輪型翻訳機を首につけられそうになると急に目を覚まし、それを振り払った。
「やっぱり首輪は嫌なんじゃないのか?」
「そうかな? じゃあ、お兄ちゃんがやってみて」
「え? お、おう、分かった」
僕はミィをソファに座らせると沙知から首輪型翻訳機を受け取った。僕はミィのとなりに座るとミィの目を見てこう言った。
「ミィ、僕たちはお前の味方だ。お前にひどいことはしない。だから、これをつけてくれないか?」
「……ミィ。ミッ!」
ミィは少し上を向いて首がよく見えるようにしてくれた。
「ありがとう、ミィ。じゃあ、つけるぞ。はい、終わり」
「ごちゅじん様、私の言葉分かる?」
「ああ、分かるぞ」
「やった! これでごちゅじん様とお話しできる! ごちゅじん様ー!!」
「あっ! こら! いきなり抱きつくな!! おい! 二人とも! 見てないでなんとかしろ!!」
「あらあら、ミィちゃんはお兄ちゃんのことが大好きなのねー」
「よし、翻訳機は問題なく動いてるみたいだね。あー、よかったー」
「ごちゅじん様、どうしたの? 私、何か悪いことした?」
「いや、何も」
「そっか。じゃあ、もっとギューするねー」
「ちょ! 待て! あー! 死ぬ! マジで死ぬ! ミィ、頼むからもう少し優しく抱きしめてく、れ……」
「あっ、お兄ちゃんが気絶した」
「ごちゅじん様、大丈夫?」
「大丈夫だよ、ミィちゃん。お兄ちゃんはちょっと寝てるだけだから」
「そっか。じゃあ、私も寝るー! おやすみなさい、ごちゅじん様」
「あらあら、まあまあ」
「あー、かわいい。私、妹欲しかったからミィちゃんにガチ恋しそう」
それからゲートが見つかるまでの間、ミィはうちで楽しく暮らしていた。まあ、ゲートが見つかる前に沙知がゲート発生装置を作ってしまったのだが。
「お兄ちゃん、ゲート発生装置できたよー」
「おー! ついにできたか! 沙知、お前本当に天才だな!」
「まあねー。ほら、ミィちゃん。ここを通れば元の世界に帰れるよ」
「……やだ」
「え? ミィ、お前今なんて」
「やだ! 私はごちゅじん様と一緒に一生ここで暮らすの! だから、私元の世界になんて帰らない!!」
「ミィ……お前」
「ごちゅじん様は私のこと嫌い?」
「嫌いじゃないよ。でも、ミィにも家族がいるだろ?」
「いないよ」
「え?」
「私の村、悪い人たちに焼かれてたからもうないんだよ。だから、私のお父さんとお母さんとお兄ちゃんはきっともう……」
「……ミィ」
「お兄ちゃん、今調べてみたんだけど、ミィちゃんが言ってること本当だよ。ミィちゃんがいた村はとっくの昔に壊滅してる。今、ミィちゃんを元の世界に帰しても一人ぼっちになるだけだよ」
「他の村は?」
「ダメ。人型の生命体の反応がないからこの星はもう終わってる」
「そうか。よし、分かった。ミィ、お前は僕たちが一生面倒見るよ」
「本当! じゃあ、私ずっとここにいていいの?」
「ああ、もちろんだ」
「そっか。ありがとう、ごちゅじん様。私、ごちゅじん様のこと大好き!!」
「こら! ミィ! いつも言ってるだろ! いきなり抱きつくのは……うーん、まあ、今日くらいはいいか」
「お兄ちゃん、なんだかんだミィちゃんに甘々だよねー」
「そ、そんなことは……ない、とは言い切れないな」
「学校以外はずーっと一緒にいるもんねー」
「なっ! お前、なぜそれを!!」
「この家の警備システムは誰が作ったんでしたっけ?」
「あー! もうー! なんで僕の周りには変なのしかいないんだよー!!」
猫人族に限らず困っている人や動物がいたら助けてやってほしい。たとえ、その場限りの関係だったとしても君の記憶はきっと相手の心の中に残るから。