ヲタッキーズ130 ジャヌカルの日
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第130話「ジャヌカルの日」。さて、今回はラジカルが売りだった秋葉原D.A.大統領選の候補者が狙撃されます。
捜査線上にアンチ・スーパーヒロイン主義者が浮かぶ中、天才的なアルゴリズム解析により明らかになった狙撃犯の思いがけない素顔とは…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 超天才の長い手紙
超天才は、手紙を描いている。
"今は5月。私の目の前には、マルチバースに散らばる超天才達からの手紙がある。ハイタワー、ノックス、ニューベリー、ビーダーマン。アキバ工科大学の教官室に、異次元の超天才達は"リアルの裂け目"を通じて手紙を送って来た。今度は、私が手紙を描く番だ。顔も名前も知らない、異次元の超天才にメッセージを送る。君は誰?どんな難問に挑んでる?どんな解を求めてる?ソコは輝かしいキャリアの終着点?それとも、未だ君は若く、コレからがキャリアの頂点を迎えるの?君は、カオスを俯瞰し、パターンと傾向を読み解くタイプ?それとも、1歩ずつ、着実に解に歩み寄るタイプだろうか?"
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
奥アキバにある芳林パーク。
「え。ルイナ?未だ誰も暗殺されてナイけど」
「知ってる。でも、今宵の政治集会で演説スルVIPの警護ナンでしょ?狙撃犯の割り出しに"群衆流動ダイナミクス"と"被覆集合問題"が役に立つと思って」
「うーん何ソレ?美味しいの?」
ラギィ警部のスマホ画面の中でルイナは苦笑い。
「ダメか。学者仲間なら爆死級のジョークなんだけど」
「貴女の仲間は、お利口さんな学者だけじゃナイのょ」
「OK。で、誰の警護なの?」
ラギィ警部は、スマホに向かって声を顰める。
「ベンジ・ポーザ。秋葉原D.A.大統領候補」
「政治家の?」
「YES。ポーザファミリーの反逆娘。家や財産に背を向け、若くして、テロ紛いのラジカルな市民活動家になった。2020年の"異次元通商会議"を妨害した時は、秋葉原を内乱状態に陥れた」
ウンザリ顔のラギィに横槍を入れるメイド服女子はヲタッキーズの妖精担当エアリ。
「でも"シン東京湾台風"の時は、警察も見捨てた外神田の支援ボランティアに身を投じ、一躍、ヲタク界のヒロインに躍り出たわ」
「だ!か!ら!そのヒロインの警護で困ってルンじゃないの。世の中GWなのに頭痛の種だわ」
「確かに。摩天楼に囲まれたパークで警護とはね。狙撃ポイントはゴマンとある。そもそもパーク自体が出入り自由だし」
同じメイド服だが、ラギィに同情スルのはヲタッキーズのロケットガール、マリレ。
「そこで"群衆ダイナミクス"。車の走行制御に使うのと同じアルゴリズムょ。会場の群衆にも当てはまる。ねぇ"
被覆集合問題"を思い出して?」
アプリでつながってるルイナは主張スル。彼女は車椅子なので、現場に現れるコトはナイ。
「あ。刺網で飛魚を獲る奴だっけ?」
「違うわ。ブルートフォース何とかょね?」
「…暗い海に灯台を配置スル例え話が好評だったのに」
ルイナの"例え話"は余計にわからなくなるので有名だ…その時、高周波を伴う甲高い発射音!音波銃による狙撃だっ!
「伏せろ!」
「狙撃された!スナイパー?」
「みんな無事?」
随行の制服警官が無線で叫ぶ。
「芳林パーク、ステージ付近で狙撃あり!応援要請!」
「何か見える?」
「銃声は.308口径セミオート。恐らくM1 A1」
スマホの中の超天才から指示が飛ぶ。
「M1 A1の初速を教えて!」
「秒速853m」
「有効射程?」
「460m」
史上最年少で首相官邸の首席アドバイザーとなった超天才の頭脳がフル回転スル。
「発射音から弾着まで4分の1秒の遅れ。風は?」
「南南東。24m/sec。ルイナ、弾道の角度から恐らく左利き。身長は165cm以上…そして、恐らく女」
「OK。方程式が解けた。スナイパーは南西方向にあるビル4Fにいるわ!」
廃ビルだ。壁は剥がれ窓ガラスが割れている。
「マリレ、行くわょ!」
「ROG」
「ラギィ、援護射撃!」
ラギィ以下の警官隊が拳銃で一斉射撃!物陰からメイド姿の妖精とロケットガールが飛び上がる!空中をビルへ1直線!
「ヲタッキーズ!動くな!」
ガラスの割れた窓から飛び込む!剥き出しの鉄骨、崩れかけた壁。中はほとんど廃墟だ。
「スマホが鳴ってる」
壊れた扉の近くに、銃口がラッパ型に開いた望遠スコープ付き音波銃が立てかけてある。
その横に置かれたスマホが鳴動。
「ヲタッキーズ、やっとお出ましね」
「アンタ、誰?何の真似ょ?」
「警告ょ。ポーザを撃つ。邪魔しないで」
第2章 言論と狙撃の自由
母が大切にしている写真があった。私が生まれる前、父と旅行した時の写真。ある日、私はソレに落書きをした。母は怒ったが、父は気がついた。クレヨンで描かれた幼稚な長方形は、科学者としての美的センスが命ずるママに、ギリシャの黄金比をなぞって描かれていると。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
モニターの中で、金髪の煽動者が叫ぶ。
"政府の崩壊を人は認めない。そら恐ろしいからだ。あの連中は恥を知るべきだ。さぁ改革を始めよう。政府は国民を騙し、封じ込める。しかし、催涙ガスも棍棒も我々を潰せない。暴力には反対だ。断固抵抗する。だが、現実には衝突こそが、人々を目覚めさせる決定打となるのだ!"
「…我ながら青いわ。しかも、あんなに金髪が似合ってなかったナンて。で、犯人は狙撃後に貴女達を手玉に取って逃げた。マンマと逃げられた万世橋を代表して、捜査責任者のラギィ警部から一言どうぞ」
「明日からホンキ出します。でも、芳林パークでは貴女の安全を保証出来ない」
「私に演説会場を変えろと言うの?」
「貴女ご自身のためですょポーザ候補」
今は黒髪のポーザは、ラギィを正面から見据える。
万世橋に設置された捜査本部にポーザが来ている。
「ラギィ警部、本音で話そ?貴女、今回の狙撃騒ぎは全部、話題作りの自作自演だと思ってるでしょ?」
「まさか…やりかねない方だとは知ってますが」
「わかるわ。私、確かに若い頃はデモで暴れてた。でも、革命児って胡散臭いと気づいた。その日から私は変わった。過ちも犯したけど、永田町で生き延び、今では、みんなに人助けを説いている。ねぇ警察の仕事は命がけょ。命がけで働く個人は無条件で尊いと思う。私も祖国の為なら死んでも良いわ」
ラギィは、胡散臭げな視線ビームを浴びせる。
「あら。ラギィ、私の顔に何かついてる?」
「今のはスピーチの練習ですか?それとも婉曲なNo?」
「もちろんスピーチの練習ょ」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風にしたら居心地良くて常連が沈殿。回転率が落ちてメイド長はオカンムリだ。
「ラギィが狙撃犯の潜むビルに突っ込むのを躊躇ってたんだって?何か最近苦しそうだょね、彼女」
「別に出撃を躊躇ったワケでは…彼女はスーパーヒロインじゃナイし、空も飛べませんから。でも、もしかしたら前話で刺されたのが尾を引いてるのカモ」
「痛くても隠す人さ。前の職場じゃ"新橋鮫"とか呼ばれてたのに…年をとると人生に萌えなくなるのかな」
カウンター越しにミユリさんは微笑む。
「テリィ様もですか?」
「僕は…永遠の5才児だ。問題ナイ」
「テリィ様は良いTOです。嘘がすぐバレます」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ようやく?万世橋で捜査会議が始まる。
「あの廃ビルは素敵な狙撃ポイントね。後頭部をバッチリ狙える。警護も丸見えだわ」
「容疑者はアジアンな女性で20代から40代だって」
「指紋なし、プリペイドのスマホを使用。プロの仕業だわ」
ラギィ警部を挟んで頭をヒネるメイド2人。
「でも、そもそも狙撃のプロが警護に発砲スル?」
「そーょね。ターゲットの登場を待たズに撃ったら隠れてるコトがバレバレだし」
「もしかしたら、ヲタッキーズを挑発したのカモ。パワーに目覚めたスーパーヒロインへの嫉妬とか」
スーパーヒロイン同士の会話に割り込むラギィ。
「つまりアンチの仕業ってコト?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アキバに"リアルの裂け目"が開いて以来、腐女子が次々とパワーに目覚めスーパーヒロイン化する現象が続いている。
僕の推しミユリさんが変身する"ムーンライトセレナーダー"もそうだけど…彼女は突然変異?ソレとも新人類なのか?
僕は、ボール一杯のラズベリーを食べながらラボに入る。
「ルイナ、欧州原子核研究機構から連絡は?」
「マックスプランク研究所は、銀河に浮かぶ分子を観測してアミノ酸を探すのょ」
「ギ酸エチル?ラズベリーの香りのもとになる化学物質だ。銀河はラズベリーの香りに満ちてルンだね」
ルイナは微笑む。質問をはぐらかす気だw
「ねぇ欧州原子核研究機構から連絡はナシ?」
「うん。でも、ハドロン加速器が招いてくれると信じてる」
「ジュネーブからのお誘いは?」
ルイナは、微笑を崩さない。
「考えてみたわ…あら"非周期タイリング"の件でレイカ司令官がお呼びだわ。スピア、貴女も来る?」
「"低密度パリティ検査符号"を直さなきゃ。でも、今すぐ大声で叫びたい気分ょ」
「え。何を?」
スピアは、ルイナの相棒でハッカーだ。2人はいつも一緒。
「微かだけど聞こえた。クールな顔してルイナ、息を飲んだでしょ?貴女の恋物語は続くのね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
広告メジャーの"電波通"アキバ支社。
「べジィ・ポーザ?4代続いた政治家の家系ょ?お嬢に決まってる。そんな生い立ちだから一般人に媚びてネルシャツ姿で説教してルンでしょ?」
「警察と6年間も渡り合ってる。根性アルわ」
「で、結局今は何をしてるの?基金パーティーに学校づくりだけじゃない」
政界に詳しい電波通の支局長はニベもナイ。
「学校づくりは悪くナイ…彼女の言論を封じるキャンペーンでも打つの?」
エアリは、支局の壁に貼られたサイネージを見る。
"嘘つきを撃て"w
「あ、アレ?アレは、クライアントに言われて仕方なくょ。でも、相手も言論の自由を行使するから逆効果ょね…ところで、彼女は南秋葉原条約機構の情報源ナンだって?」
「初耳ょ?マジ?」
「またまたぁ…あのサイネージなら気にしないで。クライアントはわかってナイの。今、彼女を撃てば殉教者に祭り上げられる。人気に拍車がかかるだけなのにね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。捜査会議は続く。
「バリケードを下げると警備効果は最大、聴衆密度は最小に出来るわ」
「爆発物処理班を複数配置。万世橋SWATとSATO特殊部隊も投入。戦闘ドローンも飛ばしましょう」
「狙撃手はどこに配置スル?」
メイド服のエアリが提案スル。警護は警察の仕事だが"リアルの裂け目"案件は南秋葉原条約機構と合同になる。
今回スーパーヒロイン用の兵器が使用され合同案件となる。なお、ヲタッキーズはSATO傘下の民間軍事会社だ。
「最適な配置は車椅子のゴス姉さんに計算してもらいましょ。ソレより狙撃手に割いた人手が警備の隙になる。ソレが敵の狙いカモ」
「うーん何処まで狡猾で頭脳明晰なのw」
「ターゲットの狙撃そっちのけで私達を振り回して楽しんでる。逆に狙撃犯としてのモラルは低いわ。集会を待てば狙撃出来たのに失敗した。さらに、電話までして来るナンて。どーやら彼女なりのルールがアルようね」
呆れるラギィ警部。ココで飛び出すルイナの"例え話"。
「ねぇ!仮に囚人に処刑宣告が下るとスルわね。執行は来週だけど、囚人はその日を予想出来ナイ。木曜になると、金曜だと予想出来る。だから、金曜の執行はナシ。水曜になると残るは木曜だけなのでソレもナシ。その理屈で行くと水曜、火曜、月曜もナシ。つまり、執行は無い。ところが、処刑は必ず執行される。囚人が予想しない日にね。つまり、世の中では理屈に反したコトが起きるの。コレを"処刑のパラドックス"と言うの」
何を逝ってるのかワカラナイ。ラギィは溜め息w
「つまり、私達と犯人のルールはズレてるってコトね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アキバの大箱"ホテル24"で資金集めパーティが開かれる。
「告白します。確かに2年前の私は、拡声器で叫んでいた。このホテルのオードブルに毒を漏れと」
慣れたパーティジョークだ。会場には笑いが広がる。
「…豊かな者は、人の苦しみを理解出来ないと思っていた。もっと痛みを味わうべきだと。だが、豊かさが悪いワケではナイ。問題はソレがもたらす無関心です。東秋葉原のストリートでキッズが飢え、誠実な人々が逮捕されている…明日の夜、芳林パーク。希望の燈を手にお集まりください。秋葉原の信念により…」
その時、高周波を伴う甲高い発射音!音波銃の狙撃だっ!
「HEY!伏せて!」
演壇で棒立ちのポーザをルイナが引き倒す!
「狙撃された!全周警備!」
「警護は盾になれ!直ちに候補を移動させる!」
「ラッパ銃を持った女がキッチンに…」
悲鳴と絶叫の中をキッチンに逃げ込む人影。
追って飛び込むヲタッキーズの眼前で爆発w
「危ない!伏せて!」
「クリア!」
「Fire Cracker?爆竹だわ…」
破裂した燃えかすを摘むエアリ。フロアのスマホが鳴る。
「犯人からょ!GPSで追跡して…ハロー?」
「少しは用心スルと思ったけど、相変わらず甘い警備ね。スーパーヒロインは2人?妖精の貴女もヲタッキーズなの?たった2人か。ムーンライトセレナーダーは愛しのTOサマとデート中ね?私も軽く見られたモノだわ」
「誓って言うけど、深刻に受け止めてる。貴女は?」
瞬間、間が空く。
「…未だ名乗らないわ」
「そう。でも何と呼べば良いかしら?」
「さあ?貴女、この先、命がけの仕事になるわょ」
エアリは余裕だ。
「覚悟してる」
「ベジィ・ポーザを狙ってる者は多いわ」
「そう?じゃ撃てば自殺行為だと教えてあげて」
強気で推し込むルイナ。
「そ、そんな脅しが通じるとでも思ってるの?」
「コッチはホンキょ。喜んで死んであげる。他に言いたいコトは?あるなら手短かにお願い」
「…警告は2回した。3回目はホンキ出す」
通話は切れる。
第3章 3度目の正直あるいは仏の顔
科学と逝うモノは、極めて逝くと、運命に逆らう力が身に付くモノだ。つまり、真理を探究スルと逝うコトは、真理すらも変える術を見つけるコトと同義なのカモしれない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ホテルのキッチンは閉鎖、非常線が張られ鑑識が入る。
「爆竹はロケット発射装置と接続されており、リモート操作で空中に発射された模様」
「現時点での解析では、狙撃犯は、西インド系。パワーが覚醒したスーパーヒロインを敵視スル"人間主義者"の可能性アリ」
「ソレだけ?」
失望を隠せないラギィ警部。
「いいえ。恐らく犯人と思われる者の画像をゲット」
「マジ?デカした!鑑識エラい」
「いや、見つけたのはヲタッキーズで…」
捜査本部のモニターに犯行前、宴会の仕込みに奔走するコックさん達の画像が流れる。キッチンの防犯カメラのようだ。
「この女です。堂々と食材を配達に来てるw」
「彼女が配達のフリをして食材をしまったのはココとソコ。恐らく中身はロケット付きの爆竹でしょう」
「うーんカメラを上手く避けてる。イマイチ顔がワカラナイわ。何とかならない?」
その瞬間、本部の全モニターがハッキングされ、超天才ルイナの自信満々の"例え話"がスタートw
「任せて!例えば床屋さんのポールょ。カメラ越しに見ると、縞が左下から右上に動いてると錯覚する。でも、ソレは"窓枠錯視"。少し離れて全体を見てみると、ポールの回転が感じられるハズ。カメラで周りを回らない限り、運動学的に言うと、カメラを動かすのも物を動かすのも同じに見えるワケ。つまり、静止画をつなぎ合わせると、犯人の立体像が見えるってワケなの!」
例によって意味不明。しかし、ラギィは慣れたモノだ。
「OK、ルイナ。直ぐに作業にかかって」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラギィはテロを避け別室に隠れているポーザ候補を説得中。
「警護はしますが、集会の場所を変えてください」
「ベジィ・ポーザは、脅迫には屈しない」
「ジョークを1つ。洪水で屋根に逃げた男が救助のボートが来て、助けてくれると言われたが断った。ヘリが来ても神を待っているからと。そして溺れた。天国で愚痴ると神はボートもヘリも送ったぞって…」
「で、自分が神だと言いたいの?」
「いいえ。私達はボートの漕ぎ手です」
「相手が誰だろうが、どんな手を使おうが同じょ。私は私の神の声に従って屋根に残る」
次の演説会場へ向かうポーザに屈強男子が多数寄り添う。
「やれやれ。ボディガードをヤタラと増やしたわね」
「怯えてルンですょ。でも、確かに彼女は"助け合い"を説いてるだけだ。誰からも撃たれる筋合いはナイ」
「さぁて。どうかしら」
真実は、現場に眠る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
芳林パーク。僕は貧乏系インバウンドみたいに両手でキャスター付き巨大スーツケースをゴロゴロと推して…押してる。
「間違いなく犯人はパークを下見してると思うの」
「そりゃプロのスナイパーだからな。下見は必修科目でしょ。ソレで?」
「犯人は狙撃の場所を色々と探してる。そして、脅しを実行する気なら…」
例によって、ラボに陣取る車椅子のルイナは、スマホの小さな窓から僕と逝うシモベの行動を監視中。お茶も出来ないw
「あのさ。スナイパーは狙撃に絶好のポジションをとる。ソンなコト、アルゴリズム抜きでもワカルけど。で、ルイナは何から彼女のポジションを導く気だい?」
「測量からょ。だから、テリィたんにお願いしてルンじゃナイ?」
「測量?国土地理院の立派な精密地図がアルょ?お好みで江戸時代の古地図もチョイス可だ」
小さく首を振る車椅子の美少女。
「両方とも要らないわ…ところで、テリィたんは口は固い?」
「おいおい。僕は"プロジェクト・タカマガハラ"のダブルエージェントだぜ?ルイナの機密保持レベルなら僕の作戦行動は御存知のハズ」
「実は私…」
マズい展開だ。先手を打つ←
「パスだ」
「え。パス?」
「うん。パスだ」
僕は3D測量を始め、超天才は口を尖らせる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラボ。ルイナは口を尖らせたママ、相棒のスピアに問う。
「ねぇ質問があるの」
「個人的な話?恋愛相談は嫌ょ」
「事件の話ょ」
ルイナの口は、ますますトンガる←
「狙撃犯は、SATOの警備の甘さを指摘したがるけど、実に馬鹿げた行動だわ」
「意義ナシ。だから?」
「一方、狙撃犯には身元を隠し通す知性がある。サイコパスかしら。自分よりも強そうな相手に不正規戦を仕掛けてるのカモ。ところで、最近のテリィたん…」
スピアのPCがBEEP。
「狙撃犯のプロフィール解析結果が出たわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「ジャヌ・ガール」
「え?じゃんがらラーメン?電気街にある方?それとも駅構内の方かしら。私は電気街派」←
「警部。ジャヌ・ガールは狙撃犯の名前です。高校教師。逮捕歴ナシ。ただし、2017〜2020年に捜査対象になってます。"人間FIRST"の爆弾テロの捜査線上に浮かびましたが、結果はシロ」
「医師と教師ってホント革命が好きね。しかし、ジャヌってフランス系?ポーザとの関連は?」
「アルゴリズム上は確認出来ないとパツキン姉さんが言ってました。ただし、記録通りなら、友人の検挙に怖じ気づき、地味な暮らしに戻った、教師は続けましたが独身で家族は無しのとのコトです」
ルイナの解析に拠り狙撃犯のプロフィールが明らかになる。
関係スル調書類や記録も集まりプロファイリングが始まる。
「その地味な彼女が3週間の無断欠勤か…所轄に詳しく捜査スルように言って…エアリ、ミユリ姉様には?」
「まだ伏せておくわ」
「…エアリ。貴女、ミユリ姉様の心配をするフリして、実は楽しんでる?」
メイド服の妖精はチョロリと舌を出す。
「あら?バレました?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤードをスチームパンクにしたら居心地良くて常連が沈殿、回転率は急降下でメイド長はオカンムリだw
「ミユリ姉様、私とテリィたんは、芳林パークの3D狙撃マップを作成したのょ!音波銃による狙撃に適した場所はすべてマーキングした。全12カ所のどこからでも狙撃はあり得る。今、ヲタッキーズがシラミ潰しに当たってくれてるの。モチロン、前回の狙撃ポイントも網羅したわ」
ラボからリモート吞み中のルイナは鼻息荒い。
カウンターの中のミユリさんは大きく溜め息。
「アルゴリズムで狙撃犯まで割り出したの?ルイナは頑張ってるね。私も、狙撃犯から、お座敷がかかったみたいだし、そろそろ現場に出ようかな」
「…姉様は今回はパスしたら?私とテリィたんのコンビで何とかナルわ。ね、テリィたん?」
「え。あ、聞いてなかった。実は、いつかの"死刑囚のジレンマ"が気になってルンだけど」
モニターの中でナゼか大慌ての超天才。
「あ。アレ?よく考えてみたら特に関係なかったわ」←
「いやヒントになってる。漠然とだけど」
「おかえりなさいませ、お嬢様…あら、ラギィ?」
今宵も眠らない捜査本部から一息入れたくて?ラギィが御帰宅スル。御屋敷の流儀に従いミニスカポリスのコスプレだ。
前の職場では"新橋鮫"と呼ばれた彼女だが。
「ラギィ、大丈夫か?未だ痛みが残ってるとか」
「テリィたんまで。風評被害ょ。私だって生身の女子。空は飛べないのょ。ちゃんと援護射撃したでしょ?」
「いつもより動きが遅かったって、みんなが…刺されて死にかけたんだ。仕事復帰が早過ぎルンじゃナイか?」
ラギィは自分に言い聞かせるように話す。
「銃槍、火傷、骨折。今までいろんな傷を見てきたわ。生身の人間ってモロい。パワーに覚醒したスーパーヒロインにとっては他人事でしょうけど、私もみんなと同じ血と肉の塊なのょ」
「ラギィ。そう考えたら1歩も動けないょ」
「でも、動かなきゃ。大丈夫ょテリィたん」
ミニスカポリスは僕の肩に手を置く。
「ただ、前より少し慎重になっただけ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ルイナ(と僕w)が割り出した"狙撃ポイントリスト"に従って、1件ずつ現場をシラミ潰しに調べてるエアリとマリレ。
「私、もう政治の話はしないと決めたわ」
「過激派が別の過激派にお仕置きスル事とかあるんだって。彼等の業界にもモラルがあるのね」
「あぁスッカリ暗くなっちゃった。リストの7番目ょ。3階南向きの窓」
路面のシャッターを開けて廃ビルの中に入るメイド2人。
「選挙に出たら私に投票してね」
「うん。でも、何の選挙?」
「投票してくれないの?」
ライトを手に奥へ進むメイド達。エアリが立ち止まる。
「階段だわ」
「今日7番目の階段ね」
「上に上がる階段にはホコリが。最近誰も上がってない。でも、地下に下りる階段には…」
ライトの中のホコリの上には複数の足跡w
「怪しい匂いがプンプンするわ」
音波銃を抜き、ライトで照らしながら地下に降りる。
「動くな!」
背後から声が飛ぶ。ヲタッキーズは振り向けない。
「お願い。必死に発砲を控えてるの。貴女達はSATOね?」
「そうょ。貴女は、ジャヌ・ガール?」
「私を知ってるの?…"人間FIRST"ね?私は、あの組織からは、とっくに身を引いてる。なぜ私を追うの?」
狙撃スルからょ!エアリとマリレは心の中で異口同音w
「あの女が悪いのょ。あの女は口先だけ。例えば、2020年の"外神田動乱"。あの女は、自分は煽るだけ煽って、呼びかけに応じて立ち上がった者達は見殺し。使い捨てにして自分だけが政治的な名声を得た。あの動乱で誰が犠牲になったと思う?どうなの?貴女達は、あの女が今ココにいてもかばうの?答えて!」
「…ソレが私達の仕事だから」
「あんな女のために命を張らないで。私、警告したから。コレで3度目ょ。仏の顔もサンドイッチょ」←
ヲタッキーズの背中に向けられた突撃銃型の音波銃。
メイド服の背中を這う照準の赤いレーザーポイントw
「ヤメて。貴女の希望を理解したい。だから言って。1つで良いから理由を教えて」
指1本立てマリレに目配せするエアリ。
「あ。やっぱり理由は2つ、教えて欲しいな」
指2本立てるエアリ。うなずくマリレ。
「理由を教えて…3!」
3本指を立てた瞬間、エアリとマリレは同時に振り向き音波銃を乱射!直ちに突撃銃も応射して激しい撃ち合いとなる。
「ガス?サイキック抑制蒸気だわ!しまった…」
木製の柄がついたM-24型手榴弾が投げ込まれ、白い蒸気が噴き出て、スーパーヒロイン達のパワーを奪うw
突撃銃を乱射しながら、地上へと走る人影。咳き込みながらも人影を追い、地上へと駆け上るヲタッキーズ!
しかし、深夜の裏アキバに人影はナイ。
第4章 黒い車列と偽りの集会
今宵も捜査本部は眠らない。
「ラギィ警部。爆発物処理班の報告によると、起爆装置は爆竹より大掛かりな装置だったそうで」
「ジャヌ・ガールは狙撃犯でしょ?ソレとも爆弾魔なの?」
「両方ですね。あと彼女はシングルマザーでリチドと言う息子がいて…2020年の"異次元通商会議"への抗議デモ、通称"外神田動乱"で死亡してます。で、その動乱の主導者は…」
ムーンライトセレナーダーが割り込む。
「ベジィ・ポーザ秋葉原D.A.大統領候補?」
「YES, ma'am。ソレもウルトララジカルな"元祖ポーザ"だった頃です。現場で逮捕者が出て6人が死亡」←
「6人?息子のリチドは?」
当時の資料を見て刑事が答える。
「7人目の死者です。逮捕された4日後、獄中で仲間同士の抗争に巻き込まれて死亡」
「ソレでジャヌはポーザに恨みを抱いてた?」
「YES, 警部。当時も真っ先に自作自演を疑われたポーザは記者会見を開き、直ちに金髪も黒に染め直し、仲間のラジカルな行き過ぎを非難、以来メディア受けを意識した"過激過ぎない手頃な過激派"ポーザへと進化、今のポジションをゲット、今日に至る」
ムーンライトセレナーダー&ラギィは異口同音。
「ポーザを連れて来て!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラボのギャレーでミニトマトを食べながらボンヤリしてたら車椅子のルイナがやって来る。
「テリィたん。新しいダイエット?」
「宇宙の香りで脳を鍛えてるのさ」
「あ。ギ酸エチルね?どんな発想が得られそう?」
ルイナは、僕のボールからミニトマトを1つ摘む。
「この場にはえも言われぬ異様なスリルが存在スル。神の降臨を待つ興奮だね。鼻がムズムズして知性のくしゃみが出そうだ。ルイナは最近どう?」
「ラギィのお仕事は終わったけど、未だバタバタしてる。"オプティカルフローの付与"が間に合わないわ。ねぇラズベリーの種って"フィナボッチ数列"なの。ウフフ」
「(何言ってンのかワカンナイやw)僕とミユリさんの関係に興味がアル?」
単刀直入に切り込んでつもりだが、思いがけナイ反応が…
「テリィたんの今までの傾向と年齢とキャリア、付随する"社会的重圧"を考えると、何か新たなステップが訪れたようね。そして、私のアルゴリズム上では、テリィたんとミユリ姉様は2人とも新たなステップへの心の準備が出来ていないわ。でも、今はそっとしておいてア・ゲ・ル」
違うンだルイナ。社会的じゃなくて"会社的"重圧ナンだw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日。捜査本部に"出頭"するポーザ。
「リチド・カール。私の息子ょ。2020年の"外神田動乱"のデモで死亡した。全ては"異次元通商会議"を潰すためだった。でも、何もかもが裏目に出た。デイケアセンターを作り、ホームレスを支援した。ソレなのに警察沙汰ょ」
「厄年だったわね。あの年の出来事は何もかもが貴女の手に余った」
「そうね。でも、理由なく活動を止めたら、やっぱり金持ちお嬢のお遊びだったと思われる。でも、犠牲者が出たお陰で、やっとラジカルな活動家のイメージを捨てる口実が出来た。しかも、私自身はファイティングポーズを取り続けたママでいられた。あぁこの画像w」
ラギィが"金髪時代"の動画を流す。"元祖ジャヌ"が拡声器片手に吠える。"催涙ガスや棍棒では我々を潰せない!"
「この5秒後、手製爆弾がデパートに投げ込まれた。まるで貴女が合図したかのように」
「首相暗殺とは違うわ。変な陰謀論はヤメて」
「7人が死んだのょ」
詰め寄るラギィ。
「悲劇ょ。でも、ソレで確実に世界は良くなり、大勢の命が救われたの」
「…今からでも、今宵の集会は中止に出来るわ」
「あと8時間ょ?たかだか200人の警官で1万人を追い返すつもり?きっと、あの金髪女が喜ぶわ」
モニターの中で吠える昔の自分を指差す。
「警察およびSATOを正式に非難します。貴女達の上司と話す気は無い。首相官邸ともね。残念だけど」
「…貴女の昨日の戯言はホンキだった?」
「ムーンライトセレナーダー、いつも私はホンキょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アキバのホットドッグステーション"マチガイダサンドウィッチズ"。
「テリィたん。次は御馳走おごってね!」
「エアリ、マチガイダのチリドッグはアキバで最高の御馳走なんだぜ?」
「確かに。"セブンおデブン"のホットドッグが不味くなったからね。ソレに私、すぐ戻らなきゃだし」
メイド服のエアリはドッグを頬張る。
「忙しい時に悪いけど、様子はどうかな?」
「ミユリ姉様ならお元気ょ。何で?」
「ミユリさんじゃない。エアリだょ」
あら?って顔のエアリ。萌え。
「私?昇進で責任が増えたけど弱音は吐けないわ」
「愚痴ならいつでも聞くけど」
「ありがとう、テリィたん、感謝ょ。では質問しても?」
身を乗り出して来る。タワワな胸の谷間が…
「な、何なりと」
「息子の視点でぜひ教えて。テリィたんも誰かの息子でしょ?」
「そりゃそーだけど難問はお断りだな」
エアリは得意技の上目遣いで男心をくすぐる←
「テリィたんが殺され、その犯人が野放しなら、お母様は犯人を告発スルかな?」
「当然スルでしょ。心のけじめをつけないと」
「例えば、2年越しで殺害計画を練っちゃったり?」
僕は、細心の注意を払って撤収準備←
「ソレは答えられないな」
「なぜ?」
「母は殺人者じゃナイからだ。怒りに任せたら、その時点で僕の母ではなくなる」
うなずくエアリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
日没。芳林パークに向かう黒い車列は、全車が赤や青の回転灯を派手に回転させている。上空には護衛の戦闘ドローン。
「コチら先導車07。間も無く妻恋坂交差点に侵入。全車警戒せょ」
曲がり角は車列襲撃のお約束だ。車列前後の装甲戦闘車両が銃塔を交差点の曲がり角に向ける。
車列が通過スル蔵前橋通りの沿道には、ポーザのアンチが大勢詰め掛け、拳を振りあげている。
彼等を狙うような銃塔の動きに悲鳴が起きプラカードが揺れる。
「やれやれ。またエピソードが増えるわね」
「失敗して思いやりに目覚める…そういう話、私は好きだけどな」
「見て。見渡す限りファンだらけょ」
沿道からは物が投げ込まれ、抗議の声が上がる。
一方、ソレを横目に見ながらポーザはラギィに…
「時としてリーダーには、魂を売るコトも、小さな犠牲と引き換えに大きな成果をゲットするコトも求められる。そして、ソレを求められた時、リーダーには迷わズ犠牲を払う覚悟をスル必要がアル。コレは歴史の教訓。ねぇそうは思わない?ラギィ警部」
「歴史は赤点だったから。ソレに私は魂は売らないわ」
「ラギィ。貴女に政治家は無理ね」
ポーザを乗せた車を含む黒い車列は妻恋坂に進入、次々と左折し芳林パークに向かう。全車、無事に左折。緊張が緩む…
「あら?沿道のゴミ箱は撤去したハズょね?」
「アレは消火栓?レトロだわ」
「爆弾よっ!」
突然、ゴミ箱が爆発する。沿道に並ぶゴミ箱が次々と爆発。
派手な火柱が上がり、沿道の野次馬が逃げ惑う!大惨事だw
「危ない!」
「ダメ!止まらないで!」
「車列を止めるな!全車、走り抜け!」
先導車のフロントガラスに吹き飛んだドラム缶が激突!
蜘蛛の巣状にヒビが入るがブレーキ踏まズ、アクセル←
「派手な爆発だけど、音と光だけょ!モノホンの爆弾テロじゃナイわ」
「先導車07から車列全車!集会は中止。シークレットポイントWに移動。繰り返す、Wに戻れ!」
「ダメょ!ソレでは奴等の思う壺だわ!」
ポーザの叫び声が無線に割り込む。
しかし、エアリも後には引かない。
「候補。残念ですが…今日はジャヌ・カールの日です」
悲鳴、絶叫、焔の中、車列は次々Uターンw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ルイナのラボ。
「集会は中止になるわ。ソレはゲーム理論のシナリオで分析済みだった」
「マジかょ。それで?」
「アルゴリズムでは筋の通らない部分。ソコに作戦のラストホープがアル」
last hope?
「つまり?」
「不完全情報ゲーム。ドミノと同じ」
「しかも、目に見えるのは自分のコマだけ?」
ルイナの話は続く。
「でも、そう見せておいて、実は敵の脆弱性を突いてるの。"死刑囚のパラドックス"は、そもそも問の立て方が不完全なのね」
「…だと思った。死刑宣告を聞いた囚人は、理詰めで考えたりしないモノな」
「狙撃犯の脆弱性を暴く旅だった。そして、私達は対策を立てた。彼女が語った言葉のお陰で、警備のセキュリティホールを穴埋めするコトが出来た」
ルイナの結論。
「ジャッカルの日は集会じゃなかった」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜の摩天楼。吹きさらしの屋上。カモフラージュネットを被ったスナイパーが息を潜めている。
彼女が覗く照準スコープの十字線上にべジィ・ポーザが現れる。スナイパーにとり最高の瞬間。
狙いを定め、引金に指をかける。
「音波銃を下ろして。ジャヌ・カール」
ジャヌ・カールは、青い光点がいくつか胸の辺りで揺れているコトに気がつく。既にジャッカルは追い詰められている。
「あの女に囮になれと言ったの?」
「まさか」
「そう。人が悪いのね」
穏やかな声が、彼女の逃げ道を塞いで逝く。
「自分の息子をヒーローにしたい母親の気持ちはワカルわ。でも。ソレでもダメ。引き金は引かせない」
次の瞬間、ポーザは照準スコープの中から消える。
高層タワーのバルコニーで通話を終え室内に入るw
「蔵前橋重刑務所で面会した時、息子は待ってたの。2日後の保釈をね。でも、逮捕者が多くて手続きに時間がかかった。そして、息子はポーザに利用された。あれから2年」
「音波銃を下ろして。話を聞くわ」
「ほらソレょ。決まり文句。まるで幽霊が喋ってるみたい。誰かに言わされてるの?貴女は何者?」
ゆっくり振り向く。メイド服にレオタード。ムーンライトセレナーダーが必殺技"雷キネシス"のポーズをキメている。
「貴女は、息子を失ったシングルマザー。だから、冷静でいたいハズ」
「ムーンライトセレナーダー。息子には全部を話したの。私が何をしてきたかを。大切なのは信念だと言い聞かせたわ」
「2020年にお仲間が逮捕されても、貴女は逮捕を免れた。その理由を考えて。わかるでしょ?貴女は殺人犯じゃナイ」
微笑みながら首を振るシングルマザー。
「いいえ。私は息子を殺したわ」
低出力の"雷キネシス"の光点が微かに揺らぐ。
「あのね、ムーンライトセレナーダー。私は、息子を守ってやれなかった。でも、誰もソレを気にしない。私以外の誰もょ!」
「私達が気にしてる。頼むから。音波銃を下ろして、コチラの世界に戻って来て。お願いょ」
「ごめんなさい」
狙撃銃を腰溜めに持って振り返るジャッカル。
狙撃銃の一斉射撃を満身に浴びて崩れ落ちる。
「SWAT狙撃チームから本部。救命要請!」
「ジャヌ、しっかりして!直ぐに救急車が来るわ!」
「…私の息子を忘れないで…息子の言葉を忘れないで…」
瞳から輝きが消えて逝く。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ハイタワー。ノックス。ニューベリー。人名は、その人自身を飲み込んでしまう。その考えも、一生の偉業も、名前の中に略されてしまう。でも、大切なのは名前ではナイ。何者として、その日その時その場所にいたか、というコトなのだ…
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
僕とミユリさんは手をつないで御帰宅←
「みんな、お知らせだょ!」
「私、テリィ様の"推し"になったの!」
「え。今さら何?」
常連達は塩反応だw
「あのね。私の次元では、男子が女子の両親に申し込むのが伝統なの」
「え。ミユリ姉様って異次元人だったっけ?テリィたんは、姉様の御両親に会ったの?」
「そーは逝ってナイ。でも、僕は"リアルの裂け目"の向こうと次元スマホで4日も掛け合った。今まで色々はぐらかしてゴメンな。でも、やっと解禁だ。何度もぽろっと漏らしかけて苦労したけど、上手く秘密に出来た」
ヤタラ物知り顔の常連達がもったいぶって盃を上げる。
「おめでとう。今宵は良い酒だ」
「…もしかして、知ってた?」
「姉様のパパとママがコッソリ教えてくれた」
ミニスカポリスのコスプレでラギィが割り込む。
「そもそも職業柄、私はわかってたわ」
「ウソ。私が話した」
「あ。こらバラすな。逮捕しちゃうぞ」
爆笑の中で向き合う僕とミユリさん。
「ミユリさん。今日から君は僕の推し」
「そして、テリィ様。貴方が私の最後のTO」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕は何者?僕がアキバに残すのは、萌えの残像と消えたサイリウムだけ?それとも、描き殴った文章の断片が、僕が見た世界を映し出すだろうか。残像のように。
ヲタクが、ヲタ活の中で出逢った真実は"萌え"ににじむだろうか?僕の足跡はどうなる?ずっと残る?それとも、アキバという海の底に沈んでしまうのだろうか?
僕は、推しの人生にどんな足跡を残すのだろう。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"狙撃犯"をテーマに、ラジカルを売り物にしながら実は大衆に迎合する政治活動家、その活動家のために最愛の息子を奪われたシングルマザー、彼女達の血塗られた関係をアルゴリズム解析で追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズに敏腕警部などが登場しました。
さらに、宿命を背負う超天才の苦悩、推しとヲタクの関係のその先などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、WHOがコロナ緊急宣言を終了したばかりの秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。