最後のお茶会
最終話です。
よろしくお願いします。
読みやすいように少し直しました。
「これはまた…香りのいい紅茶だね」
「はい。ローズが取り寄せてくれたんです。彼女の持つ農園から、特別に」
「それはそれは!うちにも取引して欲しいくらいだね」
「マドレーヌ様専用に作らせてるので、他へ出荷はいたしません」
今日は、リコリスがドボルドー侯爵家にお忍びで、遊びに来ている。
マドレーヌを魔王から取り戻してから、一年が過ぎた。
夫人の出産もあり、体調も落ち着いてきてから、お茶会に招待された。
今は居心地のいい応接間で、3人でお茶を飲んでいる。
庭には季節の花が咲き乱れて、いい香りが室内まで漂っていた。
リコリスは髭を伸ばし、長い銀髪を下ろして年齢不詳の姿に戻っていた。
…というのは、訪れた時にマドレーヌがリコリスだと分かってくれなかったからだ。
マドレーヌは、天使のように美しい青年の姿を、リコリスと信じなかった。
何回言っても、からかわれてると思って、長髭のリコリスを探し続けた。
ローズは、明後日の方向を向いて笑っていた。
仕方なく、姿変えの魔法で年齢不詳の校長の姿に戻したのだ。
夫のカヌレ至上主義の色眼鏡をかけた彼女には、リコリスの美貌は効かなかった。
(大概の人間は、自分に気に入られたくて目の色を変えてくるものだが。無邪気というか無知というか、危なっかしいというか…。だからこそ、嘘がない。心から感謝して慕ってくれるのが分かる。悪鬼も真っ青になる国政に関わっていると、1人くらい無邪気に慕ってくれる人がいてもいいものだ…)
リコリスは、暖かい気持ちになった。
彼は、マドレーヌから心からの感謝と賛辞を受けて、とても機嫌がいい。
「リコリス校長先生、あの…、これよかったら受け取ってください。健康と安全と成功を表す文様なんです。心を込めて、一生懸命刺繍しました」
「それはそれは、嬉しいね。大事にするよ。ありがとう」
リコリスは、マドレーヌ夫人から感謝のハンカチを受け取った。
続いてローズも、リコリスにハンカチを差し出した。
「私がありったけの魔力を込めて『人を思いやる心を持つ魔法陣』を縫い付けたハンカチです。どうぞ」
「新種の呪いかね…?」
リコリスはローズのハンカチも受け取った。
マドレーヌから見ると、2人は話のウマがあって、とても仲良しに見える。
2人にそういうと、絶対に否定されるのだ。
摩訶不思議である。
リコリスに引き取られた魔王は、現在王立学園の教員をやっていると教えてくれた。
お給料や有給休暇も与えられ、休みの日には、生徒達と街でスイーツを楽しんでいるらしい。
最初は怒りまくっていたが、聖魔の力を持つ生徒に「魔王先生、魔王先生」と声をかけられるうちに、馴染んでいったらしい。
夫人救出に尽力した騎士団長と副騎士団長は、教会務めに転職したそうだ。
己が奪ってきた命の為に、祈っているという。
団長達の家族は、急な転職に生活が困窮した。
カヌレ達が証言して、仕事中の怪我扱いになり、手当をもらい立て直してるそうだ。
マドレーヌを魔の森へ飛ばした聖女は、聖女の職をクビになった後、行方不明になった。
それ以上のことは、マドレーヌは教えてもらえなかった。
モブエーは、聖女を尋問して調書をとって国のトップに提出した。
それによると、元聖女は嫌なことを我慢して、皇太子妃になれるよう努力してきたのに報われなかったとある。
人は、努力しても報われないと人を恨むという。
皇太子夫妻に大切にされて、イケメンの夫にも溺愛され、平民のモブエーや孤児院の子ども達に愛されるマドレーヌ夫人を聖女は恨んだ。
夫人を潰してやろうと犯行におよんだのだ。
モブエーは、元聖女になった女性の額に、彼女の罪を魔法で刻み込んだ。
文字が読めない人でも彼女の罪が分かるようにした。
そして、元聖女を調書とともに役人に渡した。
その後、元聖女は行方不明になった。
お茶会をしている応接間の奥には、赤ちゃん達がすやすやと眠っている。
マドレーヌから生まれたのは、男女の双子。
体の弱いマドレーヌは、何度も体調を崩しては寝込み、出産した。
ローズとマドレーヌは、すっと立ち上がり、リコリスを応接間の奥にあるベビーベッドへ案内する。
「この子達が、カヌレと私の赤ちゃんです。可愛いでしょう?この子達が生まれたのは校長先生達のおかげです。感謝してもしきれません」
「もう立派な母親だね。マドレーヌ夫人。どれどれ……………!?」
リコリスはローズの手を取って、その場を離れた。
マドレーヌに聞こえないように、小声でローズに話しかける。
「あの赤ちゃん達、大賢者と大聖女の転生じゃないか!知ってたよね?ローズ君!」
「はい。ですから、あの子達にリコリス様の祝福が欲しくてお呼びしました」
「夫妻は知っているのかね?」
「お話しましたが、あまり気にならないようです。愛情こめて大切に育てるだけだと」
「気にしようよ…。まあ君がいるなら大丈夫かな。でもねぇ、うちに戻ってこないかい?ローズ君。侍女は勿体無いよ」
「いいですよ」
「え!?いいの!」
「はい。マドレーヌ様よりも面白い世界を私に見せてくれるなら」
「……………」
リコリスは考えた。
ローズの言っていることは、マドレーヌ夫人が最悪なことも最善なことも引き寄せてしまうことだろう。
ありえない確率で、彼女は酷い目にあい、かつ愛され守られてきた。
リコリスは、マドレーヌをじっと見つめた。
マドレーヌ夫人は、よく分かっていないが微笑んでいる。
「…降参だよ。天然でいろんなものを引き寄せてしまう彼女といる世界は、面白いかい?」
「とても。きっとこれからも、とんでもないものを引き寄せますよ」
ローズが楽しそうに笑う。
リコリスは、目を見開いてローズを見つめた。
いつも苦虫を噛み潰したような表情の彼女が、笑っている。
とてつもなく優秀だが、クセが強く、興味を持ったことにしか動かない彼女が。
ローズはマドレーヌといる方が幸せだろう。
そして、予想外の成果をこれから見せてくれるだろう。
それに、あの双子。
欲しい!!…どうせなら慕われたい。
それなら校長を続けて、学園に入ってもらって可愛がるのがベストだ。
「ローズ君。あの子達が大きくなったら、うちの学園へ入れるよね?」
「ええ。悔しいですが、あそこは最高の教育機関ですから」
王立学園はリコリスが兄の王にお願い(脅迫?)して、世界トップレベルの教育と設備を有している。
リコリスは考えた。
兄上には元気に国政をやっていただこう!帰ったら、秘術を駆使して健康になっていただき、髪もフサフサにしてあげよう!ワシはなんていい弟だろう!!
リコリスによって、健康を取り戻し髪もフサフサになった王は、大変喜んだ。
しかし、急にフサフサになった王は国民にヅラ疑惑を持たれる。それはもう少し後のお話である。
リコリスは、赤ちゃん達が悪しきものを近づけず元気に成長するように、最上の祝福をおくった。
彼が帰る時間が近づいてきた。
「君と静かに語り合うお茶会は、これで最後かな」
「そうですね。これからは賑やかになりますよ」
赤ちゃんが大きくなり、モブエー達も訪ねてきて、ローズ大好き教頭も来たがるだろう。
カヌレ君もヤキモチを焼いて、乱入してきそうだ。
マドレーヌに懐いている小さな聖獣も大きくなる。
皇太子夫妻に子供が出来たら、その子もこの家に遊びに来そうだ。
リコリスは満足した。
きっともっと面白いことが起こる。また来よう。
リコリスは優雅に、ローズとマドレーヌに別れの挨拶と再会の約束を交わす。
そして、静かに転移魔法で帰ったのだった。
(Fin)
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけたら、広告の下にある【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】で評価してもらえると嬉しいです。執筆の励みになります。