あと10分
よろしくお願いします。
読みやすいように少し直しました。
リコリスは魔王の正面に立った。
魔王に告げる。
「君はワシのものだよ」
魔王は驚愕した。
こんな事を言い出す人間には、会ったことがなかったからだ。
しかも、愛の告白でもするかのように甘い声だ。
「狂っているのか!?」
「だってそこにいるローズ君が、いくらこき使っても魔力切れしない下僕として、君をワシにくれるって」
「なんだと!?ふざけるな!!おまえも!そこの女も!皆殺しだ!!」
魔王の体が脹れ上がり、筋肉隆々の大男になった。
全身に魔力を漲らせ、リコリスを殴りつける。
当たれば、体が粉々になる勢いだ。
リコリスはヒラリと避けた。
拳が地面に叩きつけられて、大穴が空いた。
「やれやれ。肉体労働は好きじゃない。君と同じように魂を傷つけようかな。呪印を魂に刻めば、ワシのいい下僕になるだろう」
リコリスはニヤッと嬉しそうに笑った。しかも歌い出した。
「下僕♪下僕♪踏んでも壊れない♪」
魔王とリコリスが中庭で大暴れしている間、ローズ達はマドレーヌを必死に治療していた。
カヌレとモブエーは、泣きながらマドレーヌへ呼びかけている。
「マドレーヌ!しっかり!俺はここにいる!置いていかないでくれ!!」
「ローズ様、他に治療法はないんですか!?マドレーヌ様!いかないでください!」
「治療法はあります!でも…マドレーヌ様の許可がいります。魂へアクセスして、毒を中和して取り出すものです。とても繊細な技ですから…」
それを聞いたカヌレとモブエーは、マドレーヌに懇願した。
「死なないでください!お願いです!」
「治療を受けてください!マドレーヌ様!」
「うん…お願いします…ローズ…あり…がとう…」
人は亡くなる時、最後まで聴力が残るという。
マドレーヌは2人の呼びかけを確かに聞いて、そう答えて意識を失った。
ローズはマドレーヌの体に手を当てて、真剣な表情を浮かべ、治療を始めた。
カヌレとローズは、無言でそれを見守る。
しばらくすると、マドレーヌの体から黒い水滴のようなものが浮かび上がった。
ローズはニッコリと笑った。
そしてその黒い水滴を、そっと手で包む。
「ふふふ…」
マドレーヌの表情が穏やかになり、呼吸も落ちついてきた。
カヌレは、ローズからマドレーヌの受け取って抱きしめた。
モブエーは号泣している。
間に合ったのだ。ギリギリのところで、マドレーヌを助けることが出来たのだ。
「よかった…!家へ帰りましょう、マドレーヌ…」
「本当に本当によがったでず〜…」
「おめでとう!ローズ君!やっと手に入れたね!」
「ええ…。長かったです」
リコリスが中庭から、王座の間へ入ってきた。
壁はボロボロに崩れ、リコリスに殴りとばされた魔王が崩れた壁に埋もれている。
リコリスは満足げに、慈愛に満ちた笑顔になった。
教え子達を救い、ローズ君の長年の夢が叶ったのを見届けられたのだ。
自分が助けに来た甲斐があった。
ローズは、嬉しくてたまらなかった。
ずっと欲しかったものが、手に入ったのだ。
喉から手が出るほど欲しかった、レアなこれが。
頑固なマドレーヌは、自分の魂に蓄積された毒を、他の誰かに背負わせようとしなかった。
何度声をかけても、自分1人で耐えていた。
愛するカヌレやモブエーの嘆きに、やっとローズに治療を任せてくれた。
確かに、扱いは酷く難しく危険なものだ。
しかしローズには、扱える自信があった。
「浄化しても浄化してもしきれなかった呪いの毒!どこまでも純化した、世界でただ一つの毒!神々でも瞬殺できそうな…!」
その時、壁に埋もれていた魔王が起き上がり逃げ出した。
ローズは転移魔法で飛んで、魔王の先回りをする。
右手には魔力で作った魔力剣、左手には黒い呪毒から作り出した剣を握りしめている。
「…魔王様、申し訳ありませんが狩らせていただきます。あなた様を差出さないと、私、そこの男に狩られかねませんので。
それに…どれくらいの威力なのか、試してみたくなるのが研究者のさがといいますか…」
ローズは、魔王が勇者の一族にかけた呪いの研究をしている。
だから、呪いを引き受けさせられていたマドレーヌの侍女にになったのだ。
より身近でお世話し、観察・研究するために。
魔王は、かつて自分が出した呪いの毒を受け、ボコボコにされてリコリスに突き出された。
ボロボロの魔王を突き出されて、リコリスはちょっとイヤな顔をしたが受け取った。
リコリスは、魔王の魂にしっかりと下僕の呪印を刻み込んだ。
ローズは魔王に優しく声をかける。
「魔王様。あなた様の最大の不幸は、あの男と同じ時代に復活されたことです」
「怖い…怖い…生きてる人間が1番怖い…アンデッドなら操れるのに…」
「あの男がアンデッドになったら、きっともっと厄介でしょうね」
ガクガクブルブルと震える魔王を尻目に、ローズ達はリコリスと別れた。
リコリスもマドレーヌの状態を見て、しっかり養生させるように伝える。
純粋なマドレーヌ夫人に、心からの感謝を受けるのは、元気になってからの方がいい。
ローズに「1つ貸しだよ」と告げて、魔王を引きずって帰っていった。
カヌレ達は、今度こそマドレーヌを連れて、家に帰ることが出来たのだ。
いつも読んでいただきありがとうございます!
続きます。