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侍女が王弟殿下に助けを求めるのはとても大変です

「公爵令嬢と男爵子息のやりなおし」の続編です。侍女ローズが何者?とのコメントをいただきました。それで、ローズが活躍するお話を書かせていただきました。侍女ローズや王弟殿下の校長先生との関係が出てきます。


よろしくお願いいたします。



  

「あああ…!!マドレーヌ!間に合わなかった…!」

「うわあああああ…!!マドレーヌ様…!!」




「どうしてこんなことに…!?守護魔法は完璧だったはず………」



 荒れ果てた魔の森で、魔王との全ての戦いが終わった。

 最愛の妻マドレーヌ夫人の亡骸を抱きしめて、夫のドボルドー侯爵様は泣き叫んだ。

 マドレーヌ様が大好きで、自称ファンクラブ会長モブエーは、地面に突っ伏して慟哭した。

 そして、マドレーヌ夫人専属侍女ローズは、絶望の中で必死に冷静さを保とうとしていた。




 かつて勇者に倒された魔王が、長い年月を経て復活したのだ。

 そして、魔王のいる魔の森で、魔物のスタンピードが起こった。

 侯爵であるカヌレ・ドボルドー侯爵は、連日連夜王宮に泊まり込み、対策に追われていた。

 そんな時に、マドレーヌ夫人が魔の森へ飛ばされる事件が起こった。

 侍女ローズは、たまたま休暇を取っていて、隣国で友人と会っていた。

 邸宅にも、マドレーヌ本人にも、何重にも守護結界を張り巡らせていた。

 それなのに、家に居たはずのマドレーヌ夫人が、魔の森に飛ばされた。

 そのことに気がついた時は、もう手遅れだった。

 モブエーは近所に住んでいて、マドレーヌ夫人の危機を知って駆けつけたのだ。

 彼らは、国の騎士団達と力をあわせて魔王を倒し、彼女の元に駆けつけた。

 しかし、間に合わなかった。

 彼女は、魔王に心も体も壊され、亡くなってしまっていた…。






 私ことローズは、マドレーヌ様のご遺体を清めていた。

 そして、彼女のお腹の違和感に気づいた。

 彼女にかけられている守護魔法が、なぜかお腹に集中している。

 守護魔法の中心には、赤ん坊の気配があった。

 夫人は守護魔法を、お腹にいる子どもへまわしたのだ。

 おそらく亡くなる最後まで………。

 魔王に子どもの魂を蹂躙されないように。


(…なんて、マドレーヌ様らしい…。母体が死んでは意味がありませんよ。あいかわらず後先考えていない。

お可哀想に…痛かったでしょう。哀しかったでしょう。苦しかったでしょう…)


 ローズの瞳から、涙が溢れた。

 夫人の痛みと苦しみを想うと、体が震える。

 ドボルドー侯爵が、天を仰ぎ泣き叫ぶ声が聞こえた。


「神よ!!もう一度奇跡を起こしてくれ…!!マドレーヌを取り戻させてくれ!

お願いです!時間が巻き戻れば、今度こそマドレーヌを守り抜いてみせる…!」

 

 私は、それを聞いて決意した。

 このままではいけない。こんな事態は受け入れられない。

 打つ手がある。それならば行動するだけだ。

 自分は、神ではないが。

 私は魔術士でもある。

 記憶を持ったまま、特定の人物の時間を巻き戻すことができる。

 今は緊急事態だ。

 魔術士であることは秘密にしていたが、秘密を明かしても、この事態を変える価値はある。

 夫人を、亡くなる前に救出しなければいけない!

 そして……もっと強力な手を打たなければ、救出は間に合わないだろう。

 


「そうですね。やりなおしましょう!たとえ、魔王より酷い男の手を借りることになっても…!!!」






 私は、カヌレ侯爵とモブエーさんに歩み寄った。

 最高魔術『時戻し』を展開する。

 カヌレ様とモブエーさんの記憶を残したまま、時を巻き戻した!








★★★★★





 隣国のサルミアッキ王立学園は、ボルドー侯爵夫妻とモブエー達、そしてローズの母校だ。

 学園の校長室には、リコリス校長がいた。

 彼は、王弟殿下でもある。

 リコリス校長は、上機嫌で長い髭を剃っていた。

 年齢不詳に見える彼だが、髭を剃って長い銀髪を後ろに一つに束ねて、動きやすい服に着替えると、うっとりするような絶世の美青年になった。

 深い森のような緑の瞳、水面にきらめく光を思わせる銀髪、天使のように慈愛に満ちた顔立ち、心が溶けそうな笑顔を浮かべている。

 教頭が、ノックをして校長室に入ってきた。

 教頭は、輝くブロンドに紫紺の瞳のセクシー美女だ。

 リコリス校長を見ると、艶然と微笑んで彼に話しかける。


「あらあら、どうされました?校長先生もついに婚約者を探すおつもりになられたのかしら?皇太子になられたことだしね」

「婚約者かあ。兄上がうるさいんだよね。ワシに相応しい女性は、かつて断トツでトップの卒業したローズ君くらいなのにね」

「ローズ先輩!懐かしいわ。帰ってきてくれないかしら!私も仕事が楽になるのに!」

「彼女には侯爵位をあげたのになあ。彼女の研究成果をいくつかワシのものにしただけなのに…、怒って出ていっちゃった」

「それは怒りますよ、普通に…」


 物騒なことを、2人は談笑した。

 マドレーヌ夫人の侍女ローズは、学園卒業後、リコリス校長の元で仕事をしていたことがあった。

 教頭とも、顔見知りだった。


「ああ、そうだ。教頭先生。最高級の茶葉でお茶の用意をお願いするよ。もうすぐ客が来るはずだ」

「まあ!王様がいらっしゃるの?」

「兄上だったら、二流品でいいよ。どうせ味も香りも分からん。大切な客人だ。…侮られると困るからね。丁寧に接したい」

「あらまあ、分かりましたわ。でも兄王様をもっと労わってさしあげてくださいね。胃に穴が空いて、禿げ上がってしまったそうですわ。働いてくれなくなると、困りますからね」

「それもそうだなあ。やれやれ!弟は辛いよ。兄上を立ててあげなきゃね!ワシはいい弟だから」

(ストレスの9割は校長先生だと思いますが…)

 

 教頭は優雅に微笑んで、最後の言葉を飲み込んだ。

 彼女は、リコリスが子どもの頃から兄の弱みを握り、要求を飲ませているのを知っていた。

 しかも王宮は、天使のようなリコリスに、皆メロメロなのだ。

 彼が髭を伸ばして年齢不詳な姿をしたのも、校長らしさの演出の為に面白がっているだけだ。

 彼女は、お茶の用意をするために、部屋を出て行った。



 彼女が校長室の扉を閉めると、扉の前にローズが現れた。

 魔術で転移してきたのだ。

 ローズは、苦虫を噛みつぶしたような表情をしている。

 突然現れたローズに、リコリス校長は驚かず、魅力的すぎる笑顔を浮かべている。


「…どうも」

「…来ると思っていたよ」

「……話が早くて助かります」

「ワシと『やりなおし』をしたいんだろう?」



 ローズは、リコリス校長の言葉で状況を把握した。

 こいつを地獄に叩き込めたら、どんなに楽だろうと思った。

 リコリスも、時間を遡ってきたのが分かったのだ。

 おそらくマドレーヌ夫人が亡くなった事を知ったリコリスは、ローズが時を戻し、助けを求めに来る事を予想したのだろう。

 行動を読まれたことは、面白くはない。

 それ以上に、自分の開発した最高魔術『時戻し』を盗まれて使われたことが分かり、腹が立った。

 極秘にしていたのに…!気分がいいわけがない。

 しかし…、今は時間がない。

 仮に、彼を地獄に叩き込んだとしても、笑顔で戻ってきそうだ。

 そういう男なのだ。

 彼は、希代の天才最高魔術士だ。

 無駄なことに労力を割くのは、私の好みじゃない。



「…これを見てください。マドレーヌ様が持っている魔石とリンクさせた物です」


 ローズは、6個の魔石がはめ込まれた魔道具をリコリスに見せた。

 その中の1個が、粉々に砕けていた。


「これは…?」

「マドレーヌ様は、今、魔石を使って魔王から身を守っておられます。石の力を使い切れば、石は砕けます。おそらく後50分ほどしか猶予はありません」

「それで………ワシが働く対価は?」


 リコリスは、優美に微笑んだ。

 マドレーヌ夫人は、魔王の元にいる。

 魔王の魔力の影響で、これ以前に時戻しできなかったのだ。

 マドレーヌの命がかかっている緊急事態に、リコリスは平然と対価を求める交渉をしてきた。

 ローズは、怒りで一瞬手が震えたが、冷静に努めた。

 動揺を見せたら、この男につけ込まれる。

 悪魔は天使の顔をして現れるというが、まさにその通りだと思った。


「…魔王の体でどうですか。欲しがっておられたでしょう?いくらこき使っても、魔力の尽きない下僕を」

「無尽蔵の魔力持ちなら、今目の前にも1人いるがね」


 リコリスはからかうように笑った。面白いのだろう。

 くだらない会話を続けている間にも、2個目の魔石にヒビが入った。

 ローズは焦った。

 ……この手だけは使いたくはなかった。

 しかし、この男を早急に動かさなくてはならない…!




「……………マドレーヌ様が」

「ん?」

「リコリス校長大好きって、言っておられました。リコリス様のおかげで愛する夫と結婚できた、と。校長先生はカッコよくて強くて、ス…ス…ステキな素晴らしいお方だと。リコリス様にお会いして感謝を伝えたいと…毎日のように………」





 リコリス校長は、勢いよく立ち上がった!!

 ローズは言いたくない言葉を言って、目が死んでいた。


「何をしているんだね!ローズ君!急いで救出に向かわなければ!

…ああ。教頭先生!今日のスケジュールは全てキャンセルだ!お茶は、君が飲んでくれたまえ!急ぐぞ!ローズ君!」


 お茶を用意した教頭が、ノックをして校長室の扉を開けたのだ。

 リコリスは教頭にそう伝えると、ローズの近くに駆け寄る。


 ローズは心の中で、マドレーヌ夫人に謝罪する。

 リコリス校長は、褒められるのが大好きだ。

 お人好しで、リコリスお気に入りのマドレーヌ夫人に褒められるのを、彼は心から喜ぶ。

 リコリス校長に素早く動いてもらうには、この手しか思いつけなかった。

 救出できた時は、瀕死であろうマドレーヌ夫人。

 そんな彼女に、リコリス校長を死ぬ気で褒めるというミッションを背負わせてしまった。

 ローズは申し訳なくて、眉間に皺がよる。




「え!?ええっ!?ローズ様!?ずるーい!私もローズ様とお話したかったのにぃ!」


 教頭は、ローズを見て叫んだ。

 彼女は、美しく優秀な者が大好きで、愛でたくてたまらなくなる。

 ローズは、目立たないように地味な格好をしてはいるが、素晴らしい美人で超絶優秀なのだ。

 教頭とローズはかつての同僚で、よく知った仲だったのだ。

 

 







 ローズとリコリスは、校長室から隣国の魔の森へ転移する。

 全てをやりなおすために。

 

 

 



 

続きます。

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