第4話 ヴァンダル?ヴァンドル?バンドル?あれなんだっけ?
時間はもう6時を回っていた。
「さ、暗くなってきたし帰りましょ」
「そうですね。帰りますか」
そう言って歩き始めた。これから向かうは駅だ。俺はここの最寄り駅から1駅離れた田無という駅に住んでいる。1駅で済むのだからとても便利だ。
「先輩はどこに住んでるんですか?」
「私はねー大泉(学園)よ」
「大泉って確か池袋線でしたっけ?遠いっすね」
大泉といったら個人的には映画館のイメージしかない。あと映画とかの撮影所があったかな。
「そうでもないわよ。30分くらいでついちゃうし。別に不便じゃ…」
先輩は途中で話すのをやめた。と同時に歩く速度を緩めた。先輩は商店街の電気屋さんのテレビに目を向けていた。
「どうしたんです先輩?」
「いや、テレビにAlicEが出てたからさ」
「AlicE…って誰です?」
「えぇ!?知らないの?今超人気のアーティストよ!?」
へーそうなんだ。テレビ見ないから全く知らなかった。
「あ、そんなに有名なんですか?」
「しかも何って年齢はあなたと同じ17歳なのよ!すごくない?」
「それはすごいっすね」
『―――――――――♪』
俺らと同じ年齢でプロはすげぇな。でもそういう人たちっていくらでもいるし、俳優とかも若い人多かった気がする。
家に帰ってから調べたが、AlicEとは17歳の女子高校生アーティストのことで、有名な音楽集団がプロデュースしており、トランス系、アニソン系などをベースにしている曲が多く、10〜20代にとてつもない人気がある、らしい。
「と言ってもあっちはジャンル的に言えばトランス寄りだから私達とは逆かもね」
逆ってどういうことだ?それは僕らがバンドだからだろうか。
「逆ってどういうことです?」
「だって私達ロックをやるのよ?ジャンル逆だと思うのだけれど」
あ、俺らロックやるんだ、と理解した。
「ロックと言ってもメタルとかV系ではないから安心してね」
「先輩…それ俺以外に伝わらないと思います…」
「いいのよ、誰か一人にでも伝わっていれば」
そんな言葉に俺は苦笑いしてしまった。なんとリアクションすれば良いのかわからなかったからだった。
また俺らは普通の速度で歩き始めた。改めて考えると商店街はいろんなお店があって面白い。左にはお菓子屋、少し進んだ先の右にはドラッグストアがあり、商店街を抜けたら駅のロータリーがある。他には文房具屋だったり、中華料理屋だったり、少し特殊な店もあったりする。この光景が懐かしく感じるのはなぜなのだろう。
駅につき、ホームに行くと新所沢行きの黄色い電車が到着していた。
「じゃあ名取くん、また明日学校でね」
「はい。ギターありがとうございました」
「そっちもメンバー集め頑張ってね。それじゃ」
そう言って先輩は到着していた黄色い電車に乗り込んだ。発車メロディがなり車両のドアが閉まる。閉じたドアの窓から先輩はニコリと笑ってこっちを見ていた。何故か俺は発車した電車を見えなくなるまでずっと見ていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
家についたのでドアを開ける。
「栞、ただいま」
「おかえり兄貴。もう夜ご飯できてるよ」
「げっ」
「ん?なんか言った?」
「い、いやなんでもねぇよ」
栞は料理があまり得意ではない。過去にはホットケーキを説明書通りにやったのに黒焦げにしたことがある。料理をすることは好きだが得意ではない、というのが俺の妹だ。
「今日のご飯はオム…ライ…スです…」
「いやなんで敬語なんだよ」
「よ、よくわからない」
思ったとおりだった。普通オムライスは黄色いはずなのにこのオムライスは真っ赤だ。そしてそのオムライスと同じくらい栞の顔は真っ赤になってる。
「とりあえず食べようぜ」
「う、うん」
「「いただきます」」
まず一口目。スプーンでオムライスの端を掬う。そして口に運ぶ。あれ?
「意外と美味い…」
「じゃ、じゃあ私の腕が上がってきたんだね!」
栞は両手をテーブルにつき、身を乗り出して言う。なんだろう、この赤いのはケチャップなのか…すっごくトマトの味がする。ライスはチキンライスで若干赤い。多分こっちにもケチャップを入れたんだろう。でもチキンライスにケチャップを入れるのは正解だな。
意外とうまかったので普通に完食できた。
「「ごちそうさまでした」」
なんとなく冷蔵庫を開けると卵がきれてることに気づいた。時計は8時を回っていた。めんどくさいけど買ってくるか。
「ちょっと卵買ってくる。なんかほしいもんあっか?ないな。よし、いってきま…」
「団子とわらび餅買ってきて!」
「…わかったよ。いってきます」
「いってらっしゃーい」
栞の声が聞こえなくなるのと玄関のドアが閉まるのはほぼ同時だった。
「よし、行くか」
気合を入れ、エレベーターで下に降り、スーパーに向かう。夜は車は多いが人は少ない。
歩いて数分近くのスーパーについた。結構近いから本当に便利だ。
「えっと卵はっと…」
ポッケに手を突っ込みながら歩いて卵を探しているとよく見知った人がいた。
「あ、石森じゃん」
「そのアホ面は祐介か」
「悪かったなアホ面で!」
石森が俺のことを下の名前で呼ぶ時は俺が栞といるときだ。多分栞がいると思って下で呼んだのだろう。
「今日は栞来てないぞ」
「なーんだ栞ちゃんいないのかー」
「栞は渡さんからな」
「このシスコンが」
「シスコンじゃねぇ!」
こんなことを日々話して笑っているのがすごく楽しい。
「ただな、石森。一つだけ言いたいことがある」
「なんだ?」
石森は首をかしげる。
「お前がやってみたいっていうから貸した喫茶ス○ラいつ返ってくるんだぁぁぁ!!!」
そう俺が叫ぶと石森の顔から汗が垂れる。数秒黙り、石森が口を開く。
「と、とりあえず、買い物ちゃっちゃと終わらせようぜ…」
周りの視線が全てこちらに向いていた。俺はとてつもなく恥ずかしくなった。
「あ、あぁ卵買ってくるから10分待っててくれ…」
ちゃっちゃと買い物を終わらせ、外で待ってる石森の元へ行く。石森は道路付近の柵に腰を掛けあくびをして眠そうにしている。
「そういや祐介」
「なんだ突然」
「川澄先輩の情報を手に入れたぞ」
「へー、でどんな情報?」
先輩のことをを少しくらい知ろうと思い、石森に聞き回ってもらっていたのだ。こいつは情報通という訳では無いが、顔が広いので色んな人に話が聞けるのだ。
「川澄先輩はな…」
ゴクリ、と息を呑む。少し間をおいてから石森は口を開いた。
「MMORPGと泣きゲーが好きらしい」
「………」
しばらくの沈黙の後。
「はぁ!?あの人趣味あんのか!?」
み、見えない。あの人の人物像が。突然バンドをやりたいとか言ったり、急にギター買ってくれたり、実はMMORPGと泣きゲー好きでしたとかよく分からなすぎる。
「まぁいいや、ありがとな」
「またのご利用をお待ちしてますよっと。それじゃあ伝えることも伝えたし帰るわ」
石森はよっこらせと立ち上がり、
「じゃあまた学校でなー」
と手を振りながらこちらに背を向けて歩き始めた。
「よし、俺も帰るか」
歩き始めたときなにか忘れている気がしたが気にせず帰った。
「ただいまー」
家に帰ると栞はテレビを見ていた。見ているのはよくわからないアニメだった。
「あーおかえり兄貴」
「そのアニメなんていうんだ?」
と俺はテレビを指さした。
「ん?あーこれ?A○IA1期」
なんか聞いたことある気がする。
「緋弾のやつ?」
「ちがう!全くちがう!ガ○ダムとワ○ピースくらいち が う !」
なんか怒られた。
「そういや兄貴、団子とか買ってきた?」
あっ。忘れてたのそれか。
「あ、すっかり忘れた。ごめん!」
と手を合わせるが、栞の体はぷるぷるしてる。嫌な予感。
「許すかクソ兄貴!!!!!!!!!」
「悪かったって!許して〜」
リビングでおいかけっこをする兄妹。こうしてまた夜がふけていく。