2章28話 ブロードビーン街の英雄(前編)①
"そら豆食堂"
主人公の祖母、アマネが創業した庶民向けの料理店である。アマネの娘にあたるヒイロの母は、彼がずっと幼い頃に事故で亡くなっている。それからは父アジロウと二人暮しをして過ごしていた。片親といえど平穏であった。
一人で食堂を切り盛りしていた祖母のアマネが病で倒れるまでは。
退院後、自分はまだ働けるからと店を再開した先でボヤ騒ぎを起こした。火をつけたまま食材の買い物に出かけようとしたところを常連が気づいて止めたのだ。医師によると、病により脳機能が急速に低下していっているのだという。
塩と砂糖を間違えるくらいの可愛いものならまだしも。
この状態のアマネでは店を経営することは困難であると考えたヒイロの父は、彼女をなんとか説得し、そら豆食堂は営業を休止することとなった。
小さなそら豆食堂だ。店主がダウンしたままになってしまえば店は廃業にするしかない。
お茶目で気取らない人柄と美味しい料理はもう二度と見ることはできないのか。常連客の多くが、少しずつ記憶を失っていくアマネ婆と休業のビラを貼ったままのそら豆食堂の行く末を悲しんだ。
一番ショックを受けたのは孫であるヒイロだった。
母を失い、そら豆食堂の常連客たちに可愛がられて育ってきたヒイロにとって、"そら豆食堂"が実家の味だ。
アジロウは祖母の入院見舞いのたびに泣く我が子を見ながら運命を歯がゆく思った。
現実は残酷だ。
こんなに幼い子供から母を奪い、祖母の記憶や思い出の店まで取り上げようと言うのか。
そら豆食堂は、アジロウとヒイロの母ソノが出会った場所でもあった。
"この子のために自分は何ができるだろうか?"
"この状況をなんとかできる人間は、自分しかいないのではないか?"
祖母のため、亡くなった妻のため、復活を心待ちにしてくれるお客様のため、自分のため、そして何より息子のヒイロのために父のアジロウが立ち上がる。
料理が得意なわけでも勝算があるわけでもない。
あまりに現実的でない選択だ。
それでも、自身が得意としていた営業というフィールドを捨て、食堂の店主として旗を構えることに決めた。
周りにも止められたが、アジロウは自分の営業力に自信を持っていた。どんな商品も熱心に研究をし、自ら試して理解をすることでお客を納得させてきたし、新しい商品の企画を作ればすぐに売れた。
それに今までどんなことも乗り越えてきた。
ヒイロも自分が選んだ選択を喜び、力になると言ってくれた。これ以上ない応援だ。
経営も安定させることができる、なんとかなる。
楽観する二人の行く手には、二つの大きな落とし穴が待ち構えていた。
こちらテスト中です。
実施するかどうかはうまくいってから決めようと思います。