七十五話 討伐クエスト。
「ふぅ……【エアートルネード】」
リナリーが風属性の魔法【エアートルネード】を唱えると共に、手裏剣を投げる。すると、手裏剣が回転したままにリナリーの周囲に留まった。
その手裏剣は魔法陣の光が強くなっていくにつれて、手裏剣の回転数が徐々に上がっていき、フィーンっと手裏剣が風を切る音が辺りに響く。
「行くわ」
リナリーが右手を前に突き出すと、案山子に向かってまっすぐ飛んでいく。
バスン! ドスドスドス!
案山子の頭、首、胸、腹の辺り……人間の急所に多少のブレはあるものの弾ける音ともに突っ込み、貫通させたのだ。
「ふぅー」
「すごいじゃないか」
リナリーの魔法でぽっかりと穴の開いた案山子を見てアレンはリナリーに声を掛ける。
「ふふん、そうでしょ? 私はすごいの」
「リナリーって魔法に関しては天才かもしれないな」
「む、なんか複雑な褒められ方ね。何か私に不満でもある訳?」
「いや、そういうことじゃないけど……ハハ」
「むむ、笑って誤魔化して!」
「じゃ、どんな討伐クエストがあるか掲示板に見に行こうか?」
アレンは不満げなリナリーの追及を躱すために、魔法の実技で使用された案山子を片付けに行くのだった。
リナリーとアレンは修練場を後にして、C級の冒険者が受けることのできるクエストの紙が貼り付けてある掲示板の前に来ていた。
「……どのクエストを受けようかしら」
「んー」
アレン達の前の掲示板に貼り付けあるクエストの紙にはいくつかのクエストが書かれていた。
・シェルスライムの討伐。
・ロックヘッドボアの討伐。
・庭掃除。
・ダンスリーフの討伐。
・猫探し。
「C級の冒険者になって討伐系のクエストが増えたのは良いわね……って地味に庭掃除や猫探しが混ざっているけど」
「まぁ、それはD級もC級も冒険者ギルド的には実力はあまり変わらないって認識なんじゃない? 実際に今でも俺達は指名クエストで草刈りしている訳だし」
「……そうね。私達っていつまで草刈りやる羽目になるのかしらね?」
「それは……俺達よりもD級の冒険者で熱心に草刈りをする人達が出てくるまでじゃない?」
「出てくるかしら?」
「さぁ」
「そうなると、私達の草刈りの呪いは当分祓えないのかしらね」
「まぁ、俺は楽かつ安全に金がもらえる草刈り……清掃系のクエストがメインの冒険者でもいいと思っているけど」
「それは絶対に嫌よ。私」
「えー」
「それに私達の目標を決めたでしょ? 忘れたの? 目指すは飛翼なのよ?」
リナリーは何を言っているのよ? 的な表情でアレンへと視線を向ける。対して、本当に心当たりがないのかアレンは腕を組んで首を傾げる。
「いや……いつ決まったんだ?」
「何言っているの? 最初に決めたじゃない」
「……そうか? そうだったか?」
「そうよ。それで、何のクエストを受けようかしら?」
「んー、一番難度が高そうだけど、ロックヘッドボアの討伐かな? 先の魔法を試したいんだろ?」
「そうね。けど危険かしら?」
「どうだろう、ロックヘッドボアの詳細は……」
アレンはロックヘッドボアの討伐が記載された紙を手に取った。その紙にはロックヘッドボアの詳細な生態が書かれていた。
その紙によると、ロックヘッドボアはC級の魔物。
討伐完了を確認する部位は耳。
買取可能な部位は魔石と長い牙、肉、毛皮。
生息地はユーステルの森にあるベツラム山の麓あたりの密林。
一メートルくらいの大きさで、普通の猪と大きさはそれほど変わらない。
ただ、頭部の形が特徴的で、黒く固い出っ張りがあって……突進して激突すると、岩も砕くと言われている。
頭はそれほどよくないため、罠に嵌めるのが一般的。
「このロックヘッドボアはC級の魔物か……強いのかな?」
ロックヘッドボアの討伐が記載された紙を見据えながらアレンは呟いた。
「どうかしら……やっぱり危険?」
「かな? じゃ、別の魔物に変えるか。それとも、とりあえずクエストを受けずにロックヘッドボアを見に行く?」
「え?」
「いや、クエストを受けてから倒せませんでしたって言うと、低評価が付けられちゃうだろ? だから、クエストを受けずにロックヘッドボアを見に行って、それで討伐できそうなら、討伐して……帰ってきてからクエストを受ける。できそうになかったら、普通に薬草とか採取しつつ帰る」
「……それはありかも。冒険者にとってクエストの評価は重要だし。わかったわ。そうしましょうか。それで、予定はどうする?」
「んー悩むところだ。今は昼前……生息地はユーステルの森にあるベツラム山の麓あたりの密林……確か下級の魔物がこの周辺に居るんだっけ? 徒歩で三時間くらい往復では六時間かな。偵察だけなら行けなくもない……のかな?」
「……明日以降にしましょう? よくよく考えたら、私達魔物の領域に入っての討伐クエストは初めてじゃない。不測の事態があるかも知れない」
「そうか、リーダーに従うよ」
「じゃ、いつにしましょうか? アレンは明日来れる?」
「あぁ、問題ないよ」
「じゃ、明日に備えて食料などの買い出しに行きましょうか?」
「わかった」
リナリーの問いかけにアレンは頷く。アレンとリナリーは二人揃って冒険者ギルドの掲示板から離れようと歩き出した。
そこで何か思い出したのかアレンが不意に立ち止まる。
「アレ? 講習会で魔物の領域に入ってのクエストを始めて受ける時って、上位の冒険者が指南役として着くんじゃなかったけ?」
「あ」
「忘れていたね。実際にまだ受けないで偵察とはいえ一応報告が必要かな?」
「……」
「ちょっと、ベルディアさんへ話に行く?」
「……そうね。そうしましょう」
冒険者ギルドの出口向かおうとしていたアレンとリナリーであったが向き直して、受付カウンターの列に並ぶのだった。
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